新年度は引っ越しが増える時期。入学を控えている子どもがいる家庭では、引っ越し先の学区にある公立小中学校の情報が気になる人もいるでしょう。選べるならば評判がよく子どもに合った学校に通わせたいですよね。
学校の授業内容や先生の評判に興味が向きがちですが、意外と重要なのが学校の規模です。大規模校と小規模校では、学校の雰囲気や活動内容に違いがあります。子どもの性格や気質によって、学校の規模にも向き不向きがあるものです。大規模校と小規模校、それぞれのメリットとデメリットについて、保護者のみなさんの声を聞いてみました。
大規模校(3クラス以上)のメリット
大規模校のメリットには、以下のような点が挙げられます。
・子どもの人数が多く多様性がある
・先生の人数が多い
・クラブ活動や委員会の数が多くさまざまな経験ができる
・行事に迫力がある
1学年5クラスある小学校に子どもを通わせているUさん(神奈川県在住、30代、パート)は、大規模校のメリットに子どもの多さを真っ先に挙げていました。クラス内でトラブルがあっても、人数が多いからこそ逃げ場があるとのこと。
Uさんの子どもにつらく当たってくるクラスメイトがいましたが、校長先生と担任と面談し、次年度は別のクラスにしてもらうことができました。もちろん、必ず希望が通るとは限りませんが、学年1クラスの小規模校の場合、別クラスにするのは不可能ですよね。また、人数が多いからこそ学校活動の内容が豊富だといい、満足感があるそうです。
大規模校(3クラス以上)のデメリット
もちろん、大規模校ならではのデメリットもあります。
・人数が多いため、目が行き届かない場合がある
・さまざまなタイプの子どもが混在しており、クラスが荒れてしまうことがある
・同じ学年でも顔も名前も知らない子どもが多い
・行事の時間が長くなりがち
子どもの人数が多いため、主張が弱いタイプは静かに困ったまま気づいてもらえないことがあります。Uさんはママ友から「先生が細かく見てくれない」という愚痴をよく聞くそうです。
また、とにかく行事にかかる時間が長くなります。たとえば卒業式は1人ずつ子どもの名前を呼びますので、大規模校と小規模校ではかかる時間が大きく違ってくるのです。
小規模校(2クラス以下)のメリット
小規模校のメリットには、以下のような点が挙げられます。
・アットホームな雰囲気がある
・先生の目が行き届きやすい
・全員と交流できるので結束力がある
・小規模だからこそ学校が特別な取り組みを行いやすい
・子ども1人1人にスポットが当たり自己実現しやすい
1学年1クラスの小規模小学校に子どもが通っているYさん(静岡県在住、30代、自営業)は、学校のIT化が進んでいることに驚いています。Yさんの子どもが通う小学校では、授業に端末を使用する機会が多いとのこと。授業だけではなく出欠席の連絡もオンライン化され、保護者への連絡もメールが基本です。「こんなことがしたい!」という子どもの提案も、小規模だからこそ採用しやすく、自主性と創造力が育っているのをYさんは実感しています。
公立学校では子ども1人1端末が配布されていますが、授業でどこまで使用しているかは学校によって大きな差があるのが現状です。小規模だからこそ先生の意見を合わせやすく、創意工夫に溢れる学校運営ができるのかもしれません。
小規模校(2クラス以下)のデメリット
一方、小規模校では以下のようなデメリットがあります。
・クラブ活動や委員会、行事などはできる範囲が限られる
・先生の人数が少ないため感染症が流行すると学校運営に支障が出る
・いざ問題が起きると逃げ場がない
人数が少ないと、やはり活動範囲が狭まってしまいます。たとえば1学年10人程度の小規模学校の場合、体育でサッカーの授業をする場合も正規の人数で試合ができません。クラブ活動や委員会の数、図書室の蔵書数なども少なくなります。
また、いざ人間関係にトラブルが起きると、つらい状況になりかねません。Uさんの子どもの学年は仲良く過ごせていますが、過去には友人トラブルが理由で引っ越ししたケースもあるとのこと。人数が少ない分、メンバーによって環境が大きく左右されてしまうのです。
大規模校と小規模校は一長一短
大規模校と小規模校、どちらもメリットとデメリットがあります。また、子どもの気質や性格によって、メリットとデメリットの感じ方が変わるかもしれません。そのときの先生やクラスメイトとの相性も、子どもの学校の過ごしやすさに大きな影響を与えますので、一生懸命情報収集して選んだ学校でも、トラブルが起こる可能性もあるでしょう。
