ウサギ年がスタートしました。今年こそ飛躍の年にしたいものですが、歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さんは、どうしても、干支の歯についてウンチクを披露したくてしょうがないようです。ウサギにとっても「歯は命」のようですが、芸能人とは意味合いが少し違いました。しばしお付き合いください。(聞き手・山本 智行)
--ウサギ年は“成長と飛躍の年”などと申すそうです。明るい年になると良いですね。
陳明裕(以下陳):遅い、新年のあいさつですねぇ。ちなみに、ウサギの歯の本数って、ご存知ですか?
--なんですか。新年早々、また動物の歯の本数ですか。犬とか猫と同じじゃないんですか。
陳:そもそも犬はパンダと同じ42本ですが、猫は昨年、寅年シリーズでお話しした通り、トラやライオンと同じ30本ですから全然違いますよ。
--私、自慢じゃないですけど、自分の歯ですら、いま何本残っているのか知らないのに、動物の歯の数なんて覚えてるわけないでしょ!
陳:ウサギは一般的な人間と同じ28本なんです。でも、歯式はちょっと違っていて、上顎が切歯4本・前臼歯6本・後臼歯6本、下顎は切歯2本・前臼歯4本・後臼歯6本だそうです。
--ウサギだけに犬歯はない?
陳:そうなんです。ウサギはお裁縫をしないので、糸切り歯(犬歯)が必要ないので退化しちゃったんです。
--あーなるほどねって。そんなわけ、ないでしょ!
陳:ライオンなど肉食獣は獲物を捕らえるときに犬歯を使いますが、ウサギは草食動物なので、切歯で植物をかみ切り、臼歯ですり潰して食べるので犬歯は必要ありません。1分間に120回も咀嚼するそうです。
放っておくと1年で10センチ以上も伸びる
--いつもモグモグしているイメージですが、120回も。へーって、言いたいところですが、私たち人間はどれくらいなんでしょ?
陳:食材の硬さや質によっても違いますので、一概には言えませんが、歯学博士の長沢亨先生による報告では、ピーナッツをかむときで1分間に78.6回とのこと。つまり人間の1.5倍速です。Z世代的に言えばウサギの方が人よりだいぶ「タイパ」が良いですね。あと、ウサギは重歯目に分類され、生涯を通して切歯が伸び続けるんです。このような歯をElodont(常生歯=じょうせいし)と言うのですが、放っておくと1年で10センチ以上も伸びちゃうそうです。
--でも、そんな歯の長いウサギ、いままで見たことないですよ。確かにバックスバニーはちょっと出っ歯ですけど、ミッフィーなんか歯も見えてませんから。
陳:それは漫画の世界。そもそもミッフィーちゃんの口はバッテンしか描かれていませんから。実際のウサギは食物繊維の多いエサを絶えずかんだり、歯ぎしりのように歯を擦りあわせることで、歯を摩耗させて長さを調整して、バランスを保っているようです。
--歯ぎしりですか。ウサギも結構大変ですね。
陳:歯ぎしりを止めて、切歯が伸び過ぎちゃうと口が閉じられなくなったり、口の中を傷つけたり、歯根膿瘍ができたりして食事を摂れなくなってしまいます。だからウサギにとって“不正咬合”は命にかかわる病気なんです。よって私のような矯正歯科医はウサギの世界ならブラックジャックかドクターXみたいなイメージで受
け止められるかもしれませんね。
--ところで、ウサギは多産で縁起がいい動物だと言われていますが、寂しがり屋でもあるんですよね。ドラマ「ひとつ屋根の下」で「ウサギって寂しいと死んじゃうんだから」っていうセリフがありました。
陳:それ、小雪役を演じた酒井法子さん、でしょ。実際は、飼い主が出掛けてる間に死んでしまうことが多いので、そう言われるようになったみたいです。元々、ストレスに弱い動物だし、体調が悪くてもそれをあまり表に出さないし、常に胃腸が動いている状態が必要なのに、食事を長時間食べないと胃腸の動きが止まるからなど、原因はいろいろ言われています。
--ウサギも何かと大変です。
陳:だから小雪の言葉を正すならば「ウサギって“不正咬合”だと死んじゃうんだから」になりますね。名曲「碧いうさぎ」の歌詞も「淋しすぎて死んでしまうわ、早く暖めて欲しい♬」ではなく「歯並び悪すぎて死んでしまうわ、早く治して欲しい♬」にした方が正確ですね。
--いつまで、いい気になって歌ってるんですか。
陳:読者の皆様の今年1年が、ウサギの歯のように伸び続け、成長しますようにと、お祈りして〆たいと思います。