「駅長」「店長」「警備員」-。近頃は全国各地にさまざまな肩書を持つ猫たちがいる。人を招き、その場所との縁を結ぶアイドルのような存在だ。京都府京丹波町にも猫が出迎えてくれる会社があるとの情報が舞い込んだ。癒やしを求め、会いに行ってみた。
四方を山に囲まれ、長老山から上和知川が流れる京丹波町下粟野。うわさの「山正建設」に到着すると、従業員の山口幸さん(42)と川邉智行さん(50)、そして玄関先と川邉さんの膝の上から猫たちが出迎えてくれた。
地域の土木工事や農業、花火打ち上げなどを手がけ、従業員は4人。山口さんは経営者の一人娘で、自宅と事務所に計4匹の雌猫が暮らしている。来客には前足をそろえてあいさつし、慣れると足元にスリスリしながら歩いてくる。近くの現場には一緒に赴くこともある。見積書や封筒、名刺にも、月の上にちょこんと座った猫のロゴマークが躍る。
山口さんの自宅には手作りの大型キャットウオークが設置され、玄関先の石畳は猫の肉球を模している。あふれんばかりの猫への愛。「気を許した相手にはとことん甘え上手なところが魅力」とにっこり。川邉さんも「猫たちは日々の癒やし」と目を細める。
最初にやってきたのは「くう」。2010年9月、近所のライスセンターで米の乾燥作業をしていたところ、小屋の中から鳴き声が聞こえた。目も開けられないほど弱っていたが、すぐに山口さんになつき、仕事場にも一緒に連れていくように。「来客があると真っ先にあいさつができるお姉さん」だ。
続いて14年5月に知人宅から来た「つくし」は、お値段高めのキャットフードしか口にしない美食家。一見のんびり屋だが、お隣のシイタケハウスに侵入したネズミを仕留めるハンターの顔も持ち合わせる。「畑の芽を引っこ抜いちゃうこともあるので、一長一短なんですけどね」
3番目は「はる」。知人が「山口さんのところなら飼ってくれるはず」と、16年6月に連れてきた。勝手気ままな性格で、態度も体もビッグサイズ。他の3匹は山口さんの自宅で暮らすが、つくしとの折り合いが悪く、居場所はもっぱら事務所だ。猫付き合いもなかなか難しいらしい。
最後にやって来たのは、首もとの白い毛が月の形をした「つき」。20年の春から秋にかけ、同町篠原と仏主との間を行き来していたのを、地域の人と協力して保護した。「一番苦労して家族になった」。会社のロゴマークも「ツキを持ってきてくれるように」と願いを込め、つきをモデルにした。
気付けば、周囲からも「あそこに行けば、猫と会える」とささやかれるようになった。付近を通る町営バスも、その存在に気を使って、スピードを落とし走ってくれている気がする。「営業で取ってきた仕事以外にも、工事の依頼がたくさん入って来るようになった」。招き猫効果もあるらしい。
不妊手術もきちんと受けて、地域を優雅に歩き回る4匹。従業員や訪れた人の癒やしのであると同時に、人々との縁をつないでいた。