「半導体戦争」でも日本は“米中対立”の狭間に バイデン政権主導の対中半導体輸出規制に同調…懸念される中国の対抗措置

治安 太郎 治安 太郎

昨今、半導体戦争が白熱している。半導体製造装置の供給で世界をリードする日本とオランダが、バイデン政権が主導する対中半導体輸出規制に加わる見通しとなった。バイデン米大統領は1月17日、ホワイトハウスでオランダのルッテ首相と会談し、対中半導体輸出規制に加わるよう強く要請し、同じく今月中旬に行われた日米首脳会談でも岸田総理に強く求めた。

軍事力の近代化を目指す中国は近年、軍と企業の融合を意味する軍民融合を押し進め、国内外の企業の先端技術を利用する形で軍事力強化を図っていると米国は強く懸念している。バイデン政権は昨年10月、半導体の先端技術や製造装置などで中国との取引を禁止するなど対中半導体輸出規制を強化し、ファーウェイなど中国大手通信機器メーカーの製品輸入や国内での販売禁止を発表した。

また、バイデン政権は昨年8月、半導体の生産や研究開発に大規模な投資を可能にする法案に署名した。投資額の規模は527億ドル(約7兆1千億円)とまで言われており、バイデン政権は半導体など重要物資について国内回帰で生産を強化するリショアリング、日本や台湾など同盟国や友好国とともにサプライチェーンの強化を目指すフレンドショアリングを加速化させている。

このようななか、冒頭のように半導体製造装置で世界をリードする日本とオランダが対中規制に加わるとなると、中国は先端半導体の製造に必要な装置を入手することが極めて難しくなり、経済成長率の鈍化という難題の直面する習政権3期目にとってはかなりの痛手となる。

日本もオランダも先端半導体に必要な製造装置を中国へ輸出できなくなると経済的なデメリットはかなり大きい。しかし、特に台頭する中国と真正面から対峙している日本にとって、先端技術をフル活用した中国の軍事発展は安全保障上極めて大きな脅威となり、絶対にそれは避ける必要がある。対中半導体輸出規制に同調するかどうかの判断はこれまでになく難しかったと思われる。

しかし、対中半導体輸出規制で日米が結束することによって、日本は新たな難題に直面することになる。昨年秋の共産党大会で、習国家主席は中国式現代化を図り、社会主義現代化強国を押し進める方針を強調したが、そのためにはどうしても最先端の半導体技術が必要となる。それについて日本が規制することになれば、中国がそれに見合った対抗措置を取ってくる可能性が高い。

今日、日本は輸入する1000以上の品目で輸入額に占める中国シェアが5割を超え、特にコンピューター関連の部品、ノートパソコンやタブレット端末での対中依存度が高い。半導体分野は軍民融合を押し進める中国にとって言わば心臓であり、中国は日本の対中依存度の強い分野を中心に、輸出停止や関税の大幅な引き上げなどで対抗してくる恐れがある。

台湾有事や離島防衛、尖閣諸島など伝統的安全保障の分野では、日本は中国の海洋覇権を警戒し、米国と拡大抑止を強化しているが、これについては日本自身が米国の協力を必要としており、大きな問題はなく悩むこともない。しかし、近年その重要性が高まる経済安全保障分野において、日本は米中対立の狭間で難しい立場に陥っている。日本経済にとって最大の貿易相手は中国であり、そこに日本の最大の弱点があると言える。

今日、日本人の多くは正直、米国が経済の世界を安全保障で覆おうとすることに強い警戒心を持っているだろう。しかし、経済やビジネスでいいことがあっても、いつの日かそれが日本国家の安全保障を脅かす形で返ってくるとすれば、話は全くの別問題だ。半導体はその1つに過ぎないかもしれない。今後、米国からの対中規制同調の圧力はいっそう激しくなるだろう。

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