日本は地形や気象条件から、海外に比べても特に自然災害が多い国です。活火山の数は世界トップクラスであり、地震をはじめとして、台風や豪雨による土砂災害、津波、洪水など、これまでにも大きな被害を受けてきました。過去最大規模の被害想定がされている「南海トラフ地震」は、約30年以内に発生すると予測されています。
いざ災害が起こりライフラインが停止した場合や、幼い子どもを抱えての避難所生活を余儀なくされたとき、子どもの心と体を守るためにはどうしたら良いのか心配は尽きません。災害時の授乳方法や備蓄品などの備えについて、「東京都助産師会」のYouTube公式チャンネルの動画「水害について考えてみよう!」「災害時の授乳」「赤ちゃんがいる家庭の災害時の備蓄品を考えよう!」からご紹介します。
避難所生活では、子どもが泣き止まない、ゆっくり眠れない、プライバシーが守られない、不安や恐怖を感じる、充分な食べ物や飲み物が確保できないなどの困りごとが考えられます。もちろん自宅が安全であれば、むやみに避難所に行かず、在宅避難でも構いません。大規模水害時には、自主的広域避難(分散避難)を推奨している地域もあります。知人・親類の家への避難が難しい場合、協定を結んだホテルへの宿泊費用の補助金が出る自治体もあります。今のうちから自宅のハザードマップや自治体情報を確認し、土砂災害・浸水・津波などの危険度を把握しておきましょう。ハザードマップは自治体・気象庁・国土交通省のHPから確認できます。避難する場所をあらかじめ家族と決めておくことも大切です。
他にも災害時によくみられる子どもや赤ちゃんの様子として、寝ない・ぐずる、指しゃぶり、赤ちゃん返り、おむつかぶれ、おもらし、食欲低下、落ち着かない、抱っこをねだる、泣く・怒る、被災体験の”ごっこ”遊び、暴力的な遊びなどが挙げられます。これらは自然な反応として必要なお世話をしながら、気持ちを受け止め温かく見守ることで、子どもが安心できれば落ち着いてきます。もし、無気力・無表情、チック、自他を傷つける、パニックなどの症状が出てくる場合は、医師・看護師・助産師・保健師などの専門家に相談しましょう。
被災体験を持つ子育て家庭に、当時の状況を聞きました。
・つわりのときに、体調に合わせた食事がとれず、ツラかった。
・停電による暑さがひどく、子どもをうちわであおぐことしかできなかった。
・子ども3人分の避難バッグを詰めてみて、一日分を入れるのがやっとだということがわかった。
・水害がきてから避難したいと思ったが、暗い山道が怖くて避難できなかった。
ライフラインが途絶えたり避難所生活になった場合、すぐに救援物資が届くとは限りません。災害の備えとして、1~2週間分の備蓄品があれば安心です。常備薬の用意の他に、母子健康手帳(親子健康手帳)、成長記録や予防接種歴など大切な情報はスマートフォンで写真を撮って保存しておくと良いでしょう。子どもの名札を作り、名前・連絡先・アレルギー歴を書いておくこともおススメです。
赤ちゃんを守るための基本の5つとして、水を使う、食べる・飲む(母乳・ミルク)、健康のバロメーターである排泄、新陳代謝の高い赤ちゃんの清潔を保つ、気温や室温に影響されやすい赤ちゃんの体温調整が挙げられます。
水は、飲料水や調乳・調理・生活用水として、1人あたり1日3リットル必要です。ブリックパックの液体ミルクや缶詰、補完食(離乳食)としてはたまごボーロ・赤ちゃんせんべい・レトルトスープ・そぼろごはん・リゾットの五目ご飯などがおススメです。必要に応じて、アレルギー対応食を用意しておきましょう。賞味期限をチェックして普段の生活で使いながら、適宜買い足しておきましょう。
おむつは月齢にもよりますが1日8枚ほど、1週間分で約1パックあると安心です。おしり拭きは、体を拭いたり除菌ティッシュとしても利用できますので、多めに用意しておきましょう。顔や目、お口の中は専用の洗浄綿を使います。
アレルギーやかぶれやすいなど皮膚が弱い赤ちゃんの場合、おしり拭きの代わりに水で洗い流すこともできます。期限切れのお水が使えますので、捨てずに活用しましょう。市販品の携帯用おしり洗いや、ペットボトルの先端につけるシャワーキャップもありますが、ペットボトルのキャップの穴を開けて手作りしても代用できます。霧吹きやスプレーボトルも試してみてはいかがでしょうか。
