「ミュージアム鑑賞のためのシューズ」という、ニッチな使い道のために開発されたレディースシューズが、ミュージアムとは全く関係のない職業の人々にぴったりだと話題になっています。
「フェリシモの"美術館に履いて行くための靴"が、打楽器奏者のために作られたかのようにめちゃくちゃ良い」
こうツイートしたのは、新日本フィルハーモニー交響楽団の打楽器奏者「腰野真那(@ManaKoshino)」さんです。このツイートに、楽器奏者から「気になる」「かわいい」というコメントのほか、声の仕事をしている人や試験官バイトの人、生徒の発表会で舞台に上がる先生など、足音が気になる職業の人にもってこいだとコメントが寄せらました。
この靴は、通信販売会社「フェリシモ」の公式部活「ミュージアム部」から生まれた、「ミュージアム部 美術館に履いていきたい 音が響きにくいエナメルTストラップシューズ」です。美術館に履いていくためのシューズをつくるというプロジェクトが始動してから約1年かけて、「足がらく」「音がしない」靴を開発したもので、2021年10月に発売されました。
「高さがある楽器に最高の3.5cmヒールだけど、幅が広いから安定するし、何よりも靴音が響かない! 全然響かない! 疲れないしストラップ付で脱げにくい。6.270円。」と、打楽器奏者にとって良い理由を挙げていた腰野さんに、詳しいお話を聞きました。
──この靴を知られたきっかけは?
フェリシモの靴を知ったのはTwitterのプロモーションでした。「書いてある通りならすごく良いけど…通販だしなぁ」と躊躇していましたが、ちょうど本番用に使っていた3センチヒールの靴がダメになりそうだったタイミングで購入してみました。
──どれくらい履かれてツイートされたのですか?
1ヶ月ほど前に購入し、家での練習の他に本番で7回ほど履きました。最初からピタッとなんのストレスも無く履けた靴は初めてだったので、感動してツイートしました。
──入退場のときによいのかと思ったのですが、靴音が気になるのは演奏しているときなのですね。
入退場ではみんな歩いていますし、拍手の音で消されたりするで、靴音は案外気になりません。弦楽器や管楽器の奏者は座って演奏するので、ピンヒールの人も多いです。
打楽器は立って演奏する楽器が多いですし、大きな楽器ですと幅が2メートルほどあるので、同じ位置に立ったままでは演奏出来ず、足を動かさなければなりません。また、曲の中でも複数の楽器を担当するので、楽器から楽器への移動もあります。
そしてステージはよく響くヒノキなどの木材が使われています。ステージ後方の奏者達は数段高い所で演奏するために山台(やまだい)の上にあがるのですが、山台は中が空洞なので、足音が余計に響きやすいんです。
──なるほど、靴音が響いてしまう要素がいろいろあるのですね。ちなみに、高さのある打楽器はどんなものがあるのですか?
木琴の仲間のシロフォン、マリンバ、鉄琴の仲間のグロッケンシュピールやヴィブラフォン、のど自慢でも使われるチャイムなど、中には高さが調節出来るものもありますが、出来ないものも多いです。欧米のメーカーのものは特に、私のような小柄な人間にとっては高く感じます。
──最高の靴が見つかりましたが、もし要望を聞いてもらえるなら、ほかにどんなことをお願いしたいですか?
今回のツイートがきっかけで、いろんな方とたくさんの靴談義をすることが出来ました。そんな中で、「男性用も欲しい」「モデルサイズ(26センチ以上)も欲しい」という声はとても多く聞きました。(現在販売されているサイズは、22.5〜25センチ)
私個人としては、その時演奏する楽器によって靴を使い分けているので、ヒールが3段階くらい選べると嬉しいです。また、足を楽器本体やスタンドに密着させて演奏することもあるので、エナメル素材だとキュッと音が鳴ってしまうため、サラサラした素材のものもあったら嬉しいですね。
──靴選びの難しさが伝わります。ツイートが2.6万の「いいね」がついて話題になりました。
自分が気に入った靴をツイートしただけでしたが、広がるにつれて色々な意見を見聞きしました。職業と靴に関しては、KuToo運動(※)だったり、さまざまな議論があるんだと改めて考えるきっかけになりました。職種や性別によって、靴を制限されることが、どこまでが良くてどこまでがだめなのか、答えはそれぞれにあると思います。ですが、私にとってフェリシモのこの靴は、制限を制限と感じず、自分が心地良くいられて、その上おしゃれを楽しむことも出来る、そんな一つの答えとなりました。
このツイートが広がって、誰かがこの靴に出会ったことで、その人の仕事が少しでも心地よくなったならとても嬉しいです。
※:KuToo運動(くつー/クゥートゥーうんどう)とは、職場で女性がハイヒールやパンプスを履くことを強制されることに抗議する運動
予想外の反響、別の専門的なニーズの方にも届いたことにフェリシモ担当者も驚き
話題になった「美術館に履いていきたい靴」について、フェリシモの担当者さんにお話を聞きました。
──発売から1年以上経っていますが、今も人気がある商品なのですか?
発売以来、もともとのフェリシモのお客さまにも、新しく知っていただいた方にも大変ご好評をいただいております。以前からSNSを中心に何度か話題になっていましたが、今回話題になったことでもご好評をいただき、予約受注を承るまでになっています。
──現在はお届けが4月下旬から5月下旬なのですね(2月10日現在)。「ミュージアム部」という部活があるのを、今回初めて知りました。
フェリシモの部活制度「フェリシモ部活」では、部員の「好き」という気持ちを会社の活動にのせて、生活者の「好き」という気持ちに寄り添うことを目指しています。部員はみんなミュージアム好きですが、その楽しみ方はさまざまです。その楽しみをモノ・コトで発信したく、「ミュージアム部」が発足しました。アートやミュージアムをもっと身近に、気軽に楽しめるきっかけになることを目指して、「共感」や「驚き」のあるグッズを開発していきたいと思っています。
──「ミュージアム好き」から生まれたグッズが、打楽器を演奏する方にも好評とは驚かれたのではないでしょうか?
予想外の反響に驚くとともに、大変うれしく思っております。もともとニッチな需要に振り切って開発したアイテムでしたが、別の専門的なニーズの方にも届いたということでびっくりしています。大切な公演の現場で活躍させていただけること、大変光栄に思っております。
■腰野真那(こしのまな)さん
・プロフィール:新日本フィルハーモニー交響楽団 打楽器奏者。2016年、新日本フィルハーモニー交響楽団に入団。現在オーケストラでの演奏を中心に、司会者やライターとしても幅広く活動している。
・出演予定:《すみだ平和祈念音楽祭2023》2023年3月11日(土) 15:00開演 https://www.njp.or.jp/concerts/230311/
・「腰野真那《音楽をちがう面から見てみよう》」(note) https://note.com/newjapanphil/m/mb50999c697cf
■フェリシモ「ミュージアム部」 https://www.felissimo.co.jp/museumbu/