「また大阪の熱いスタッフと一緒にやりたい」 キャストの“名演合戦”が見もの、新作ドラマ『探偵ロマンス』

話題の「土曜ドラマ」『探偵ロマンス』のスタッフに訊いた 後編

佐野 華英 佐野 華英

 1923年(大正12年)に江戸川乱歩が文壇デビューしてから100年の節目にあたる2023年、『探偵ロマンス』(NHK総合)の放送がスタートする。のちの江戸川乱歩で主人公の平井太郎(濱田岳)が難事件に巻きこまれながら、この世で最も不可解な「人間」というものの正体を探るこの物語が、現代社会に生きる人々に送るメッセージとは──(前後編の後編。前編を読む◀︎◀︎)。


濱田岳さんでなければ、成立しない企画だった

──濱田岳さん、尾上菊之助さん、近藤芳正さん、土平ドンペイさんなど、『カムカムエヴリバディ』のキャストも多数出演されていますね。

制作統括・櫻井賢さん(以下、櫻井) まず主役は絶対に濵田岳さんにお願いしたい、というところから始まりました。「江戸川乱歩を題材に」ということだけ決まって、まだ具体的な方向性が見えない段階ではあったけれど、「仮押さえ」みたいな感じで「スケジュール空けといて!」と頼みこんで。脚本家の坪田文さんとやりとりしながら台本が出来上がっていくうちに、ますます「岳さんしかいない」という思いが深まりました。ありがたいことに岳さんも、他の『カムカム』出演者の皆さんも、「また大阪の熱いスタッフと一緒にやりたい」と思ってくださったようで、快く受けていただけました。

──安達さんは、『カムカム』から連続で濱田岳さんとご一緒されていかがでしたか。

チーフ演出・安達もじりさん(以下、安達) ドラマ上の平井太郎という人物がけっこうクサクサした男なので、主人公として嫌われないか、どうやったらチャーミングに見えるだろうか、そのあたりを最初のうちは私も一緒になって探っていました。それから「乱歩さんリスペクト」で、台詞が文語体だったり、文学的な言い回しが多いので、「これってどういう言い方がいいんだろう」と、いろんなパターンを考えてきてくださって。本当に引き出しの多い方なので、楽しんで見させてもらっていました。

──尾上菊之助さんが演じる、上海帰りの貿易商・住良木(すめらぎ)平吉の存在感がまた、この作品の世界観を体現しているというか。

櫻井 企画の輪郭が出来上がりつつある頃、これは菊之助さんの存在が絶対に欲しいドラマになると確信して、お願いしました。あの妖艶さと色気、怪しさ、何者なのかわからない謎めいた雰囲気──。物語の最後まで、「怪優・尾上菊之助」の凄みをたっぷりとご堪能いただけると思うので、楽しみにしていてください。

草刈正雄さんに「じゃあ、釣りますね」

──太郎が弟子入りをする老探偵・白井三郎を演じる草刈正雄さんが、制作発表時のキャストコメントで、言葉少なに「アクションがありとても大変ですが」とおっしゃっていたのが印象的でした。

櫻井 リリースの頃の草刈さんの状態が滲み出てますね(笑)。「えらいもんに参加してしまった」という。

安達 本当によくやってくださいました。台詞が多くて、これだけがっつりお芝居もあり、アクションまであるという役どころに、真剣に取り組んでいただいて。最初の本読みの段階で台本を最後まで覚えていらっしゃって、もう役のイメージが完璧に出来上がってるんですね。お若い頃、派手なアクションでかっこいい役をたくさんやられてきたので、いざカメラの前に立つとむちゃくちゃ型が決まるんです。さすがやな~と感激しつつも、どこまでやっていいんだろうかと、最初のうちは探り探り。でも、ご本人も「どんどん来いよ」みたいな感じで、楽しんでやってくださっていたので「じゃあ、釣りますね」ということで(笑)、ワイヤーアクションまでやっていただいたという。