赤ちゃんにとって適温を保つことは、とても大切です。寒いときは電気毛布やアルミブランケット、暑いときは充分な水分補給をしながら、小型扇風機や冷却剤・冷却シートを活用しましょう。停電が続くと電化製品が使えず、体温調整がしづらくなるため、ポータブル電源を備えておくと安心です。
母乳育児の場合、ストレスで母乳が出なくなるのではないかと心配かもしれません。お母さんがストレスを過度に感じることで、母乳を分泌するオキシトシンが減少し、一時的に母乳が出にくくなることもありますが、その間も母乳は作り続けられており、あげ続ければまた出るようになりますので安心してください。環境の変化により赤ちゃんの泣く回数が増える場合にも、母乳は赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ授乳して大丈夫です。
災害時に母乳育児ができる場合の利点としては、清潔・適温・感染予防・スキンシップによる安心感・在庫不足の心配がないことなどが挙げられます。粉ミルクに比べると、備蓄品もかなり少なく済みます。
プライバシーが守られ、いつでも安心して授乳できる場所があれば更に安心です。仕切りや個室があればベストですが、もし授乳場所が確保できない場合は、ケープやスカーフ、大きめのバスタオルなどを使いましょう。安心安全な授乳環境がない場合は、避難所運営職員・スタッフに相談してみましょう。
次に、乳児用ミルク(粉・液体)をあげる場合のポイントは3点です。
・哺乳瓶や液体ミルク用アタッチメントなどは、毎回の洗浄や消毒が必要です。
・災害時に充分な洗浄や消毒ができない場合には、使い捨て紙コップを使った授乳ができます。
・使い捨て哺乳瓶を使用する場合は、授乳回数分のストックが必要となります。
何よりも、衛生管理がもっとも重要となります。菌が繁殖するため、飲み残しは必ず捨てましょう。液体ミルクは15~25℃の常温保存(工業規格では35℃まで)、手洗い・哺乳瓶などの消毒を徹底します。粉ミルクは細菌を死滅させるためにも、70℃以上のお湯で調乳後、人肌に冷ますことが必要です。
災害時の粉ミルク授乳で必要なものとしては、粉ミルク、飲料水(軟水)、カセットコンロ、ガスボンベ、湯沸かし用のやかん、紙コップ、計量カップ、ミルクを混ぜる用の割りばし、ペーパータオル、洗剤などが挙げられます。普段の授乳回数や量にあわせて、準備が必要です。哺乳瓶を使うときにはたくさんの水と煮沸用の鍋が必要となるため、代わりに紙コップを使うことで、洗浄用の水を節約することができます。給水車の水を使うときは、当日中に使いましょう。
液体ミルクの場合は、調乳不要で常温での使用が可能です。賞味期限や使用方法を確認し、濃度が均一になるようによく振ります。清潔な容器や使い捨て紙コップに移し替えて、開封後はすぐに使用し、飲み残しは全て処分しましょう。繰り返し使うタイプの液体ミルク用アタッチメントなどは、毎回洗浄や消毒が必要なため、災害時の使用には適していません。
消毒した哺乳瓶が無いときは、コップなどで飲ませる方法もあります。縦抱っこをし、小さめのコップを赤ちゃんの下唇にそっとあて、コップのフチが上唇に触れるようにして、ミルクをなめさせるようにします。乳児用ミルクを口の中に流し込まないよう、注意します。普段から試しておくと良いでしょう。
災害時はお母さんも気持ちが不安定になりがちですが、できるだけお乳を含ませることで、お母さんも赤ちゃんも、気持ちが落ち着きます。欲しがるたびに吸わせたり、回数を多く吸わせることで、母乳が増えることもよくあります。感染予防のためにも、少しでも多く母乳を与え続けることはとても大切です。災害時こそ、スキンシップが大切です。赤ちゃんをなでたり、抱きしめたり、抱っこやおんぶなど、できるだけスキンシップを増やしましょう。そうすれば、お互いの気持ちが落ち着いてくるかもしれません。
いつ起こるかわからない災害のために、日頃から準備しておくことが大切です。赤ちゃんがいたり子どもの人数が多い家庭は、必要な備蓄品も多くなり大変ですが、「備えあれば憂いなし」を実行し、大切な家族を守りましょう。