注目されない地震被害→ならば自ら復興支援「目指すは100万円」 活動きっかけも「手助けのため」…ミニチュア作家のすごすぎる地元愛

谷町 邦子 谷町 邦子

「私達の指先で応援させてください。売り上げは全て寄付致します」。ラーメンやパフェなどのリアルなミニチュアの写真とともにTwitterで呼びかけたのは、金沢美味しい作家@ミニチュアの世界(@minimini_japan 以下、金沢美味しい作家)さんです。

金沢を拠点とするユニット金沢美味しい作家さんが、地元の復興を応援しようと決意した理由は、5月5日に石川県能登地方を震源とした最大震度6強の地震。余震は5月10日まで続き、珠洲市、輪島市を中心に死1名、負傷者43名の人的被害、700を超える住宅の被害に加え、学校校舎や店舗、工場などにも被害が及びました。さらに石川県への観光のキャンセルも出ていると報じられています。

金沢美味しい作家さんの珠洲市在住の親類も無事ではあるものの、避難を余儀なくされたとのこと。「石川県への観光客も減るかと思いますが石川県には多くの美しい街があります。粘り強く暖かい人々が繋いできた指先から生み出す伝統文化があります。ぜひ石川の魅力を体感しにきて欲しいです」と地元への思いをアピールしました。

そんな投稿には、「一日も早い終息、復旧、復興を節に願っております」「頑張ってる人に言うのはアレだけど…頑張れとお伝え下さい」などの声援や、「みなさん応援お願いします」と協力を呼び掛ける声が寄せられています。

主にミニチュアを作る指先さんと、SNSでの発信をメインに行うminimini_japanさんの女性2人組である金沢美味しい作家さん。活動内容や支援内容について聞きました。また、石川県観光企画課にも、地震の観光への影響を確認しました。

ピンチな知り合いのお店を応援しようと…

グルメをモチーフにしたミニチュアづくりは、コロナの影響でお客さんが減ってしまった飲食店を応援するためにスタート。知り合いが経営するお店のラーメンを「ミニチュアに興味を持って食べに行く人が増えたらいいな」と思って作ったのが始まりでした。ミニチュアの材料は樹脂粘土を使い、アクリル絵の具を練り込んで着色して、全工程手作りです。

個人的に作ってSNSでアップしていたところ、去年から「自分のお店のものも作ってほしい」と注文が入るように。最初に注文してくれたのは山口県からだったそうですが、富山県や福井県など近隣の県からの依頼も多いそうです。

それからは飲食店限定で、1個600円・50個単位で販売することに。「店のメニューを食べないと買えない。それが私たちのポリシーです」と、あくまでも店に足を運んでもらうためのグッズが狙いだと言います。

注文はラーメンを中心に、地元名物の笹寿司やカレー、和菓子、パンなどさまざま。ラーメンであれば、スープの色や盛り付け方の特徴、チャーシューのサシの入り方などが店舗ごとに異なり、リアルさへのこだわりが感じられます。

制作していく上で、写真を見て再現するだけでなく、店のオーナーや大将から直接話を聞き込むのも重要なポイント。「料理人によって丁寧だったり、大胆だったりとそれぞれの個性があります。盛り付け方や食材の切り方も忠実に再現することで、その方が作ったってことをイメージできるか意識して作るんです。店主のメニューへの愛がミニチュアを通して伝われば」。

遠方であればテイクアウトの商品を送ってもらうこともあるそうですが、基本的には店舗で実際に食べて、ラーメンであれば本物の「こってり」した感じが出ているのかもチェック。さらに、SNSのフォロワーで、実際に食べたことのある人にも完成品を写真で見てもらってリサーチ。「食べたイメージが思い出せるかも追求しています」という徹底っぷりです。

「満足いくのに2、3日は絶対にかかりますね」と、粘土に塗った色が乾いた後に、想定と異なる場合は作り直すこともあるそう。完成したミニチュアにポールチェーンなどの金具を付けたり、袋詰めしたりするのは、雇用を生みだすためにも障害者の人たちにお仕事としてお願いしています。

ほかの地域の地震は報道されるのに、なぜ?

