近鉄は9月23日に信貴山口駅と高安山駅を結ぶ西信貴鋼索線(西信貴ケーブル)のバックヤードツアーを行いました。このツアーでは滅多に入れない運転台や巻上室を見学できるということで、筆者も参加しました。
西信貴ケーブルは全国的にも数少ない昭和30年代のケーブルカーやケーブルでは珍しい貨車が連結されているなど、興味深くレトロな要素がたくさんあります。
大阪と信貴山を結ぶ西信貴ケーブル
西信貴ケーブルは信貴山口駅と高安山駅を結ぶ全長1.3kmの路線です。信貴山口駅で信貴線(河内山本~信貴山口)に接続。高安山駅で信貴山門行きのバスに乗り換え、「虎の寺」として知られる信貴山 朝護孫子寺にアクセスできます。
西信貴ケーブルは大阪から信貴山への最短ルートとして、1930年に信貴山電鉄により開業しました。休止の時期もありましたが、1957年に復活しました。現在も信貴山 朝護孫子寺へのルートとしての役割を果たしています。
貨車もある昭和レトロなケーブルカー
西信貴ケーブルで働く車両は7号車「瑞雲(ずいうん)」、8号車「祥雲(しょううん)」です。どちらも西信貴ケーブルが復活した1957年にデビューしました。2021年にリニューアルが行われ、1987年以前の塗装を再現。昭和レトロをウリにしたケーブルカーです。前面には虎のイラストが描かれたヘッドマークを掲出しています。
車内の座席はまさしく虎づくし。また鉄道車両では珍しくなった扇風機が大活躍しています。窓も開きますから、山の空気を存分に味わえます。
ところで、西信貴ケーブルではケーブルカーに貨車が連結されています。貨車は2両あり、「コ二7」「コニ8」という形式名が付けられています。貨車の役割は高安山駅にあるトイレで使う水を輸送することです。通常、貨車は1両しか使用されず、予備の貨車は高安山駅横に留置されています。
大切に使われてきた運転台と巻上室の機器
運転台と巻上室は高安山駅にあります。西信貴ケーブルでは運転室からボタンを押すことで運転を行っています。つまり、ボタンひとつで出発から停止まで全自動運転というわけです。
運転台にはケーブルカーの位置を示すインジケーターがあります。高安山駅には7号車「瑞雲」が停車しているので、高安山駅の上に「7」と書かれた札があります。運転台にはアナログな計器が並び、昭和を感じさせます。
ところで、1号車から6号車はどこにいるのでしょうか。近鉄は西信貴ケーブルの他に生駒ケーブルを運行しています。1号車~6号車は生駒ケーブルで活躍し、このうち3号車・4号車は最古のケーブルカーとして現在も現役で働いています。その他、1号車・2号車・5号車・6号車はすでに現役を退いています。
巻上室では実際にケーブルカーを動かします。人間の頭にあたる制御装置でモーターを動かし、ケーブルカーをコントロール。モーターで滑車を回し、ロープを動かします。イメージとしては井戸の水くみに似ています。日本のケーブルカーはこの水くみ式を採用しています。
当然のことながらケーブルカーを止めるブレーキも装備。通常時は空気ブレーキ、非常時は重錘ブレーキを用います。巻上室の機器も年季を感じさせ、大切に使われていることがよくわかりました。
高安山駅前に残る幻の山上鉄道のホーム
最後に高安山駅に着いたら、バスターミナル横にある信貴山電鉄の山上鉄道線高安山駅ホーム跡をチェックしてみましょう。ケーブルの開業と共に高安山駅と信貴山門駅を結ぶ鉄道線が開業しましたが、こちらは復活せず、そのまま廃止されました。休止したのが第二次世界大戦時ですから、現在も遺構が残っていること自体が驚きです。
西信貴ケーブルはいろいろなレトロなものにあふれ、ちょっと昔にタイムスリップしたような感覚になります。難波から約40分でアクセスできるので、休日の気軽なお出かけ先として訪れてみてはいかがでしょうか。