今年も鳥インフルエンザが流行し始め、全国各地の養鶏所で殺処分が行われている。そんな中、疑問の声が寄せられた。「殺さないで治療はできないの?」。人間のインフルエンザの場合、薬を飲むなどして治療ができるが、鳥はすぐに殺処分するのが一般的。どのような理由があるのか専門家に聞いた。
「薬はありません」
疑問を投げ掛けたのは、神戸市内の女性(43)。「兵庫で今季初 鳥インフル確認 たつの市の養鶏場、ニワトリ4.4万羽殺処分へ」。11月13日、神戸新聞社が配信したツイッターに返信をくれた。人間のインフルエンザはワクチンを打って予防もでき、薬を飲んで治療もできる。どうして鳥はできないのだろうと思ったという。
「ヒトはインフルエンザに感染すると一般的な風邪症状を示し、肺などの呼吸器系への局所感染がほとんどです。しかし、鳥インフルエンザは全身感染を起こすので治療は難しい。薬もありません」。そう説明するのは、京都産業大学で鳥インフルエンザを研究する高桑弘樹教授(53)。人間と鳥のインフルエンザの病原体は、同じA型インフルエンザウイルス。だが、鳥の間で流行している鳥インフルエンザは、ニワトリに高い致死性を示すように変異した「高病原性鳥インフルエンザウイルス」。このウイルスにニワトリが感染すると、発症から2~3日で死亡してしまう。症状はほとんどなく、眠るように息を引き取る。致死率が高いため、ほとんど生き残らないという。
養鶏場で数羽の発症したニワトリが見つかった時点で、すでに周囲のニワトリも感染していると考えられる。鶏舎内のウイルス濃度も高まっており、「同じ鶏舎内のニワトリ全体にすぐに広がってしまう」と高桑教授。養鶏場には人や物の出入りがあることから、放置すれば周囲の養鶏場にも感染を広げる恐れがある。農林水産省のホームページにも、家畜伝染病予防法に基づき、発生した農場での殺処分や消毒、移動制限など必要な措置を取ることを求めている。
ワクチンを打つと、元気だけどウイルスを撒き散らす「無症状者のよう」!?
では、予防はできないのだろうか。高桑教授によると、東南アジアなど発展途上国ではワクチンが使われている場合があるという。だが、ウイルスに感染した時に、症状を緩和してくれるもので、ウイルスの排泄を完全に抑える効果はないという。「感染しても、元気な状態ではいるけれども、ウイルスは排出されてしまいます。新型コロナウイルスでもありますが、無症状者のようなイメージですね」