それでも大規模校と小規模校を選ぶことができる場合は、何を基準に決定すれば良いのでしょうか。みなさんの意見を聞いてみました。
▽大規模小学校に通っていた息子ですが、保育園から仲が良かった友達と4年生になるまで同じクラスになれませんでした。家が近所でよく遊んでいたので、縁が途切れなかったことが幸いでしたが、もしかしたらそれきりにもなっていたかもしれません。(30代女性・愛知県)
▽大規模校は校内に支援学級やサポートクラス、カウンセリング室などが常設されているので安心です。現在娘が、小学校のサポートクラスでお世話になっています。(20代女性・福岡県)
▽近隣の公立の中学校には大規模校と小規模校があり、大規模校は人数統制が大変なので生徒の締め付けがとても厳しいらしい。小規模校は多少のんびりしている。うわさに過ぎないけど、内申評価のとき、相対評価だと、大規模校だといい評価をとるのは難しいから、小規模校を選択する人もいると聞いた。(40代男性・神奈川県)
▽大規模校は図書蔵書も多く、理科・図工・音楽室も複数あるので設備は充実しています。ただし、人数も多いので人気の本はなかなか借りられないようです。そういった争奪戦は物以外に、学芸会の配役や音楽発表会の楽器分担でも起こるそうで、よく娘が文句を言っています。(30代女性・大阪府)
▽学区が広くて、お友達の家が遠いのはデメリットだと感じます。遊びに行くだけでも送り迎えが必要になってしまうので。(30代女性・千葉県)
【専門家に聞いた】「保護者の関わり」の度合いについてチェックも
大規模校と小規模校の違いについて、元福岡県立高校教諭で現在は教育事業に携わる寺田昌嗣さんに聞きました。
――大規模校と小規模校で、実際にメリット・デメリットといった差はあるのでしょうか?
大規模か小規模か…ということを考える場合、本当の意味で小規模校のメリットを得られるのは「1学年1クラス(以下)」の学校です。2クラス以上の場合、先生一人あたりの児童数は法律で定められていますので、規模には関係がありません。
今回のテーマとして、規模によって一番影響を受けるのは、実は学校行事かもしれません。大規模校だと、よほどお子さんが主体的に活動できる性格でないと「単に参加しただけ」になってしまうことがあります。
逆に小規模校だと能動的に関わる機会が増えます。些細な部分では、例えば業者が作るキレイな卒業アルバムはないけど、全員で文集やアルバムを作っていく…というような手作り感が、行事全般に感じられるのではないでしょうか。
――保護者側が学校を選ぶ際に気にしておくべき点はありますか?
学校選びに際して「保護者の関わり」も確認しておきたいところです。小規模校は、子どもだけでなく、保護者も保護者同士のネットワークから逃れがたく、PTA活動や地域活動・ボランティア活動に否応なく巻き込まれてしまうことがあります。
ただ、それらの活動がすべてマイナスというわけではなく、右も左も分からない転入者を温かく迎え入れてくれたり、お父さんの活躍・活動の場として「おやじの会」が機能していたりすると、親子で安心して生活をスタートさせられます。
このあたりも「要調査案件」として頭の片隅に置いておきましょう。
――学校の教育・子どもへのケアなど、対応の差は学校規模によってやはり違いがあるのでしょうか。
これは規模に関わらず『熱心な先生、子どものことを理解してくれる先生と出会えるかどうか』が鍵を握ることになり、残念ながら幸運を祈るしかありません。
ただ、あくまで一般論に過ぎませんが、小規模校の先生ほど、学校の問題を自分の問題として熱心に考えていることも多く、また保護者との関わりが濃い場合が多いので、何か問題が起こった場合のサポートが手厚く受けられる可能性は高そうです。
規模によるメリット・デメリットが様々だからこそ、お子さんの性格がそれを純粋に楽しめるだろうかということは検討すべきでしょうし、入った後にそういった学校の特性とどう関わるべきかという保護者からのサポートとアドバイスこそもっとも重要なことかも知れませんね。
◆寺田昌嗣(てらだ・まさつぐ)株式会社J-エデュケーション代表。小中学生を対象とした読書・学習法指導教室「ことのば」を経営。元県立高校教諭を8年半勤めた(うち2年間は中学校に派遣、進路指導主事を担当)のち、独立。現在は教室運営と並行して、九州大学大学院博士課程に在籍中(読書教育・学習ストラテジー研究)。