パスタのボロネーゼってミートソースと同じじゃないの? 違いをアピールする専門店が人気、ボロネーゼ一択にした理由とは

いなだ みほ いなだ みほ

昔は「ミートソース」と言っていたけれど、最近は「ボロネーゼ」って呼ぶように…なんてことはないでしょうか。イタリア料理店でのメニュー名として浸透してきたから、おしゃれな言い方が後者と思ってしまうかもしれませんが、実は別ものなのです。

どちらも、肉とトマトソースと主要な材料は同じですが、実は味わいや肉の分量などが異なります。最近は差別化が進み、関西ではボロネーゼ専門店もあれば、ミートソース専門店あり、ボロネーゼの方がやや人気があるという印象。そこで、ボロネーゼ専門店の人気が急上昇した理由、両方の商品を展開する「無印良品」に話を聞きました。

ボロネーゼとミートソースの違いは?

ボロネーゼは、イタリア・ボローニャ地方で生まれたパスタ料理のこと。ひき肉と野菜を赤ワインで煮込んだフランス料理「ラグー」がルーツにあるようです。材料は、牛挽き肉、パンチェッタ(豚バラ肉)、細かく刻んだタマネギ、ニンジン、セロリなどを炒めてから、トマトペーストや肉のブイヨン、赤ワインなどを加えてじっくり煮込みます。このソースをパスタに和えれば、ボロネーゼの完成です。

そしてミートソースは、そんなボロネーゼをアメリカ風にアレンジしたもの。挽き肉や野菜など基本的な材料はほぼ同じで、トマトケチャップ、ウスターソース、砂糖などで味付けしたのがミートソース。日本では喫茶店や洋食店でも親しまれている馴染みあるソースなのです。

賞味期限10分のボロネーゼの専門店

そんな明確な違いを伝えようと2023年1月にオープンしたのはボロネーゼ専門店、その名も「ボロネーゼとミートソースの違いを教えてあげる」(兵庫県神戸市中央区)。イタリアンレストラン「ボロスタ」(兵庫県神戸市中央区)を経営する笠井聰一郎さんが、コロナ禍の影響で夜営業ができなくなったときに、ランチにパスタを始めたのがきっかけだそう。

ボロネーゼ専門メーカー「BIGOLI(ビゴリ)」とメニューのライセンス契約を結んだボロネーゼをメニューのひとつとして提供したところ、「一番評判がよかったのです。『おいしい!』とSNSでアップしてくださるお客様がどんどん増えてき、ボロネーゼ人気が一人歩きを始めたような感じです。これは専門店を出してもいいかも…と今回の2号店にチャレンジするきっかけになりました」と笠井さん。

パスタはビゴリ社のボロネーゼにからみやすい極太の生パスタを使用。ボロネーゼのソースも同社のオリジナルレシピで手作り。刻んだ野菜をオイルでじっくり煮込んで甘みを引き出すところから始まり、細かくカットした牛肉をじっくり焼いては都度デグラッセ(お水やワインで煮溶かすこと)。大量の赤ワインで煮込み、完成するまで丸3日もかけています。

「ソースに負けないように、特殊な技法で圧力を加えたビゴリのパスタは、密度がぎゅっと詰まっていて独特のもちもち食感です。また、その奥深い味わいのパスタを味わうために賞味期限は10分。フォークも麺を巻きやすく食べやすいパスタ専用を採用しました」。

ボロネーゼ専門店というめずらしさもあってオープン当初は行列ができ「最初は若いお客さまが多いかなと想像していたのですが、舌の肥えた30~60代の男性客が意外に多く、『ミートソースのパスタよりも、肉量が多くボリューミーでうれしい。味がしっかりしているところもいいですね』と週1ペースでご来店くださるお客様もいらっしゃいます。ボロネーゼは、パスタであると同時に肉料理! これからもミートソースとの違いを伝え続けていきたいと思います」と笠井さん。最初はそのまま、そのあとはガーリックオイル、唐辛子をブレンドした激辛オイルで味変して楽しめるボロネーゼは「オリジナル」1200円。ハーフサイズ800円。

ボロネーゼで革命を起こした企業!?

そして、そんなボロネーゼ専門店登場の要因となったのが、2016年に誕生したメーカー「ビゴリ」(京都本店:京都市中京区)です。「なんでもおいしい時代もありましたが、今は一点特化が主流。例えばラーメン屋さんでも、豚骨、和風出汁といったように細分化されて経営するお店が一般的に。パスタも同じなのでは?と考えついたのがきっかけです」と代表の石川潤治さん。

「開業前にリサーチして印象的だったのは『丸の内OL(女)&サラリーマン(男)に聞く好きなメニューランキング』。OLの1位はパスタ、サラリーマン1位はラーメンでしたが、世代別に見ると男性30代の1位がパスタ。男性がラーメンが好きな理由は、早く食べることができ、ボリュームもあって、価格も高過ぎないからだと思うんです。でも、そのポイントをクリアすればパスタも1位になれるのではないかと思いました」。

そして各種あるパスタソースのなかからボロネーゼに決めたのは、「知り合いのイタリア人に『日本のどこに行っても食べられないパスタはボロネーゼだよね』と言われたことがあるんです。『ボロネーゼに似たミートソースのパスタってあるけど、甘いよね。砂糖が入っているよね、それってイタリア料理じゃないよね』って言われて…」と、行きつけのイタリアンのシェフにボロネーゼを作ってもらったそう。

