話題の実写版『リトル・マーメイド』日本語吹替アリエル役は“人種騒動”をどう見たか 「人をつくるのは『見た目』ではない」

黒川 裕生 黒川 裕生

ディズニーアニメーションの金字塔『リトル・マーメイド』(1989年)が、ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年という歴史的タイミングで実写映画化されました。世界中で愛されるアニメーション版の魅力を引き継ぎながら、より深みを増したキャラクターと目を見張る映像表現、そして新たな音楽の力で驚きの進化を遂げ、すでに公開されている本国アメリカでは大ヒットを記録。日本でも6月9日に公開され、多方面で話題を呼んでいます。日本語吹替版で主人公アリエルの声を担当した豊原江理佳さんに、作品への思いや見どころを聞きました。

豊原さんは1996年ドミニカ共和国生まれで、大阪府堺市育ち。2008年にミュージカル「アニー」でアニー役としてデビューして注目を集めて以降、数多くの舞台に出演してきました。

もともとアニメーション版『リトル・マーメイド』に特別な思い入れがあったという豊原さん。「一番やりたかった夢の仕事です。オーディションに受かるとか受からないとかは関係なく、自分の全てを懸けて挑戦したいと思いました」と話します。ただ、吹替は初めての経験で、オーディションでは「ガッチガチに緊張」してしまい、終わったときは「全然ダメだ」とちょっと落ち込んでしまったとか。それだけに、サプライズで合格を知らされたときは「信じられないくらい嬉しかった」と振り返ります。

実写版でアリエルを演じたのは、歌手で俳優のハリー・ベイリーさん。アフリカ系の女性が抜擢されたことを歓迎する声が上がる一方、アニメーション版のアリエルが白い肌だったこともあり、一部で人種差別的な反響が巻き起こる事態になりました。

豊原さんはどう感じていたのでしょうか。

「私は素直に『ハリーは本当に歌が上手だな』『とってもかわいいな』としか思っていなかったので、収録直前までそんな騒動になっていることは全然知りませんでした。それだけアニメ―ション版を愛している人がたくさんいるということだと受け止めましたが、ハリーは『歌が上手くて好奇心旺盛』というアリエルのキャラクターを歌と演技で見事に体現しています。もし心配している人がいるなら、あなたたちのアリエルは消えていないよ、大丈夫だよと伝えたいです」

「人をつくるのは“見た目”ではなく、その人が何を大事にしていて、どういうことに興味があるのかという“キャラクター”の部分だと思うんです。そしてこの映画は、人種の違いなどを気にする人のモヤモヤを吹き飛ばすほどのファンタジーの力に満ちています」

初めて声優を務めたことで、豊原さんは今まであまり意識していなかった「声」の可能性を感じたといいます。

「共演した声優の皆さんの演技には、とにかく圧倒されました。私がミュージカル俳優として、声と表情と体全体を使って舞台で表現してきたことを、声優さんは『声』だけに凝縮して表現するんです。声ってこんなにも感情が乗り、命が宿るものなんだと感動を覚えたほどでした」

「アリエルは途中で声を失うので、私は『息』の演技が必要だったのですが、息のバリエーションが実はものすごく多いんだという発見もありました。微妙な感情の動きを息の強弱などで表現するのが面白くて面白くて…。なんて楽しいんだろうと思いながらの収録でしたし、自分としても新しい武器、新しいアイテムを手に入れたような気がしています」

本作の魅力について、「音楽の素晴らしさ、映像の美しさ、アリエルの『一歩踏み出そう』という勇気と、挫折しながら成長していく等身大の姿にきっと共感していただけると思います」と語る豊原さん。「私にとっても、宝物のような作品になりました。これからも、アリエルのように新しいことを恐れずどんどんチャレンジしていきたいです」

『リトル・マーメイド』は全国で公開中。

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