阪神ファンの聖地、40年の歴史に幕 応援グッズメーカー直営の喫茶店『タイガースコーナー』閉店 「道楽やと批判されても」…憩いの場つくった創業者の思い

伊藤 大介 伊藤 大介

阪神タイガースの応援グッズが買えるレトロ喫茶店「タイガースコーナー本山店」(神戸市東灘区本山南町6)が4月28日、閉店しました。

阪神応援グッズメーカーのパイオニア「シャープ産業」の直営店として長く虎党に親しまれてきましたが、40年の歴史に幕を閉じることになりました。コロナ禍が落ち着き、ペナントレースで阪神が上位に付ける中、なぜ閉店するのでしょう。店を訪ね、シャープ産業や店長に聞きました。

誰より店を愛した創業者

シャープ産業は1957年、熱烈な阪神ファンだった故小林勝喜(かつき)さんが創業しました。1965年、当時は珍しかった阪神球団の公認グッズの製造を始め、ジェット風船や応援ユニホーム、Vメガホン、背番号Tシャツなど革新的な応援グッズを生み出してきました。

創業者の小林さんは1983年、シャープ産業本社敷地内にタイガースコーナー本山店を開設しました。甲子園球場から車で20分の立地を「阪神ファンが集まる憩いの場にしたい」とパン屋だった建物を喫茶店に改装し、当時は甲子園球場など販売場所が限られていた応援グッズを売るスペースを設けました。

小林さんは2017年に89歳で亡くなり、2020年にシャープ産業はミズノの100%子会社となりましたが、タイガースコーナーは独自のスタイルを貫き、多くの阪神ファンに愛されてきました。

閉店する4月28日が迫り、店は別れを惜しむ常連客たちでにぎわっていました。

近くに住む杉本明則さん(60)は、毎日のように創業者の小林さんと店で顔を会わせた往時を懐かしみます。

「小林会長とは毎朝会ってたね。阪神が勝った翌日はニコニコ顔で店にやって来て、コンビニで買ってきたスポーツ紙を客に配ってたこともあった」と振り返ります。

また、「会長は阪神戦のチケットを客に手配してくれたり、私や従業員を阪神戦に招待してくれたこともあった」と虎党をあたたかく出迎えてくれたといいます。

一方、「負けた日は機嫌が悪くてねえ。声がかけられなかった」と苦笑する。従業員も「注文も取られへんかったわ」と笑う。

阪神優勝、店で見届け涙

タイガースコーナーが開店して2年たった1985年、シャープ産業創業初の阪神優勝を経験します。

小林さんはデイリースポーツの取材に「泣きましたよ」と当時の喜びを語っていました。倉庫に商品が納まる日はなく、年商は5億円から3倍に膨れ上がったといい、「毎日毎日、徹夜。仕入れたものは全部売れましたから。このまま死んでもええと思った」「今でもバースとはよく話すんですけど、あの年は『クレイジーだった』と言いますね」と2003年のインタビューに語っています。

その2003年には星野仙一監督が阪神を18年ぶりのセ・リーグ優勝に導きました。優勝の瞬間を迎えたのもまた、タイガースコーナーでした。当時の神戸新聞のインタビューでその胸の内を語っています。

「店を閉め、1人でテレビをずっと見てました。涙が出ましたなあ。この仕事を始めて39年。ようやく2回目の優勝を味わえました。最初は、悪くても6年に1度はあると思っていたんですがね…」

このインタビューでは、2003年の売り上げ予想が前年の2倍以上となる約46億円となった一方、このインタビューでタイガースコーナーが赤字続きだったことが明かされています。

「喫茶店、虎ファンが集えるよう、30年ほど前に造ったんですが、実は今年(2003年)初めて黒字になったんですわ。社長の道楽やと批判もありましたが、続けてよかった」

シャープ産業の採用方針にもタイガース愛が貫かれていました。

「社員は全員、(阪神)ファン。入社の条件です。パートも、ピーク時は100人雇いました。通常の5倍。むろんみんな阪神ファンですよ。だから、残業もニコニコしてやってる。人間やっぱり、自分の好きな仕事をやらんと」

阪神の優勝に経営者として奮い立たされたといいます。

「タイガースのおかげです。夢と情熱の大切さ。うちもいっちょがんばろうやないかと、どれだけの中小企業の社長が勇気をもらったか。閉塞感(へいそくかん)が漂う日本経済に、星野阪神が進むべき道を示したんやと思います」

本社移転で閉店

シャープ産業は本社を東神戸センタービル(神戸市東灘区本山南町8)に移転することになり、「移転先にタイガースコーナーを移すのは困難」として閉店を決めました。

タイガースの旗がはためき、球団公式ショップのようなロゴがあしらわれた店は、タイガースのTシャツ、タオルといった定番商品から、コンタクトレンズケース、とっくりのような物珍しいグッズまで並んでいました。

 

倉本なるみ店長(62)はひっきりなしに訪れる客に笑顔で対応していました。アルバイトで働き始めて23年。いつも虎ファンと喜びを分かち合ってきました。阪神の低迷期には、グチっぽくなる客に「もう昨日は昨日よ、終わったじゃないの」と励ますこともあったといいます。自身も熱烈な虎党だっただけに、「自分に言い聞かせていたところもありました」と振り返ります。淡路島出身で、同郷の近本光司外野手のファン。

「人気メニューはモーニングのスクランブルエッグ付きトーストや、ボリュームのあるエッグサンド。モーニングはドリンク付き450円~550円で食べ応えもありました。小林会長は毎朝スクランブルエッグ付きのトーストでしたね」

四半世紀近く勤め、虎ファンの仲間がたくさんできました。「閉店しても、道ばたで会ったら阪神が勝った、負けたの話をしたい」と笑みを浮かべます。

閉店日の4月28日は常連客がサプライズでクラリネットやハーモニカで「栄光の架橋」や「大阪ラプソディー」を演奏し、花束が倉本店長に贈られました。

別れを惜しむ客に「明日来たらアカンよ」と冗談を飛ばした倉本店長は午後3時すぎ、店に掲げていたタイガース旗を降ろしました。「まだ実感がわかない」と苦笑しつつ、「長く楽しくやらせてもらって、会社には感謝しています」と礼を述べました。

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