『カムカム』のスタッフ・キャストが送る新ドラマ『探偵ロマンス』 「誰も見たことのないドラマを作りたかった」

話題の「土曜ドラマ」『探偵ロマンス』のスタッフに訊いた 前編

佐野 華英 佐野 華英

 2021年度後期に放送され、数々の賞を受賞した朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)を手がけたNHK大阪のスタッフが再集結し、新たに送り出す『探偵ロマンス』(NHK総合)が、1月21日(土)から放送される。江戸川乱歩として作家活動を始める前の青年・平井太郎(濱田岳)が、老探偵・白井三郎(草刈正雄)に弟子入りするところから始まるこの物語。「ロマンスあり、笑いあり、涙あり、アクションあり」、稀代のエンターテインメントの見どころを、制作統括の櫻井賢さんと、チーフ演出の安達もじりさんに訊いた(前後編の前編。▶︎▶︎後編を読む)。

──「知られざる江戸川乱歩誕生秘話」ということですが、原作のないオリジナルドラマなんですね。企画の立ち上げはいつ頃、どのようなきっかけだったのでしょうか。

櫻井賢さん(以下、櫻井) 本作のもう一人のディレクターである大嶋慧介が、「江戸川乱歩が作家としてデビューする前に、探偵事務所の門戸を叩いていた」という史実を発見したことからすべてが始まったんです。30代である大嶋Dの「自分と同世代の人たちが、いま心から見たいと思えるようなドラマを作りたい」という熱い思いに動かされました。とはいえ、企画がスタートした2022年の3月といえば、僕と安達もじりDは『カムカムエヴリバディ』を作り終えたばかりで、まだ「燃え尽き症候群」の状態で(笑)。

安達もじりさん(以下、安達) 私が櫻井CPから「いっしょにやらないか」と話をもらったのは、まだ『カムカム』の総集編を作っている最中でした。「生きづらい世の中で、叫びたいんだけど叫べない人たちの物語」をやりたいという大嶋Dの思いがまず最初にあって、どうやったらそれをエンターテインメントにできるだろうかと、スタッフ全員で試行錯誤しました。大正時代を借りて今の時代の「心の叫び」を描きたくて作っていますが、大正のことを調べれば調べるほど、現在の混沌とした先の見えない空気感とリンクしていることに驚かされました。

江戸川乱歩の自伝にあった「3行」からイメージ

──脚本は、かつて櫻井さんが制作統括をつとめられた朝ドラ『マッサン』(NHK総合)で脚本協力をされ、近年では『美しい彼』(MBS)や『金魚妻』(Netflix)などの脚本で知られる坪田文さん。

櫻井 江戸川乱歩さんは誰もが知る作家で、何度も作品が映像化されましたけれど、同じようなものを作っても仕方がない。誰も見たことのないドラマを作ろうという思いがありました。「最後のバブル世代」である僕より、ずっと若い世代の人たちが今の時代に感じている「もがき」や「飢え」みたいなものをぶつける企画になると思ったので、「大御所」「ベテラン作家」とは違った、「これから」という脚本家の方にお願いしたかった。そこで坪田文さんにオファーしたところ、とてつもないエネルギーにあふれた脚本を書いてくださいました。

 脚本作りのために、小説・エッセイ・自伝を含む江戸川乱歩作品、それから草刈正雄さん演じる白井三郎のモデルであり、実際に乱歩さんが弟子入りを志願した探偵の岩井三郎さんにまつわる資料をスタッフ総出で読みこむところから始めました。いろいろ読んでいくとわかるんですが、乱歩さんって「素敵にダメな人」なんですね。おそらく、探偵としては役に立たなかったので、門前払いを食らったと思うんです。だから実際は働いてないんですけど、そこに「働いた」という大きな嘘を入れることで、面白いドラマができるんじゃないかと。

安達 乱歩さんの自伝に、岩井三郎さんの探偵事務所を訪ねたくだりは、3行ぐらいしか書かれていないんですよね。

──その3行から、よくぞここまで膨らませて。

櫻井 えらい企画を通してくれたもんだと、最初は思いました(笑)。「1年ぐらいは準備期間が欲しいな」と思いながら、企画立ち上げから半年でクランクインに突入していくという厳しい制作となりました。しかし制作時間の短さに反して、とても濃厚なドラマに仕上がっていると思います。

