10年で「かき氷の聖地」に 新たな観光資源へと成長したきっかけは…神社での新しい「祭」だった

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「かき氷の聖地」として広まった奈良だが、10年ほど前は遠路から奈良へかき氷目当てに行く人は稀有な存在だった。「奈良でかき氷?」と疑問を持つ人々がほとんどだったはずだ。

しかし、かき氷を提供するお店が徐々に増え続け、雑誌などでは「かき氷の聖地」と冠されるように。今や年間を通して楽しめる場所として、全国的にかき氷好きから認知されている。はたして、10年で何があったのだろうか?

かき氷の聖地となったきっかけは

盛り上がりのきっかけのひとつとなったのが、今年10回目を迎えるかき氷のお祭り『ひむろしらゆき祭』。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、過去3回休止していた神賑行事が4年ぶりに復活。全国各地の人気店が4月15日に集結する。

今回は奈良の店は実店舗で楽しんで欲しいという思いから奈良をあえて除き、東京・茨城・大分、そして初の海外参加となる台湾からの1軒を含む名店13軒が、同イベント初となる会場「奈良公園バスターミナル東棟」(奈良県奈良市)で、趣向を凝らした1日限定の特製メニューを神賑行事として提供する(奉納賛助券(チケット)は、当日券は9時から受付開始予定)。また、コロナ禍ではじまった『ひむろしらゆきWEEK』も展開され、奈良の店舗を中心に46店舗(4月10日時点)が参加。それぞれの店舗にて個性豊かな限定メニューが4月15日〜5月7日まで楽しめる。

進化し続けた『ひむろしらゆき祭』

今や奈良のお祭りのひとつとして定着した同イベント。しかし、ここまで来るには紆余曲折があった。2014年に初開催された同イベントは、氷の神を祀ったのが始まりといわれる「氷室神社」で8月に開催。関西を中心に日本各地のかき氷店が境内でかき氷を提供し、行列はできたものの、通りすがりの観光客がふらりと立ち寄ってかき氷を楽しめる和やかな雰囲気だった。

しかし、7月に開催した2回目(2015年)は知名度が急上昇してしまったため、スタート前から想定外の長蛇の列。何時間も並ぶはめになった人々からはクレームが届き、暑さで体調を崩してしまう人も。そこで、3回目(2016年)は暑さを避けて5月のGWに開催し、混雑が予想される一部店舗はオンラインでの予約制に。翌年の第4回(2017年)では、2日間で1万人以上も動員し、境内ではおさまりきらない規模へと成長した。

2015年には関西の雑誌『SAVVY』がかき氷を特集するなど、ちょうどかき氷の変革期にも重なっていた時期。1種のシロップ(ソース)だけでなく数種を使い分けたり、トッピングが増えたり、今や一般的となったエスプーマが増えるなど進化をとげているさなかだった。そんなこともあって、次なる課題として調理施設が必要なのではないかという声が出ていた。

かき氷に「本気」の客が増加

そこで、第5回(2018年)には調理も可能な「春日野国際フォーラム甍 別館」へと会場を拡大。氷室神社ではかき氷を奉納する神事をおこない、神官と天平衣裳の女官とともに、純氷を神社から会場まで運ぶ「純氷道中」を初めておこなったのも話題になった。そして、2階を予約のみ、1階を当日販売とわけて人員整理をしたが、やはり長蛇の列ができ、気軽に訪れた人が驚愕する場面も。

そこで、第6回(2019年)は会場周辺の混雑を避けるためにもすべて予約制に。また、かき氷の人気店が参加しやすいように、かき氷店にとって繁忙期がはじまる5月ではなく、3月へと時期を変更した。まだ肌寒い時期にも関わらず、チケットは販売開始から1時間も経たずして売り切れ店舗が続出した。

回を重ねるごとに、客側が成長したのも興味深かった。1〜2人参加だと食べられる杯数が限られるため、かき氷好きたちが仲間や友人たちと、どの時間にどの店舗を食べるか1日の計画を相談。全制覇を目指す人もいるほど、参加者が真剣に向き合うイベントに。かき氷の魅力にはまり、立派なマニアへと成長していった人々の声もよく聞いた。

が、第7回(2020年)は、チケットの販売をスタートしたもののコロナの影響で中止に。第8回(2021年)はかき氷関連業者のみが参加できる『ひむろしらゆきフォーラム』を企画。かき氷の魅力をさらに深堀りし、ご縁つなぎの場となった。また、緊急事態制限などを通じて客足が遠のいた店舗を訪れるきっかけとなるように『ひむろしらゆきWEEK』と題して、専用SNSで全国へ発信。最終的には40店舗が、期間限定の力作を繰り広げた。そのまま翌年の第9回(2022年)は、49店舗へと広がった。

ただコロナを経て、コロナ禍でいったんかき氷ブームがリセットされた感があると人気店「ほうせき箱」の店主であり今年の実行委員長を務める岡田桂子さんは言う。「今年はこれまで使用してきた春日野国際フォーラムが改修工事のため使用できず、ひむろしらゆきフォーラムを開催してきた奈良公園バスターミナルで開催します。記念すべき10回目はかき氷業界のさらなる成長とご縁つなぎの場としてフォーラムも継続、神賑行事としてのかき氷提供も行います。今まで以上に氷室神社を中心としたかき氷のつながりを今後も広げていきたいと思います」と語る。

なぜ、かき氷のイベントが始まったのか?

