極めて卑劣「生殺与奪の権」を握る者からの性被害…実は社会にあふれている ジャニー氏の性加害で豊田真由子「広く目を向ける契機に」

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

ジャニーズ事務所の今後

これまでの経緯にかんがみれば、ジュリー社長はじめジャニーズ事務所は、今回の外部専門家による調査報告書の提言に全面的に従うつもりだろうと思います。

同族経営の弊害を取り除くという提言に従い、ジュリー氏は社長を辞任するでしょうが、被害者の方々の「ジュリー氏の社長辞任を求めない。責任を全うし、被害者と向き合ってもらいたい」という声もある中で、「被害者救済に取り組む」という関与は続けるべきだと思いますし、ジャニー氏の姪・メリー氏の娘であるジュリー氏にしかできないことがあると思います。重要なのは、関わりを持ち続けるとしても、それは決して権力を保持するためではなく、あくまでも、被害者救済のために行う、ということだと思います。

ジャニーズ事務所は、取締役会や内部通報制度など、報告書で示されたガバナンスやコンプライアンス体制について、厳格なシステム面からの構築と、関係者一人ひとりの意識の面からの根本的な変革とを、同時に着実に行い、再生を図らねばならないと思います。

マスメディアの沈黙も、被害を持続・拡大させたと指摘されました。米英韓などでも、エンタメ業界における性被害が、大規模で深刻な問題となっていますが、誰を起用するかについて、客観的な基準が存在せず、起用されたい人はたくさんいて、そして“美”が重視される世界であるが故に、そうした危険が生じやすいのだろうと思います。業界全体の問題として、根本的に構造を変えていく必要があると思います。

なお、最近のマスメディアの対応を、「手のひら返し」とかいった指摘もありますが、「過ちては改むるに憚ること勿れ」で、なにがどうして、こうなってしまったのか、そうした風土をどう変えていけるのか、本気で考えることが、今求められていると思います。

被害者救済についての論点

報告書では、適切な補償をする「被害者救済措置制度」を構築して、被害者との対話を開始する、外部専門家からなる「被害者救済委員会」を設置し、補償の要否、金額等を判断するという提言がなされています。

通常は、損害賠償請求を求める民事裁判によって、行為や責任の認定、賠償額の決定等が行われるわけですが、被害者救済の観点からは、訴訟手続きを経ずに、速やかに補償を行えるこうした仕組みを構築することは望ましいことと思います。

密室で行われる性加害は立証が容易ではなく、特に今回は時間が経過していることもあり、法律上の厳格な証明を要求することは、被害者に過重な負担を強いるおそれがあります。また、消滅時効の問題もあります。(もちろん、司法の場ではっきりさせたい、ということで、刑事・民事の訴訟を提起する権利は当然あります)

刑事告訴という話もあるようですが、一般的に、被疑者がすでに死亡している場合は、捜査の上、書類送検がなされ、被疑者死亡を理由として不起訴処分となり、刑事裁判は行われません。それでも、うやむやにしないという意図を明確にするためや、あるいは、他にも性加害を行った人物がいるような場合には、当該加害者について立件の可能性はあります。(なお、性犯罪を巡る刑法の条文は、近年改正が重ねられてきており、親告や時効の考え方などが変わっていますが、法律は、あくまでも、行為が行われた時点のものが適用されます)

ただ、金銭による補償を受けたところで、被害者の受けた心の傷は消えませんし、人生は取り戻すことができません。性加害が、どれほどか酷く、被害者の人生を根底から壊してしまう取り返しのつかないものであるか、ということを、改めて強く認識することが大切だと思います。

さらに、過去に被害を受けたけれども、名乗りを上げられない・上げたくない人もいる、ということに、深く思いを致す必要があると思います。こうしたことからも、ジャニーズ事務所で活動をしていた・しているからといって、偏見や差別的取り扱いをするというようなことは、絶対に避けねばならないと思います。

所属タレントの今後

ジャニーズ事務所の所属タレントの方々を、今後番組やCMで起用するかという点について議論があります。

今回の件は、例えば、製品の産地や賞味期限、安全基準等を偽った、談合や贈収賄などの不正があったといった、通常の企業の不祥事・犯罪とは異なり、被害者は、消費者ではなく、事務所の若手タレントであった方々で、現在活動している所属タレントは、ジャニー氏の行った加害やそれに関する事務所の不作為に関して責任はありません。

「ジャニー氏が性加害を行っていたことを、所属タレントは知っていたのではないか」という指摘がありますが、仮にそうだとしても、それは、被害者や周囲のJr.の方々が、被害に遭っても、あるいは、被害を知っていたとしても、ジャニー氏に「正殺与奪の権」を握られている以上、とても言い出すことはできなかったということと、基本的には同じ構図であり、そうしたことについて、タレント側に責めを負わせるべきではないと、私は思います。

今後もジャニーズ事務所で活動を続ける、あるいは、移籍や独立といった選択を取る場合であっても、いずれにしても「ジャニーズ事務所に所属をしている・していた」ことを持って、差別的な取扱いをすることは、(実際に被害を受けていたかどうかは別にして)被害を受ける側・弱い立場にあった人々を、まさに不当に苦しめることになるといえるのではないでしょうか。

ただし、一方で、その企業のトップが、保持する絶対的な権力を悪用して、長年に渡り、多くの未成年者に対し性加害を行っていたという事実、そして、その企業におけるガバナンスやコンプライアンス体制が機能しておらず、そのことが、被害の継続と拡大を招いていたということについて、企業の法的・道義的な責任は免れ得ないでしょうし、企業イメージの悪化は避けられないでしょう。そうした中で、これまでと同様に企業活動を行い、利益を得続けるということは妥当ではない、という意見も、十分理解できるところです。

したがって、こうした点について、事務所やマスメディアがどう対応していくのか、大きな課題を突き付けられていると言えると思います。ただし、いずれにしても、事務所の運営に携わっていたわけではない一般のタレントの方々が責めを負うべき理由はなく、周囲や社会が、偏見や差別的な取扱いをすることは、被害を受ける側・弱い立場にある人々を、更に傷付けるおそれがあるという認識は必要なのではないかと思います。

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海外メディアの報道を契機として、今まさに、日本のエンターテイメント業界は大きな岐路に立たされていると思います。多年にわたる構造的な問題を解決することは、容易ではないでしょうが、被害者の速やかな救済とともに、社会において性被害に苦しんでいる人たちに希望を与える契機にもせねばならないと思います。国民の皆さまとともに、注視していきたいと思います。

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