櫻井 太郎が弟子入りする名探偵・白井三郎をどういう人物にするのかについては、いちばんの課題でした。最初は「もう少し現役感のある50代ぐらいの人がいいのか」という案もあったんですが、脚本の坪田さんと「太郎のようにムシャクシャした、誰にも心を開かない青年が、既得権益を持った50代の大人にそう簡単に心を許さないですよね」という話になって。ぐっと設定年齢を上げました。

 さらに、年の功による慈愛と、人間としての奥行きを持って太郎を受け止めてくれるチャーミングな老紳士……となるとこれはもう、草刈さんしかいないだろうと。オファーの時点で「こんなに台詞が多いです」とか、「派手なアクションやります」とか、一切言わなかったので、いざ蓋を開けてみたらさぞ驚かれたことでしょうね(笑)。それでも草刈さんは撮影中、僕らのオファーに対してすべて誠実に返してくださり、プロとして闘っていただいた日々だったなと、感謝の言葉が尽きません。

平井太郎という人が何を掴めば、「江戸川乱歩」になれるのか

──主人公・太郎の「厭世的なのに純粋」「達観しているようで青臭い」というアンビバレントな「人間臭さ」がとても魅力的で、なおかつ、この作品自体も「相反する2つのもの」がテーマであるように感じました。

安達 「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」という乱歩さんの言葉があるんですけど、そういった部分を大事にしています。「夢」と「真実」をキーワードに、坪田さんが台詞を書いてくださっているので、そこを手がかりに映像化していくという作業でした。このドラマの構造自体が「大嘘」というか、「大フィクション」のうえで成り立ちながら、実は乱歩さん、こんなことをやっていたかもしれない、こんな経験があったからこそ「明智小五郎」というキャラクターが生まれたのではないか、と思えてくる。「夢」と「真実」がせめぎ合っているのが江戸川乱歩という人、そして乱歩作品の魅力だと思っているので、それがこのドラマでも表現できていたら嬉しいです。

──最後に見どころと、放送を楽しみにしている視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします。

櫻井 僕の乱歩さんに対する最初のイメージというと、小学校の図書館に並んでいた『怪人二十面相』。あの、なんとも言えないタッチの挿絵がちょっと怖くて、見ていはいけない「人間の怖い部分」を見てしまった、という気持ちになったものです。そういう「密室を覗きこむドキドキ感」みたいな、江戸川乱歩さんの世界観が映像に表れていたら嬉しいです。そしてそこには、脚本の坪田文さんが真摯に書いてくださった、今を生きる人たちに投げかける「叫び」や、今、このタイミングだからこその「祈り」のようなものがたっぷりと詰まっています。きっとこのドラマを見終わった後には、太郎といっしょに冒険したような爽快感を味わっていただけると思うので、「見ないと損しますよ」ということだけは、お伝えしたいと思います。

安達 平井太郎という人が「何を掴めば、江戸川乱歩になれるのか」という過程を描く物語です。そこで坪田さんがみつけた答えのひとつに「知りたい」というキーワードがあります。私たちも、太郎をはじめとする登場人物、そして人間とは何かを「知りたい」と思いながら作りました。ちょっとしたこだわりポイントですが、江戸川乱歩さんの小説にまつわる何かが出てきたり、乱歩ファンの方にはさらに楽しんでいただけそうな「小ネタ」をいろいろと仕込んであります。ドラマとしては、この世界に一度遊びに来ていただいて、なんとなくここに浸かって、ちょっと見たことのない世界を味わっていただけたら、嬉しいなと思います。気楽にお越しください。

土曜ドラマ『探偵ロマンス』
2023年1月21日(土)〜 毎週土曜
NHK総合 夜10:00~10:49放送(全4話)
脚本:坪田文
音楽・主題歌:大橋トリオ
出演:濱田岳 石橋静河 泉澤祐希 森本慎太郎 世古口凌 本上まなみ 原田龍二 杏花 土平ドンペイ 浅香航大 浜田学/松本若菜 近藤芳正 大友康平/岸部一徳 尾上菊之助 草刈正雄 ほか
制作統括:櫻井賢
プロデューサー:葛西勇也
演出:安達もじり 大嶋慧介

『探偵ロマンス』番組公式サイト

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