この祭りのきっかけとなったのは氷の守護神を祀る「氷室神社」だ。かき氷献氷(6月15日〜9月15日)で、お供えしたかき氷をいただくけるために参拝者も増え、奈良でのかき氷巡りに欠かせない「聖なる場所」となった。しかし、10年前は製氷・販売業者には有名だったものの、こちらも一般的には知られていなかった。

奈良は実は氷に縁深く、和銅3年(710年)には貯水から氷を冷やして保存し続ける氷室が春日奥山に造られたといわれ、平城京に氷を約70年にわたって献上。その氷室の守り神を祀ったのが同神社のはじまりといわれ、貞観2年(860年)に現在の地へと移築。5月1日の『献氷祭』には氷に携わる人々が繁盛祈願のために全国から訪れている。

そんな同社の宮司である大宮守人さんに、岡田さんが氷室神社で「かき氷のお祭りをさせてほしい」とお願いに上がったところ、「是非に」と快諾していただけたそうだ。そうして、ボランティアによる有志が集まり、歴史ある奈良の地で大好きなかき氷を多くの人と楽しもうと『ひむろしらゆき祭』が始まった。

2014年の第1回は8店舗が出店し、奈良のお店は、年中かき氷を提供する「おちゃのこ」、「プティ・マルシェ&ぷちまるカフェ」、人気店2軒による「鶴屋徳万×絵図屋」。そして、今や予約が数年待ちのバウムクーヘン専門店で、イベントでかき氷出店していた「DER BAR(デルベア)」(店主が奈良在住)。まだまだ、有名なかき氷店が少ない状態だった。

増えるきっかけとなった無料のかき氷ガイド

そこから「一過性のイベントではなく、年間を通じてかき氷で奈良を巡って欲しい」という宮司の発案から、2015年に誕生したのが無料で配布される「奈良かき氷ガイド」だ。最初の年は約30軒を掲載したが、2022年度は60軒をも掲載するパンフレットに(掲載店以外にもかき氷提供店あり)。過去と見比べていくと、ビジュアル、味ともに進化していることが見てとれる。

2015年は、シンプルないちごシロップを主役とした氷が多い印象だったが、2022年版は「ルビーチョコバナナと里芋」「抹茶ラテホワイトチョコ」「生ハムとモッツァレラチーズのかき氷パスタ」など、もはやメニュー名だけでは味が想像できないものも。

このかき氷ガイドを持って巡る人が続出したことから、同ガイドに掲載されるためにかき氷をスタートした店が増加。カフェや甘味処だけでなく、レストランなども参加し、ほかと差別化し、個性を生み出すために切磋琢磨。そうして、さまざまなかき氷が楽しめる「かき氷の聖地」が誕生したのだ。

かき氷人気を、影で支えていたのは

そんなムーブメントを影で支えてきた一人が、奈良唯一の製氷メーカー「日乃出製氷」の4代目・中 孝仁さんだ。同社の氷は空気を使い水を撹拌させながら、マイナス6度〜マイナス8度で72時間かけて凍らせる純氷「大和氷室」。かき氷専用として通常よりもゆっくりと凍らせるため、硬くて溶けにくく、味わいもクリア。奈良の約6割のかき氷はこちらの氷を使用している。

たかがかき氷といっても、提供のやり方はけっこうむずかしい。ただ氷を削ればよいだけでなく、氷の保管温度、微妙な刃の角度などによって、食感が多いに変わってくる。そのため、ふわふわに仕上げるにはどうすればよいかなどを、中さんが無料でアドバイス、必要であれば同社直営店店長だった妻の裕子さんによる「伴走型」の講習も行う(有料)。2014年には片手で数えるほどだった、かき氷の得意先も2022年には100軒(県外も含む)超えに。奈良のかき氷が進化する上では欠かせないキーマンだった。

新たな観光資源となったが、実は…

観光資源や地域おこしをする際には、予算計画を立てて自治体が動くことが多いが、先述した通り、同祭とガイドを手掛けているのはボランティアだ。かき氷店を営むメンバーもいるが、異業種の人が多い。仕事終わりの時間を調整して、会議を開き、回ごとに生じた問題を解決するために策を講じ、かき氷を一過性のブームにしないために、今も氷と向き合っている。

