莫大な経済援助で覇権狙う中国 新たな“地政学的戦場”となる南太平洋

治安 太郎 治安 太郎

南太平洋が新たな地政学的戦場になっている。南太平洋の島国ソロモン諸島のソガバレ首相は9月下旬、国連総会の一般討論演説で長年同国を経済的に支援する中国を支持する姿勢を強調し、福島第一原発の処理水放出について日本に強い不満を示し、もし処理水が安全ならば日本国内に保管されるべきだと批判した。

処理水放出から既に1カ月が経過するが、これまで日本産水産物の輸入を全面的に停止した中国を支持する声はほぼなく、ロシアや北朝鮮、そしてこのソロモン諸島など一部の国に限られる。しかし、ソロモン諸島が中国支持の立場を明確にすることは単純な理由で、長年お金で支援してくれるが、国連総会などで中国の異に反する発言をすれば支援打ち切りに遭う恐れがあるからだ。

そして、ソロモン諸島は経済だけでなく、安全保障分野でも中国との関係を強化し、米国やオーストラリアなどが懸念を強めている。2022年4月、ソロモン諸島は中国との間で安全保障協定を締結した。ソロモン諸島は中国との間で貿易や教育、漁業に関する協力を深めるのが目的で、中国による軍事基地建設は提案に含まれていないとしているが、その後ソロモン諸島を訪問した米政府高官は、会談したソガバレ首相に対し、安全保障協定に懸念を伝え対抗措置も辞さない構えだと伝えた。

こういった中国の南太平洋への接近は、ソロモン諸島だけではない。支援額からも明らかだ。オーストラリアのシンクタンク「ローウィ研究所(Lowy Institute)」が以前に公表した情報によると、中国は2006年から2016年の間に、パプアニューギニアに6億3200万ドル、フィジーに3億6000万ドル、バヌアツに2億4300万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドルなど莫大な経済援助を実施してきた。それによって、南太平洋には台湾と国交を持つ国々が多い中、外交関係を台湾から中国に切り替える動きが近年進んでいる。

2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾との断交を発表し、中国と新たな国交を樹立した。今日南太平洋で中国と外交関係を持つのはパプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、ソロモン諸島の10カ国なのに対し、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国にまで減少しているのだ。中国は今後も同4カ国への浸透を続けていくことは間違いない。

バイデン政権もこういった動きに対して警戒を強めている。バイデン政権は9月、南太平洋諸国を招いた国際会議を開催し、ニウエとクック諸島を新たな国家として承認し、外交関係を樹立した。また、ミクロネシア連邦、パラオ、マーシャル諸島との間で締結してきた安全保障協定「コンパクト(自由連合協定)」を更新することを発表した。今後、北極海と同じく、南太平洋においても地政学的争いが激化することだろう。

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