丹後の夏の幸、観光に“イカ”せるか。京都府京丹後市で「白イカ」(ケンサキイカ)を生きたまま流通させる「活イカ」事業が3年目を迎えた。5月末から7月中旬までの短い漁期を逆手に、なかなか味わえない貴重な「夏の味覚」として観光閑散期に提供する取り組みで宿泊客らに好評だ。冬場のカニと並ぶ観光資源として期待が高まる一方、入荷の不安定さや活きを保つ難しさもあり、宿泊業者からは「需要に応えることができるのか」と不安の声も聞かれる。
「活イカ」は、水揚げ後に漁船から間人漁港(同市丹後町)や浅茂川漁港(同市網野町)の水槽に放たれ、仲卸業者を通じて宿泊業者に生きたまま運ばれる。府漁業協同組合丹後支所によると、間人漁港からは27日までに計1016匹の漁獲量があり、注文に適したサイズの298匹が市内に流通した。宿泊客らに1匹約3500円~7千円で提供されている。
「透明感があり、盛り付けられても動いている活イカは客の反応がいい」。旅館「離れの宿 和楽」(同町)を経営する堀正実さん(61)は話す。両漁港のほか、15年ほど前から近くの定置網漁業者から仕入れている。専用の水槽も備え、「活イカを求め、大阪や名古屋方面から来る客も多く、予約状況はカニシーズンの3分の2ほどに迫る」と喜ぶ。
事業は、市が2021年に委託費など1500万円を充てる流通実証実験として始め、33の宿泊施設や飲食店が参加した。市によると、同年は間人漁港で2843匹の漁獲量があり、21%に当たる605匹が市内で流通した。市観光公社のアンケートでは、活イカ料理を食べた客の満足度は98%だった。
22年からは民間による事業となったが、参加業者は17に半減し、今年は21にとどまる。移送中に死んでしまうことがある活イカを扱う難しさや、22年の漁獲量が前年比16・4%の467匹(間人漁港)と激減したことなどが影響したとみられる。
初年度の実証実験に参加した旅館「昭恋館よ志のや」(丹後町)の福山勝久さん(65)は「仕入れ後に活イカが弱ると使えず、コストに合わない」と話す。現在も事業参加を続ける宿泊施設「和のオーベルジュまつつる」(網野町)の松梨善行さん(48)は「欲しい時に入荷がない場合もあり、今後の参加にためらいもある」と打ち明ける。
府漁協丹後支所の寺田直彦支所長(55)は「活イカの漁獲量は6月中旬ごろがピーク。注文が増える7月以降だと沖合が活イカ漁に適さない海水温に上昇し、漁獲量が減る」と需給の不均衡さを指摘する。
予約サイト大手に「活イカ」のPRを促すなど、旗振り役を担う市観光公社の木村嘉充専務理事(64)は観光客の期待の高さに触れ、「事業は開拓途上で、需要が増えれば冬場のカニやカキに次ぐ看板商品となりえる」と強調。漁獲量が多い6月の来訪を促し、漁協関係者に供給を増やしてもらえるよう働き掛けていく考えを示す。
丹後の魚介類と漁業について詳しい府水産事務所海のにぎわい企画課・井上太郎課長補佐の話
海水温の状態に合わせて回遊するケンサキイカは安定した漁獲は難しい。まずは減少傾向にある漁業者の確保が必要だ。付加価値の高い活イカ漁は漁業者の所得向上と人手確保の鍵となりうるし、そこから漁獲量の増加も期待できる。一足飛びにはいかないが、活イカの需要が増えて事業者の利益が生まれる好循環につなげていけばいい。