ただ、無償で活動をおこなっていたにも関わらず、県や市から予算をもらうための金儲けではないかなどの非難、かき氷で人気になった店にはやっかみの声など、盛り上げていくために一筋縄ではいかなかったのも事実だという。

今年は会場の使用料を奈良県に減免してもらったため、共催という形はとってはいるが、それ以外は金銭的な協力を一切得ていない。行政の予算によって続けられなくなるような状況を避けるためにも、お金はすべて事業収益でまかなっているという。祭りでのかき氷代のうちの100円は、運営費に。また、出店者やフォーラム、WEEK参加者から募った参加費は、神社へのお供えや、その他の運営費にあてている。余剰が出た場合は積み立てて、コロナのような非常事態に備えてリスクやトラブルの際に対応できるようにしているそうだ。

「奈良かき氷ガイド」に関してはこれまで同委員会がおこなっていたが、昨年からは新たに「かき氷ガイド製作委員会」を発足し、これまで通りに委員はボランティア。広告主からの掲載料のみでやりくりし、無料配布を実現し続けている。10年もの長期間にわたって、もはや委員会メンバーらを何が突き動かすのか…と疑問をいだいてしまうほどの熱意だ。

そんななか委員会のひとりである平井宗助さんは「kakigoriが寿司、天ぷらやラーメンと同じく、日本食文化の世界共通語として通用する未来を信じてワクワクしています。海外のシェフやパティシエにも是非チャレンジしてほしい! また、県内のかき氷ツーリズムによって奈良を周遊してほしい。奈良は食が弱いと言われ続けてきましたが、ここ10年で大きく変わりました。奈良の食文化の豊かさ、奥深さがいろんな側面から発信されるようになってきましたし、実力のある料理人もどんどん増えています。そして、『泊まらない奈良』と言われているので、宿泊を増やしたいです」と、奈良愛を込めて話してくれた。

奈良でかき氷を楽しむのにベストな時期は?

スイーツとしてだけでなく、「氷匠 ル・クレール」による、オマールやキャビアを使った食事系の「おかず氷」いったムーブメントも生み出すなど、奈良ではかき氷が進化し続けている。だからこそ夏になると、人気店は予約を取るのが困難(予約開始とともに売り切れる店も)で、行列に並ぶことも必至だ。そのため、あえて暑くない時期に行くことをおすすめしたい。繁忙期には提供が難しい手の込んだものや、暑い時期には食べられない濃厚なメニューが楽しめ、かき氷の街の懐の深さを知ることができるだろう。

◇  ◇

『ひむろしらゆき祭』は、4月14日にかき氷業界の繁栄を祈願する神事(非公開)をおこない、4月15日は午前9時から奉納賛助券受付開始。提供時間は11時〜、12時〜、13時〜、14時〜、15時〜。待ち時間ができた際は「奈良かき氷ガイド」(2023年版は14日から配布予定・会場でも配布)を参照してみてほしい。そのなかの奈良市街地エリアで探せば、効率よく奈良のかき氷を満喫できるはずだ。

『ひむろしらゆき祭り』
日時:4月15日(土) 時間:11:00〜16:00 ※受付(奉納賛助券)は当日会場にて9:00〜
住所:奈良公園バスターミナル東棟1F 奈良県奈良市登大路町76

提供店舗:
①cocoo cafe(大阪)シュワシュワMJ
②さくら氷菓店(茨城)いばらき和栗のMONTBLANC 2900円
③氷屋ぴぃす(東京) 朝日山&ブラッドオレンジ ビアンコマンジャーレを忍ばせて 2000円
④A.cocotto(名古屋)桜そば茶みるく 1400円
⑤shizuku(名古屋)ブラッドオレンジとジャスミンミルクの氷 1400円
⑥カフェフクバコ(滋賀)ブラッドオレンジピスタチオ 1400円
⑦べつばら(大阪)ダブルチェリーマスカルポーネ 1400円
⑧ブルーリバーカフェ(岐阜)マリブアップル 1400円
⑨こおり屋bambu(神戸)金柑さくら 1200円
⑩朝日夫婦(台湾)エスプーマ杏仁と中華揚げパン 1300円
⑪INUUNIQ VILLAGE(名古屋) レモキン甘夏ヨーグルト(レモキン=レモンと金柑) 1300円

⑫FRUIT GARDEN 山口果物(大阪) 紅の夢とデコポン・ゆずMIX 1000円
⑬蛍茶園(大分)みかんみつきとほうじ茶ゆずカボス 1200円

「ひむろ神社」
住所:奈良市春日野町1−4
https://himurojinja.jp/

■『ひむろしらゆき祭』公式サイト https://himuroshirayuki.sacraya.org/
■『ひむろしらゆき祭』Instagram https://www.instagram.com/himuroshirayuki/
■『ひむろしらゆき祭』Twitter https://twitter.com/himuroshirayuki
■『奈良かき氷ガイド』公式サイト https://nara-kakigori.com/

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