「クラフトバタースイーツ Butters」「バターステイツ」「バターバトラー」「バターサンド専門店 PRESS BUTTER SAND」「バターのいとこ」「薫るバターサブリナ」「ブール エ ブール(注:ブールがフランス語でバターの意)」「ガレット オ ブール」「ブール エ ブール」…と店名に「バター」の名前がついたブランドが続々と登場。行列ができるほど人気のお店も多く、今のヒットの秘訣は「バター」なのでしょうか? スイーツライター・いなだみほがリサーチしました。
バタースイーツの先駆けとなる、フランスの発酵バターで有名な「エシレ」による世界初の専門店が2009年、東京に登場したことが大きなきっかけだったのではないでしょうか。大阪・名古屋にも店舗を構え、人気商品であれば販売時間に合わせて列ができるほど。またパティスリー界でも、よつ葉バター、カルピスバターなど、どこのバターを使っているのか、商品説明に打ち出すなど、バターに詳しい人が増え、注目度が高まっているようです。
人気のバター菓子専門店2ブランドと、昨今のバター事情を「一般社団法人日本乳業協会」(以下、日本乳業協会)に話を聞きました。
4種のバターを使い分けるバター専門店
「バター好きが、バターのおいしさをじっくり味わうスイーツショップを作りたい」と大丸梅田店に2023年4月12日にオープンしたのがバター菓子専門店「ブール エ ブール」。「バタースイーツのお店はいろいろございますが、うちの魅力は、世界中から集めた種類のなかから厳選した3種の発酵バターとグラスフェッドバターを使っているところです」と話すのは、同ブランドの営業推進部の小嶋尚也さん。
新ブランドを立ち上げる際に、あんこ、チーズ、バターという食材が候補に上がり、なかでもバターが幅広い客層に親しまれているのではないかと判断。そして、バターの魅力が活きるスイーツを選び、フィナンシェ、スフレ、ミルフィーユ、ガレットなどフランス菓子に特化した13種を開発したのです。
フランスのフレシャール社の発酵バター、ベルギーのコールマン社の発酵バター、北海道産の発酵バター、ニュージーランドのフォンテラ社のグラスフェッドバターの4種を使い分けているのが特徴。例えばフランス・ノルマンディ地方で1946年設立のフレシャール社は、独特の風味やコクのある特徴を活かし、バターがしっかり薫る「フィナンシェ・エ・ブール」(3個972円)に。芳醇な香りが長く残り、バターの乳味も感じられ一流の料理人にも愛されるコールマン社のバターは、カップケーキ「ガトー・エ・ブール」(1個324円)に使用するなど、スイーツに併せてバターをセレクトしています。
来店客に話を聞くと、30代女性は「封を開けた瞬間のバターの風味がたまらないんです。10日間で2度来ました」と早くもリピーターに。60代女性は「昔から慣れ親しんでいた、バタークリームを使ったケーキを探していたので、嬉しいです! いただくと昔食べたものより格段においしくて」と絶賛。広報担当の樋口陽子さんは「年配層はバタークリームへの懐かしさ、若年層にとっては新鮮なようで、年齢層も幅広いです。女性への手土産用にと男性客も多いですね」と好評だそうです。
本来であれば捨てられていたかも?
「なぜバター」を主役にしたのか? バターだけでなく副産物も深掘りした株式会社HiOLIによる2020年誕生の「クラフトバタースイーツ Butters」にもお話をお伺いしました。
2022年に日本航空のファーストクラスのお茶菓子に看板商品クラフトバターケーキが採用されたことでも話題に(期間限定、現在終了)。たった3年で、東京・横浜・大阪・仙台に5店舗を構えています。
もともと同社では、「HiO ICE CREAM」というクラフトアイスクリームを製造し、「バターを使ったアイスを作りたいと、商品開発のためにバターを勉強しはじめたのがきっかけです」と代表の西尾修平さん。バターの主原料である生クリームにする過程で大量の脱脂乳と、生クリームを攪拌する過程で液体のバターミルクが発生することに着目したのです。
「そんな副産物で、おいしいスイーツを作ることが我々の強みになると考えました。本来であれば捨てられていたかもしれないものを活用するこで、次の世代に向けて豊かな自然の恵みをつなげていきたい。本来は子牛のためのお乳、それを極力無駄にしないようにしたいという思いですね」と西尾さんは語ってくれました。
ガレット・ブルトンヌとフィナンシェの間にミルクジャムを挟んだ看板商品の「クラフトバターケーキ」(3個864円)をはじめ、サブレ、バターサンドイッチ、京飴バターを展開。それらには脱脂粉乳が配合され、「脱脂粉乳はしつこさのないミルク風味が特徴。鼻に抜けるミルク感がバターの香りとあいまって、よりバターをバターらしく感じられるかもしれません」と、バターを強調させる菓子作りで人気のブランドとなっています。
バターの消費量は?
バター菓子ブランドが増えたなか、バターそのものの状況について「日本乳業協会・東京相談室」の相談員である井上紗代子さんにお話を伺いました。
「昨今のバター菓子専門店については、生活者の皆様の乳製品への関心が高まっていることと、大変嬉しく思っています」とバター人気について触れ、最近は「コロナウイルス感染症による行動制限がなくなってから、外出する方や海外からの旅行客も増えることで、業務用(バラ・ポンド・シート等)バターの消費量は増えています。一方で外出機会が増えたことで、家庭内での消費量は微減となっています」と最近は、やはり業務用のバターの使用量は増えているとのことです。
独立行政法人 農畜産業振興機構(alic)の「バター等の需給及び輸入の状況等について(2023年1月27日)」によると、2017年度は国内の生産量が5万9996トンだったところ、2021年で7万5085トンまで伸びています。また乳業メーカー13社に限ったバターの需給表によると、生産量と輸入量をあわせた消費量(出回り量)に関しては2017年度〜2020年度までは6万トン台ですが、21年度は7万トン台に。ちょうどバター菓子ブランドが増えてきたと感じるあたりとも一致しているようです。
そんなバターに注目が集まるようになった理由については、「私どもを含め酪農、乳業界の牛乳乳製品の消費拡大の取り組みによって、生活者の皆様の乳製品に関心が高まっているのではないかと感じます」と推測。生乳の廃棄問題が知れ渡ったことによって、パティシエや菓子ブランドが、牛乳を消費するために”バター”に注目したのも一因となりそうです。それが、また、だれもが知っている素材であること、バターがたっぷり使われているものは高級志向な印象があることなども影響があるのかもしれません。
もともとバターは焼き菓子に使用されるものがほとんどで、ちゃんとバターが香ってくると、私自身も幸せな気持ちに。今後はさらにバターへのこだわりが高まりそうです。また、生菓子よりも焼菓子での商品展開が多いので、賞味期限もそれなりに長く、行列ができるほど話題とあれば手土産にも重宝されるのも、さらにヒットを呼ぶ理由かもしれません。