「食べて全然味が違う!と、ボロネーゼの印象が180度変わりました。『本場はこんな味なんだよ』と伝えるために、ボロネーゼに特化したお店を始めることにしました」。そこから、レシピを開発するにあたって、食感を生かすためにひき肉は使わず、大きめにカットした肉にこだわり、水や添加物を加えずワインのみ。麺には、一般的に珍しかった太麺のロングパスタ「ビゴリ」を採用。こちらは男性好みのコシがある食感も特徴です。

量は男性に支持してもらえるように日本のレストランの2倍量を標準に。さらに、素早く提供するためラーメン屋さんのようなオペレーションを考案し、提供時間は5分。先述の「ボロネーゼとミートソースの違いを教えてあげる」のように、サッと食べる人ならば10分で退店も可能な店になったのです。食材にもこだわり、生パスタは乾麺よりも料金が高くなりがちですが、メニューを絞ることで価格設定を抑えました。

「始めたばかりの頃は、それほどでもなかったのですが、実際に食べた方、ネット販売で購入した方が、ご自身の店のメニューに加えたいというお声を少しずついただくようになりました。テレビ番組『がっちりマンデー』に出演させていただいた時は、反響も大きかったです」と、徐々に人気を獲得し、2021年11月には累計100万食を超えたそう。

「そのうちマクドナルドさんが『コク旨アンガスビーフボロネーゼグラコロ』(2021年)、松屋さんが『チーズボロネーゼコンボ牛めし』(2022年)を発売するなど、じわじわとボロネーゼが流行ってきてるなと…。注目されているなと実感したのは、誰もが聞いたことのある大手メーカーさんから『サンプルがほしい』といった問い合わせが多く入って来たこと。少なからず、世間に影響を与えているのかなと感じています」。

ライセンスを結ぶ店舗数も右肩上がりに増え、現在全国で34店舗に。 2022年末には本店を東京から京都・四条烏丸駅徒歩2分の地に移転。時間制でボトルワイン100種類が飲み放題。さらに料理の持ち込みが自由というのも特徴。もちろん、飲みのアテとしてのボロネーゼの提案もしています。

「京都本店に、イタリア人がその味に感動して3日連続でやってきたことがうれしかったです。本場のボロネーゼが認知されていることを実感しています」と狙い通りの展開になっているようです。

「無印良品」のミートソースとボロネーゼ、その差は?

無印良品はもともとパスタソースとして「素材を生かしたパスタソース 粗挽き肉のボロネーゼ」(260g・390円)を販売していましたが、実はありそうでなかった「ミートソース」(130g×4【4人前】・599円)を2022年に新商品として発売。良品計画開発担当者にその経緯や両方を販売する意図を聞きました。

「『ボロネーゼ』そのものは、約15年前から発売しており、2021年に今の規格・商品に。こちらは「手軽に本格的な味をご家庭で楽しんでいただきたい」と言う考えのもと誕生しました」と開発担当者。

それに対して、意外にも新しいというミートソースは「お客様の日常的な食生活をこれまで以上にサポートできるように、メニューとして馴染みのある商品を提供しよう」という思いからだったそう。そのため味もそれぞれの定義に沿って差別化。

「ボロネーゼは、粗挽き肉によるゴロゴロとした肉々しさがあり、それを玉ねぎ、にんじん、完熟トマト、赤ワインなどと一緒に煮込み、奥深い味わいにしています。ミートソースは、お肉を味わうというよりは、野菜(特にトマト)の旨みを生かし、ケチャップやウスターソースなどで甘みがある味に仕上げています」と、やはりお肉感を楽しめるのがボロネーゼ、ソースの甘みを楽しめるのがミートソースのようです。

またパッケージが全然違うのも興味深いところ。ボロネーゼはおいしそうな写真付きで、ミートソースは写真のないシンプルなアルミ包装。その理由について、「ミートソースは、毎日の食生活の中でより登場回数を増やしてほしいメニューでしたので、値ごろ感も大事だと考えておりました。メニューとしては想像しやすいとも思いますので、敢えて写真は載せず、その分中身のクオリティやお客様が手に取っていただきやすい価格への原資にした結果、透明包材(写真なし)になりました」。

また、現状どちらの方が人気か気になるところですが、「以前から展開している商品のためボロネーゼの方が人気が高いですが、ミートソースも発売から1年と考えると順調に販売数を伸ばしています。認知度が高まったら、まだまだ伸びる可能性があるのではないかと」と、ミートソースならではの需要がありそうです。

◇ ◇

ちなみにAmazonのパスタソースの売れ筋ランキングで見ると、1位・8位・9位がボロネーゼ(メーカー異なる)、2位・7位がミートソース(共にマ・マー)となっていました(2023年6月5日時点)。ミートソースよりもボロネーゼの認知度が高まり、大人が楽しむパスタへと成長した印象ですが、昔ながらのミートソースもやはり強い! 同じようでいて、実はやっぱり全然違うボロネーゼとミートソース。今後は気分で使い分けて、セレクトしてみてはいかがでしょうか。

■ボロネーゼとミートソースの違いを教えてあげる https://www.instagram.com/oshieteageru_/
■BIGOLI https://bigoli.jp/
■無印良品 https://www.muji.com/jp/ja/store

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