春といえば桜。ピンクがかった白い花が咲き誇る様子に心が躍る。同時に毎年気になって仕方ないのが「桜味」のスイーツだ。何となく「ああ、桜ね」と分かったような気持ちになるのだが、いったい、桜の味って何なのだろう。
「桜餅の味」?「花見をしている時のにおい」?
まずは、実食。桜チーズケーキや桜シフォン、桜ロールケーキなどを購入した。見た目はピンク色で、ものによっては桜の葉や桜の花が入っている。職場で「味を教えてほしい」と告げて食べてもらった。
「桜やな」と言った先輩に冷たい視線を送りながら、他の人の回答を待つ。「しょっぱい」「桜の塩漬けの味やな」「桜餅の味じゃないか」、中には「花見をしているときのにおいがする」という声もあった。
さて、味の正体を探ろうと、2007年春から桜のシフォンケーキなどを販売する伊丹市の「パティスリーニルヴァーナ」を訪ねた。
シェフの相野雅哉さんによると、製菓材料の「桜ペースト」を使っているという。「すごく難しい質問。たまに聞かれるのだけれど、甘いとか酸っぱいとか言っても、結局何味?ってなるでしょ。答え方としては『桜餅』の味かなあ」
続いて製菓材料メーカーのナリヅカコーポレーション(東京)に問い合わせてみた。同社の桜ペーストは「小田原産桜の花弁の糖漬を使い、着色料で色を補強している」とのこと。味は「桜餅をイメージしていただけると分かりやすいかと思います」との返答だった。
生活雑貨店「無印良品」の店頭でも、桜のクッキーや桜かりんとうなどを見かけた。運営する良品計画(東京)に尋ねると、今シーズンは菓子と飲料の計16品を提供しているという。
「桜味」はどのように出しているのか。「主に桜の葉の塩漬けで風味を出しています。皆さんがイメージする『桜餅の味』も桜の葉由来です」という。
ふむ。念のため桜餅の味も押さえておこう。広辞苑によると桜餅とは「小麦粉・白玉粉を練って薄く焼いた皮に、餡を入れて、塩漬けの桜の葉で包んだ菓子。関西風は、蒸した道明寺粉を用いて作る」とある。桜餅の味は、塩漬けした桜の葉の味ということか。
専門家「桜餅の葉から発する香りですね」
最後に、健康や美容に対する食品の影響を研究し、冷凍総菜の監修をした際に取材させてもらった神戸女学院大学人間科学部(西宮市)の高岡素子教授(食品科学)に聞いてみた。「桜味は、桜餅の葉から発する香りですね」。ん?香り?
高岡教授によると、桜の葉や花に含まれる香気成分「クマリン」が桜の葉や花の甘い香りの主成分で、普段は細胞の中にあって香りがしないが、桜餅に使う葉のように、ちぎったり水を含んだりすることで細胞が破壊されると香りが出る。これが桜餅の独特の香りだという。
さらに、香りと味が同時に示されると一体化しやすく、両者の分離精度が低くなると言われているそう。つまり「人は香りを味として認識することがある」。クマリンは香り成分だが、私たちが「桜味」と認識している可能性が高いのだという。
なんと、「桜味」ではなく「桜のにおい」だったとは|。とはいえ、おいしいことに変わりはない。今日はどの桜スイーツを食べようか。