人工知能(AI)を搭載し、さまざまな質問に答えるチャットGPT(ジーピーティー)が注目を集めている。基本的には自然な文章で回答するが、時におかしな回答があるという。山陰両県に関する質問をしてみた。
チャットGPTは米国のAI研究所「OpenAI」が開発し、2022年11月にサイトやアプリで試作品を公開した。文章で質問を入力すると、わずか数秒でAIが回答してくるというものだ。
特徴は回答の文章がすごく自然なものになっている点。インターネットのサイトで、外国語を入力して日本語に自動翻訳するといった技術は20年以上前からあったが、表示された文章は日本語として成立していないことが多かった。このチャットの回答は文法的におかしな点はほぼなく、本当に人間が回答したような文章になるという。
ただ、文章としてはとても自然だが、内容については事実誤認が多いと、ネット上で指摘されている。
AIが知る山陰中央新報社はどんな会社?
どのように回答するのか。試しに、山陰中央新報社が発行する新聞「山陰中央新報」について質問した。
「島根県の新聞社、山陰中央新報社について教えて」
(チャット)
「山陰中央新報社は、島根県を中心に配信している地方紙です。創業は1946年で、本社は島根県松江市にあります。同社は、毎日朝刊を発行し、県内外のニュースや地域情報、文化・スポーツなどの記事を取り扱っています。
山陰中央新報社は、地域に密着した報道を重視しており、地域の方々にとって身近な情報を提供することに力を入れています。また、独自の取材に基づく記事や、地域のイベントや文化についての特集記事など、地元に根付いたコンテンツも充実しています。
山陰中央新報社は、島根県内にとどまらず、鳥取県や岡山県などにも配信しており、地域にとらわれない視野も持ち合わせています。オンライン版も運営しており、インターネット上でのニュース配信やコンテンツの提供も行っています。」
自然な文章の回答に驚き
おー。想像以上の情報量な上に、とても自然な文章の回答だった。報道方針に加え、2021年に運用開始したオンライン版(Sデジ)といったコンテンツにも触れられていて、普通に読む分には何も違和感がないように思える。
ただ、社員から見ると指摘したい点は複数ある。創業が1946年とあるが、前進の山陰新聞の創刊は1882年で、2022年には紙面上で創刊140周年を大々的に祝った。社名と題号が山陰中央新報社となったのは1973年で、いずれにしても回答の中にある「46年」という数字の出どころは謎だ。
後段には鳥取県や岡山県にも配信、とある。配信とは発行や配達のことだろうか。鳥取県は間違いないが、山陽方面である岡山県への発行はゼロではないものの特筆するほどではない。確かに、文章として自然ではあるが事実関係には若干、問題がある回答だと思った。
「山陰出身の有名人」に驚きの人物が
先ほどは刊行物についての質問だったが、人物についてはどう回答するのだろうか。
「島根県、鳥取県出身の有名人はいますか」
(チャット)
「島根県出身の有名人には、以下のような方がいます。
石原慎太郎(政治家、俳優、作家)、高橋洋一(競泳選手、北京オリンピック・ロンドンオリンピック金メダリスト)、千代大龍秀俊(大相撲力士)、今井雅之(音楽プロデューサー)
鳥取県出身の有名人には、以下のような方がいます。
榊原郁恵(女優)、市川海老蔵(歌舞伎役者)、さだまさし(シンガーソングライター、作詞家、作曲家)、神田沙也加(女優、タレント、歌手)」
事実誤認というレベルではない、びっくりするような回答が返ってきた。まず、挙げられた人物の中に山陰出身者は1人もおらず、ほとんどが東京都周辺の出身で、山陰には縁もゆかりもなさそう。
「高橋洋一」という名の競泳金メダリストには聞き覚えがない。調べた限り同名の競泳選手はおらず、元官僚の経済学者、高橋洋一氏しか出てこない。「千代大龍秀俊」という力士も見つからず、千代大龍秀政という1字違いの元力士はいた。今井雅之さんについては、音楽プロデューサーというより俳優が適切ではないか。
何度か試すと、山陰出身ですらないにもかかわらず「益田市出身」と市まで指定されたパターンもあった。事実と異なるどころか架空の人物、肩書きが出てくることには驚いた。
おすすめ観光地は存在しない美術館
今後、AIチャットが進化すれば、県外の人が旅行先を調べるツールの一つとして利用されるようになるかもしれない。最後に、観光地松江市のおすすめコースを尋ねた。
「松江市内でおすすめの観光コースは?」
(チャット)
「松江市は、歴史的な建造物や美しい自然が豊富にあり、多くの観光スポットがあります。以下は、松江市内でおすすめの観光コースです。
1、松江城と城下町散策
松江城は、国宝に指定された豪華なお城で、周辺には江戸時代の町並みが残っています。松江城周辺の商店街を散策しながら、お土産を買ったり、伝統工芸品を鑑賞するのも楽しいでしょう。
2、現代美術館と公園巡り
松江市現代美術館は、日本全国で活躍するアーティストの作品を展示しています。美術館周辺には、芝生広場や池があり、のんびりとした時間を過ごせます。
3、湖畔散歩
松江市内には、美しい湖や池が多くあります。例えば、宍道湖や弥栄池など。水辺を散歩しながら、四季折々の風景を楽しむことができます。
4、出雲大社と石見銀山
松江市から車で1時間程度の場所に、出雲大社や石見銀山といった観光スポットがあります。日本の古代史や伝統文化に触れることができるので、おすすめです。」
一つ目の回答と同じく、ぱっと見る限りは観光ガイドにありそうな紹介だが、やはりおかしな点はある。
まず「松江市現代美術館」という名の美術館は存在しない。島根県立美術館なら実在し、芝生広場もあるが、池はない。全国の美術館にありがちな特徴を持ってきていそうだ。
湖畔散歩のくだりにある「弥栄池」もなく、そもそも弥栄は県西部の浜田市内にある地名。また、宍道湖の水辺を楽しむことはいいが、散歩となると、一周47キロもある湖の大きさを把握してのことなのだろうか。
出雲大社と石見銀山に至ってはどちらも松江市ではない。出雲大社は車で1時間程度だが、石見銀山までは2時間近くかかる。この説明を真に受けて観光に行くと、悲惨な目に遭うことだろう。
チャットを何度か利用してみて、確かに実用性という意味ではまだ時間がかかりそう。ただ、現在はあくまで試作段階。こちらの質問や指摘を学習し、間違いは修正していくシステムになっており、質問するたびに多少異なった答えが返ってくる。そう遠くない未来に、完璧な回答をするAIチャットが完成しているかもしれないと思うと、胸が高鳴る一方で、情報を扱う者として予想外の「ライバル」の出現に脅威を感じた。
ChatGPTはOpenAIのサイト内(https://openai.com/blog/chatgpt)にアクセスし、メールアドレスと電話番号を登録すれば簡単に利用できる。