「『名もなき人たち』が生きている姿を撮りたい」

──演出面で、安達さんがこだわった点はどんなところでしょうか。

安達 今回は特に「場所の表現」を大事にしたいと思って撮りました。『カムカムエヴリバディ』が時間の物語だとすると、『探偵ロマンス』は場所の物語。大正時代って、今よりもずっと格差社会が厳しかったんですよね。お金持ちの人たちが住むエリアと、生活に苦しむ人たちが住むエリアがあって、さらに、どんな階層の人も集まる歓楽街がその真ん中にあって。劇中で場所の字幕を出しているんですが、それぞれの場所をきちんと描くことで、「そこに生きる人たちの葛藤」みたいなものが浮かび上がる構図になるといいなと。美術部にもそういう「けしかけ方」をして、いろんなアイデアを出し合って、ああいう感じの「情景の積み重ね」になりました。

 それから、『怪人二十面相』に代表される「いろんな顔を持つ多面性」みたいなところを大事にしたいという思いがありました。そのシンボルとして、「八角形」をモチーフとして、ドラマのいろんなところに使っています。どこに出てくるか、ぜひ探してみてください。

──安達さんの演出といえば、「路上」の表現がとても印象的です。『べっぴんさん』(NHK総合)に登場した戦災孤児の「野球ボールの少年」が『まんぷく』(同前)にも出てきたりして、「箱推し」の朝ドラファンを歓喜させました。本作にも路上で暮らす、ある「少女」が登場しますね。

安達 そうですね、あの「少女」は、いちばん苦しい生活者エリアの象徴として登場してもらいました。私は、どのドラマでも「雑踏」をちゃんと描きたいという思いを持っています。今回、ものすごい数のエキストラの方たちに来ていただいて撮っていますが、「その時代に生きている名もなき人たち」「何もしてないけど、日々そこで時間を過ごして、生きている人たち」を静かに情景として見せ続ける、というのをやってみたかったんです。

「ジャンル分け」が難しいドラマ

──第1話を拝見して、『探偵ロマンス』は、なかなか「こういうドラマです」と言い表しにくい作品だと感じました。

櫻井 とてもPRの難しいドラマだと痛感しています。江戸川乱歩作品からイメージを膨らませ、坪田文さんによる「人間」の深淵を覗くような脚本に、ミステリーやアクションの要素も加わったドラマ。江戸川乱歩、本名・平井太郎という実在の人物をモデルにしながらも、ほぼ「嘘(フィクション)」という構成。最終的に「どういうパッケージになるのが正解なんだろう」と、みんなが暗中模索しながら作ってきました。準備期間が短いなか、脚本の坪田文さんを筆頭に、スタッフ、そしてキャストの皆さんにもかなりハードな仕事を求めたと思います。でも作りながら、「あ、これは面白いものに挑戦しているな」という手応えが現場に走っているのを感じました。

 制作発表の時には「エンタメ活劇です」みたいな決まり文句でしか語っていないのですが、実は太い「芯」が1本あります。でも、辛いものを「辛いです」って見せられても、面白くないじゃないですか。視聴者の皆さんには先入観を持たずに、「どんな世界に連れていってくれるんだろう?」という気持ちで見ていただければ嬉しいです。

安達 「どういうふうに見てもらうドラマなんだろう」というのは、最後の最後まで悩みました。そのうえで、「そこはかとなく匂い立つような『何か』がある」という見せ方をすること、という私なりの結論に至りました。見ていただいた方に「気づいたら病みつきになっていた」と思ってもらえたら、いちばんありがたいですね。

▶︎▶︎濱田岳、尾上菊之助ら『カムカム』キャストも登場。人物の魅力やキャスティングの裏側に迫った後編に続く。

土曜ドラマ『探偵ロマンス』
2023年1月21日(土)〜 毎週土曜
NHK総合 夜10:00~10:49放送(全4話)
脚本:坪田文
音楽・主題歌:大橋トリオ
出演:濱田岳 石橋静河 泉澤祐希 森本慎太郎 世古口凌 本上まなみ 原田龍二 杏花 土平ドンペイ 浅香航大 浜田学/松本若菜 近藤芳正 大友康平/岸部一徳 尾上菊之助 草刈正雄 ほか
制作統括:櫻井賢
プロデューサー:葛西勇也
演出:安達もじり 大嶋慧介

『探偵ロマンス』番組公式サイト

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