ツッコミどころ満載の怪談!?奈良に実在する寺社や名所が舞台 絶版本『大和の伝説』がシュールすぎるw

のっち のっち

伝説の生き物や妖怪が登場する話など、奈良に伝わる逸話を集めて昭和初期に出版された『大和の伝説』。今は絶版となっているこの本の面白さを知ってもらおうと、奈良県立図書情報館が5年前にこの本のエピソードを紹介する企画イベント『妖怪マーケット』を開催したところ、わざわざ県外からも妖怪好きが押し寄せてくるほど、好評だったといいます。

柳田國男が「日本でいちばん古い国」と記した奈良の『遠野物語』とも言えるこの書物から「どういうこと?」「なんじゃそら!」と思わずツッコミを入れたくなるお話をいくつかご紹介します。

神波多神社●狩野元信が描いた絵が動き出す!?

ひとりの旅僧が中峯山の寺に10日あまり宿泊し、神波多神社の壁に一頭の牛を描いて飄然と去っていった。それから村の稲田が何ものかによって食い荒らされるようになり、村人が調べると寺の絵が抜け出しているものだとわかった。

くだんの旅の僧を追うと伊賀上野で追い付き、牛の傍に松を描き添えて縄でその幹に繋いでもらうと、稲の被害もパッタリと止んだ。この絵師は狩野元信(法眼)であったという。

光慶寺●意図がわからないタヌキ夫婦のイタズラ

大和郡山市今井町の光慶寺には、夫婦のタヌキがいる。夜、光慶寺の東の道を通るとどこからか「チンチンコンコン、チンコンコン」とだんじり囃子が聞こえる。また西の道には袋真綿が落ちている。それを取ろうとすると、真綿はスルスルと走っていく。これらはみな、タヌキの仕業であるそうだ。

源九郎稲荷神社●キツネの花嫁さん、いらっしゃい!

大和郡山市に寺戸屋という綿帽子の店があった。ある日、ひとりの男が「代金は月末に、源九郎稲荷で支払う」と言って、婚礼の儀に欠かせない花嫁綿帽子を買った。そこで月末に代金を取りに行くと、稲荷社の人は知らないと言う。そこで押し問答をしていると、おキツネさまが従者を連れてずらりと現れた。見れば、そのおキツネさまは綿帽子をかぶっていたという。

龍田大社●蒙古襲来は大きな袋で一撃!?

龍田山(たつたやま)は、生駒山地の最南端、信貴山の南に連なる大和川北岸の山々の総称。竜田川流域にあって紅葉が美しく、万葉集に読まれた事で有名である。

元寇の時のこと。黒雲が龍田山を覆ったかと思うと、生駒郡三郷町にある龍田大社の背後から大きな袋が舞い上がって、雲の中に入ったかと思うと雲と一緒に西へ向かった。その袋が玄界灘の上で袋が破れて、大嵐となって敵の船を追い払ったのだという。

もちのき地蔵●しゃべる地蔵よりもおしゃべりな男

奈良市六条町に「もちのき地蔵」という、ものを言うことで有名な地蔵があった。ある日、男が地蔵の前でゲラゲラと笑っていたので、たまたま通りがかった警官が「なにがそんなに面白いのか」と尋ねた。

「実は私、泥棒をしてここまで来たんですが、かねてからこの地蔵は人の言葉がわかると聞いていましたので『これ地蔵さん、私が盗人したことを誰にも言わずにおいてください』と言うと、地蔵さんは『私は言わんがお前も言うな』と答えました。あまりの面白さに笑っているのです」。もちろん、男はその場で捕まえられた。

神野山●伝説なのに数字が具体的過ぎる!

山添村の他惣治(たそじ)という男がある晩、月の良い夜に涼みに出ると、30センチほどの大きな蛍を見つけた。それを捕まえようと追いかけたが、あと30センチほどのところで手が届かない。松の小枝に止まるところまで追い詰めたと思ったら、そこは神野山(こうのやま)の頂だった。

実は蛍の正体は天狗で、「こいつを弟子に」と天狗が見込み、神野山へ導いたのだった。他惣治は愛弟子となり、三日三晩、修行をした。

修行が終わって他惣治が帰ると村人は鐘や太鼓を鳴らして「他惣治おらへんか」と探している最中だった。村人は言葉遣いや姿が急に変わった他惣治を見て驚いたという。しかし、それからの他惣治は25キロ離れた奈良市街への買い物でも2時間もあれば戻ってくるし、15キロ先の伊賀上野へは半時間もかからず行き来したそうだ。それは、天狗に学んだ飛行術のおかげだったという。

神波多神社●何!?その面白い呪文

中峯山の神波多神社は毎年10月15日の例祭があり、お渡りの途中で人々が「マジャラク、マジャラク」と唱える。これはご祭神の牛頭天王がかつては名張川の釜淵に住んでおられて、今の社地に移る際に「マジャラク、マジャラクと言いながら連れて行ってくれ」と言われたからだという。

こんにゃく橋●そんな姿の幽霊になりたくない!

天理の稲葉と嘉幡の間に「こんにゃく橋」という石橋がある。稲葉にいた孫兵衛はある夜の帰り道にここを通ると、口にこんにゃくを咥えた女の幽霊が現れた。孫兵衛が必死に念仏を唱えたところ、99回目にようやく幽霊は消え失せた。
 これは、こんにゃくのことで夫婦喧嘩をして死んでしまった女の妄念が、この橋のあたりで彷徨っているのだという。たかがこんにゃく一つで幽霊になるとは……

油かけ地蔵●善意が仇となる?!

磯城郡結崎にある「油かけ地蔵」のお話。泥田にお地蔵様が埋もれていたのを村人が見つけ、引き上げてそのままお祀りしたところ、ある人がお地蔵様が汚れていて気の毒だと水をかけ、ゴシゴシ洗ってきれいにした。「これでお地蔵様もお喜びだろう」と家に帰ったその夜、突然腹痛に襲われた。あまりにも苦しむため、看病していた者が聞くと「昼にお地蔵様の体を洗った」とのこと。もしかして、それが原因か?!となり、お地蔵様の体に泥をかけたり油を浴びせたりと汚したところ、のたうち回っていた病人はケロリと治ったそうだ。

※以上はすべて『大和の伝説』(奈良県立図書情報館所蔵)の内容を読みやすくアレンジしたものです

<資料協力>
奈良県立図書情報館
住所:奈良市大安寺西1-1000
電話:0742-34-2111(代表)
https://www.library.pref.nara.jp

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