島根、鳥取両県に8店舗が営業する酒類量販店「酒ゴリラ」の看板が SNS上でたびたび話題になっている。観光客とみられる女性が看板の写真とともに投稿したツイートは2万回以上リツイートされ、酒ゴリラの看板の写真をまとめたページまで登場した。ジョッキを持つゴリラの上半身が描かれた看板は、地元に住む両県民にとっては見慣れた光景かもしれないが、外から来た人にとってはかなりのインパクトを持つようだ。看板の由来や狙いを創業者に聞いた。
巨大なゴリラの看板は、一部店舗の壁全面を使って描かれている。ゴリラの大きさは店舗によってまちまちだが、鳥取県の米子店(米子市新開2丁目)は高さ5.7メートル、幅23メートル。あふれんばかりのビールをジョッキで飲もうとする巨大ゴリラは、迫力十分だ。
2018年に群馬県出身の女性とみられる人が店舗の写真を付けて「パワーが溢れている店名と外観」とツイートすると、これまでに4万2000件のいいねが付き、2万5000回リツイートされた。今でも訪問者がある。また、2022年にも再びネット上で看板が話題となり、SNS上の話題の投稿をまとめる「Togetter(トゥギャッター)」というサイトで、酒ゴリラに関するツイートを集めたページができた。
なぜ、このような看板になったのか。「酒ゴリラ」 を展開する(株)ワークスコーポレーション(米子市新開2丁目)に問い合わせると、創業者の岸正昭社長(64)自ら取材に応じてもらえることになった。
岸社長は、鳥取県伯耆町出身。酒の問屋に就職し、酒屋のコンサルタント業務の仕事をしていた。自分の受け持った酒屋が業績を伸ばしていくのを見て、独立して酒屋経営を始めたいと考え、1995年に第1号店を出店した。店の名前は、カタカナ3文字にすると決めていた。「商標権」の兼ね合いからオリジナルの名前は制約が多く、一般名詞から「ゴリラ」を選んだという。
「インパクトあり覚えやすく、口コミになりやすい酒屋にしたかった」
巨大ゴリラの看板は1号店から採用した。その理由について岸社長はこう語る。「インパクトのある覚えやすく口コミになりやすい酒屋にしたかった」。当時は同じ柄の大きな看板を一気に印刷できる技術はなかった。そのため、銭湯や映画の看板を描いている会社に発注した。驚くことに一つ一つが手描きという。「普通の店舗とは勝手が違った」と苦労を語る。
このため1店舗1店舗で同じ顔のゴリラはいないという。よく見ると、ゴリラの口の大きさや目つきなどに微妙な違いがある。手描きと聞き、はしごを使って壁に直接ペンキを塗っているのかと思ったが、別の場所で描いたゴリラをバラバラにして運び店舗の壁に貼り付けているようだ。
注目したいのが、ゴリラの顔だ。「酒ゴリラ」のゴリラはキバがむき出しになった恐ろしい見た目が特徴だ。ゴリラというよりも、まるでアメリカ映画に出てくるキングコングのよう。ここには岸社長のこだわりがあった。「キバを強調し、恐ろしい目つきで子どもが怖くて入店できないくらいに怖くてリアリティのある看板にしたかった」。アルコールが飲めない子どもにとって酒屋は普段はなかなか入れない店であり、しかも恐ろしい見た目ではより入りにくくなる。しかしこの「怖い」というのは、子どものころから店の存在を認知させる。そして大きくなるにつれ怖さに慣れていき、もう怖くなくなった大人になれば、通ってくれるのではないかという緻密!?な計算があった。
さらに、インパクトのある看板とシンプルな店名を持つ「酒ゴリラ」は、他の店や施設と見分けがつきやすい。これが岸社長のもう一つの狙いだった。「待ち合わせ場所としても活用し口コミを広げたかった」と言う。島根県出身の筆者も友達と場所を確認する時に「私酒ゴリラの近くにいる」と使ったことがある。
巨大ゴリラの看板が使われた背景は、社長の強い思いと計算があった。一部店内には、ゴリラのぬいぐるみを置き、チラシにもゴリラを多用するなど、看板以外もゴリラだらけ。岸社長は「看板の存在感を生かしてこれからも営業していきたい」と話し、これからも「ゴリラ」とともに歩んでいくことを誓った。