働く母の変化を描いた1本のCMが、反響を呼んでいます。「私のお母さんと同じだ… 推しがいるって幸せ」と多くの人を虜にした90秒の理由を探りました。
CM「母の推し活」篇は、タクシー運転手として働きながら娘を育てる女性が、唐突に「推し」に出会う場面から始まります。車載モニターに映る「推し」は、実在の韓国5人組男性アイドルグループ「ONEUS(ワンアス)」です。
その日から母は、「推し活」(好きな対象を応援する活動。「オタ活」とも言う)に突き進みます。娘に推せる理由を力説し、美容院では「推し友達」に出会い、ONEUSをテーマにしたカフェに一人で出向き、韓国語を習い始めます。
すると、タクシーに乗車した韓国人に韓国語でお手伝いするという仕事上の小さな変化が生まれ、歌い踊るうちに表情も明るく日常が楽しくなっていきます。最初は引いて見ていた娘も「なんか、もう羨ましくなってきた」と応援するように。やがて、当選したコンサートの日程が近づいてくるのですが…。
このCMをツイッターユーザーの「チェルシー|Generative AIの活用を(@chelsea_ainee)」さんが、「今日から公開のCMが、推し活の全てを超解像度高く表現してて天才すぎる。」と3月に紹介したところ、4万リツイートと11.7万「いいね」がつく大きな反響になりました。
「健気で一生懸命で可愛いお母さん。応援する娘さんの距離感が絶妙。推し活世間では理解されないこともあるけど、一生懸命な人を肯定して寄り添う目線がじんわり温かい。いいCM。」
「分かります。推しが出来ると、世界が彩り始める。 #推し活 サイコーです💕」
「ヲタク1年生を思い出しました」
「私も16歳の時にジャスティンに一目惚れしてCDや本を買いまくり英語を勉強し始め、今はカナダのトロントでバリスタとして働いています。1つの推し活が私の人生を変えてくれました。」
「ほんとに良い意味で羨ましくなってくるし、自分自身も夢中になれるモノ見つけたいなぁってしみじみ感じるわ…。」
「推しカツって少し引いてたが、これ見ると、良いじゃん!って応援したくなりますね」
投稿には200を超えるコメントが寄せられています。また、最後に表示される「東京ガスグループ」の文字に「なぜ?」という声のほか、「冷めきった心に火が点る!!東京ガスならではでしたね。」「推しもガスもインフラって事ですよね?無いと生きていけない的な」と理由を想像する人も。チェルシーさんと東京ガスに話を聞きました。
──「どの1秒を切り取っても、全てに無駄がなく推し活を表現してる」とコメントされていました。チェルシーさんも「推し活」をされているのですか?
私も1年半前に初めて推し(なにわ男子・BE:FIRST)が出来て、まさにCMの始めから最後まで同じ行動をしたことがあるので「全ての場面が自分のことのようだ!」と共感しかありませんでした。
──共感の理由はどんなところにあるのでしょうか。
CMのなかで「無彩色の世界が輝き始めた」という言葉があるのですが、まさに、推しが出来てから自分の人生の全てが好転したんです。辛い仕事も推しの動画を見たり、コンサートに行くことで楽しく過ごせる。推し活を通してたくさんの友達ができる。美容にもかなりお金をかけるようになって、数年前の自分より今の方が垢抜けています。毎日一喜一憂して、こんなに自分の中の感情・人生を楽しめるなんて、と自分でも驚いています。
──そんなチェルシーさんのお気に入りの場面は?
最初は引き気味だった娘さんが、コンサート前には「なんかもう羨ましくなってきた」と笑顔で応援するようになっていた場面です。私も推し活を始めてから、半ば引いていた周りの友人・家族・同僚が次第に応援してくれるようになり、私の誕生日には友人がサプライズで推しのダンスを踊ってくれるという最高のプレゼントをもらいました。
──まさにCMのようですね。ツイートにも共感が集まりました。
「推し活が人生を豊かにする」と思えるほど、いろんな方の推し活ストーリーが知れて面白かったです。推し活をはじめて一番の驚きが、推し活をする40〜50代の母世代の圧倒的な多さです。年齢関係なく、何かに夢中になり、人生を楽しみ、行動力があがる。こんな素晴らしいことはないと思います。いろんな方に推し活の良さを自分も伝えていきたいです。
──推し活についてもツイートされているのですか?
AI活用の発信もしながら、推し活・エンタメの発信もしているので交流できる人ができると嬉しいです。生成AI技術と推し活で、なにか一緒にしたい人もぜひご連絡ください。
◇ ◇
続いて、東京ガスにCMについてお話を聞きました。
──東京ガスと推し活のつながりを不思議に思う人も多かったようです。なぜ推し活を取り上げることにしたのですか?
多様性が尊重される中で「自分らしさ」を大切にする動きが高まり、好きなコトやモノに対して、集中的に時間やお金を消費する“推し活”をする人たちが増え定着しています。好きなものに熱中することを通じて、生活が充実し、日々の暮らしが豊かになっていく姿を描くことで、一人ひとりに“よりそう”ことを掲げる当社グループ経営理念にも合致する内容だと考えました。
──子育てに奮闘する夫婦を野球の試合に見立てて制作されたCM「子育てのプレイボール」編(2022年2月)も話題になりました。
東京ガスは、目にみえない商品やサービスを扱っており、使ってこそ価値がでるものです。そのため、その先にいる生活者の幸せを祈って制作しています。
──なるほど。今回の推し活篇も、多くの人に想いが届いたようです。
私たちがCMに込めた想い「ひとりひとりの自分らしさの実現に推し活がつながること」に、共感をもっていただいた方が多く、非常にうれしく思います。見て頂いた方の“自分らしい一歩”を応援できるようなCMになれれば幸いです。