「狂犬病予防接種」への理解と接種率を上げるために
ーー先生が10年以上前から「狂犬病の脅威」について訴えていらっしゃる理由を教えてください。
「獣医師として、学生の時から狂犬病のリスク、脅威などをしっかり学びます。これまでの清浄国は、過去のたくさんの方々の努力と命の上に成り立っています。病院に勤めるようになり、いつしか漫然と飼い主さんに、『春は狂犬病のワクチンです』と話していましたが、いざ自分が開業してみて、改めてなぜ接種しなければいけないのかを考えるようになりました。
私が今住んでいるのは小さな島です。だからこそ、行政とも飼い主さんとも密接に繋がりがある分、どうしたら理解を深め、どうしたら接種率を上げることが出来るのかを考えています。この時期は病院を閉めて、集合注射の会場に出向き、ワクチン接種を行っています。正直、病院で診療をしていた方が儲けの部分は大きいのですが、接種率を高めるためにも大切なことだと考えています」
ーー先生自身は「狂犬病」の症状や症例を見た経験は?
「もちろんありません。おそらく、日本にいる獣医師、医師のほとんどは見たことがないはずです。学生の頃、授業で発症患者のビデオを見ますが、全員がシーン……となるほど記憶に残ります」
◇ ◇
日本は現在、「狂犬病清浄国」です。しかし、ITKさんが奄美新聞に寄稿した「狂犬病ワクチン」に関する記事によると、カワウソなどの密輸動物、ウクライナ避難民の犬の検疫問題、海外船からのネズミやコウモリの侵入など、常に我々は『狂犬病』の脅威に晒されているとのことです。「もし日本に侵入を許し、野生動物に広まったら、もう判別のしようがありません」と、先生は警鐘を鳴らします。
犬だけ接種するのはなぜ?
「狂犬病」は全ての哺乳類に感染し、発症すればほぼ100パーセント死に至る「人獣共通感染症」です。なのに、なぜ犬だけにワクチン接種をするのか?
「人の狂犬病死亡例の9割が犬からの感染と言われています。感染を予防するためには、犬へのワクチン接種が最も現実的で重要と考えられています。もちろん、狂犬病ウイルスが日本に侵入した場合は、猫への接種もあり得ます」(ITKさん)
「犬の狂犬病ワクチンの接種は、私たち人間のためであり、万が一、日本に狂犬病が侵入した場合、それ以上広めないためにあります。ワクチンは7割ほどの接種率で防御としての機能が果たされます。1匹が感染しても、他のみんながワクチンを接種していればそれ以上は広まりません。みんなが打ってなければ、感染は止められなくなります。私たち獣医師はこの7割を切らないように啓発する社会的責務があります」(ITKさん)