そんな「金沢美味しい作家」が「指先で応援」しようと思ったのは地元の復興を助けたいという思いのほかに、もう一つ理由が。「5日に地震があってから、次の日の全国ニュースでは放送されなかったんですよね。人口が少ないからなんでしょうけど、能登であれだけ災害があるのに報道があんまりされないことが悲しかったです」。

石川県に次いで千葉県でも地震が発生し、その他さまざまなニュースが放送される中、能登地方での地震が忘れられていったかのように。そんな情報がいきわたらないなかで「県外から応援したいという気持ちが届くと大変うれしいです」と言います。

今回は、支援価格として通常の値段より高めの1000円に設定。値上げした分、さらにミニチュアの造形を細かくしているそう。現在は金沢市の老舗スーパー「ひまわりチェーン」など、4軒から注文を受けています。

また、6月中旬に土曜日限定で、「ひまわりチェーン額(ぬか)」店の企画によって、カプセルトイで1000円で販売し1000円を寄付するイベントも。同店の作品9種類、また同じように石川県を盛り上げたい他企業にも参加をSNSで依頼中で、シークレット企業枠10点を予定しているそうです。

目標金額は100万円で現在は30万円、売り上げはすべて石川県の「令和5年能登地方地震災害義援金」に振り込む予定。「目標まではかなり遠いですが、お店の方々の温かいお心も表現して作っていきたいです。細かい作業なので毎日肩こりと闘っています(笑)」。

こちらについても50個単位で、DMにて注文を受け付け中。完成し、届くまでには早くても1カ月かかるとのこと。

県内各地の宿泊施設にキャンセルが…

実際に地震の影響ついても石川県観光企画課に聞きました。

――地震後の石川県の観光はどのような状況ですか。

「5日の地震発生以降、私共では県内の自治体や観光関係者の方々と連絡を取って情報を収集しております。震源に近い珠洲市では、宿泊施設や観光施設に被害が生じ、地震直後は営業休止を余儀なくされましたが、現在では多くの施設において営業を再開しております。

また、輪島や和倉温泉、金沢・加賀温泉など、それ以外の県内地域では、被害はなく、通常通りの営業を続けております。しかし、大変残念なことに、今回の地震では、その後の余震や被害状況の報道により、県内各地の宿泊施設にキャンセルが出ております」

――キャンセルは現在、(5月29日時点)で何件くらいでしょうか。

「宿泊施設の予約取り消しにつきましては、県下全域で約2万3000件となっております。

珠洲市以外の県内観光地は、最初から地震の被害はなく営業しております。珠洲市においても順次営業を再開しており、県外の観光客の皆様に石川、能登、珠洲へ足を運んでいただけることが、地域の励みになります」

◇ ◇

今回、復興支援のために「作らせてください、あなたの魂のこもった一品を」と語った2人。ゆくゆくはミニチュアがお店の商品のおいしさを表現する「食レポ」のような存在になり、ミニチュアが見たいお客さんがお店に足を運んでくれるのが目標のひとつとのこと。

置物としてだけでなく、ピアスなどにもできることから「観光客の方々が着物を着て散策する際に、アクセサリーとして金沢の食文化も身につけてもらえたりしたら。県外の人に留まらず海外から来た人にミニチュアを通じて金沢の食文化を知ってもらいたい」と語ってくれました。

■金沢美味しい作家@ミニチュアの世界(@minimini_japan)のTwitter
https://twitter.com/minimini_japan
■金沢美味しい作家(mini.mini_japan)のInstagram
https://www.instagram.com/mini.mini_japan/
■石川県「目的別・地震に関する情報(5月5日の能登地方を震源とする地震)」
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/saigai/202305jishin-mokutekibetsu.html#higai

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