岡山市の野犬対策が注目されている。捕獲を強化するだけでなく、専用施設で人に慣れさせる訓練を重ねて一般家庭に譲渡する試み。野犬は警戒心が強く譲渡が難しいとされるが、取り組みを始めて3年で57匹が引き取られた。9月には、俳優川島なお美さんの遺言により創設された「川島なお美動物愛護賞」を全国の自治体で初めて受賞した。一方で訓練後の譲渡先確保や訓練を担うボランティア不足といった課題もある。
池田動物園(同市北区京山)の一角にある訓練施設「ZOOねるパーク」。現在、野良状態が長かった成犬13匹がボランティアの指導を受ける。保健所内で訓練するケースはあっても、行政が専用施設を整備するのは全国でも珍しいという。
「人を怖がって攻撃的だった犬も信頼関係ができれば見違えるようになる」と訓練士の小田兼司さん(51)。最初は首輪を付けられなかった犬も、数カ月で散歩ができるようにまでなるという。
“丸投げ”反省
取り組みの背景には「保護した野犬を愛護団体に“丸投げ”していたことへの反省がある」(市保健所)。
2013年施行の改正動物愛護法は自治体に犬猫の譲渡、返還に努めるよう定めた。しかし全国的に動物愛護団体に引き渡すだけで後は関与しない自治体が多いという。
市は愛護団体への過度な負担を減らそうと20年8月に訓練施設を新設。これまで野犬の成犬70匹が訓練を受け、8割が新たな飼い主に引き取られた。
枠組み整備とともに捕獲数もペースアップ。従来は子犬も含め年間100匹前後だったが、20年度は169匹、21年度192匹、22年度は204匹と右肩上がりに増えている。
川島なお美動物愛護賞は、動物愛護に貢献した個人・団体を17年から毎年表彰しており、今年で7回目だが、「ワンダフル・行政賞」の適用は岡山市が初めて。事務局によると、野犬問題が犬の殺処分をゼロに近づけていくための最後のハードルとされる中、行政自ら訓練に乗り出し、収容したすべての野犬を直接、一般の飼い主に譲渡する体制を整えたことが評価された。
常に満杯状態
課題も見えてきた。
収容数が譲渡数を上回る状況が続いており、施設は常に満杯状態。人に慣れても新たな飼い主が見つからず、保護が2年以上続くケースもある。さらに、訓練を手伝う人手も慢性的に不足している。
市は本年度、従来の3倍近い約3千万円の予算を確保。譲渡の機会を増やすため月1回の譲渡会以外に随時見学を受け入れ、10月にはボランティア養成講座も初めて開催する。
市内には数百匹の野犬がいるとも推測される。市保健所は「訓練した野犬を短期間で譲渡できる体制を整えたい」としている。