知ってた?タンカーの船底はなぜ赤い? 海運会社社長の解説が「こんなにくわしい説明は初めて」と話題

金井 かおる 金井 かおる

 神戸にある海運会社「東幸海運株式会社」(本社、神戸市東灘区)が公開した、タンカー船の舞台裏を紹介する動画が話題になっています。中でも注目を集めるのは「なぜ船底を赤色に塗装するの?」という質問。解説するのは同社社長の笹木重雄さん。噛み砕いた説明や落ち着いた口調が評判を呼び、ネットユーザーからは「こんなにくわしい説明は初めて」「分かりやすい」「面白い」「わくわくした」「勉強になった」と好評です。赤色の理由を笹木社長に聞きました。

「なぜ船底を赤色に塗装するの?」

 笹木社長の答えはずばり「船底にフジツボなどが付かないようにするためです」。

 フジツボとは「岩や船底、他の動植物にくっついて動かない固着生物」(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターサイト「フジツボって何者?」より引用)。甲殻類でエビやカニの仲間です。

 笹木社長によると、船底にフジツボが付着すると船の速度が落ち、燃費も悪くなるそうで、「普段14.5ノット(時速26.8km)出るタンカー船が12ノット以下(時速22km以下)になることもあります」。

 そこで登場するのが赤色の亜酸化銅です。「亜酸化銅という成分が含まれている塗料を使うことが多いんです。亜酸化銅にはフジツボの付着を防止する効果があると言われています。この成分が赤色なので船底塗料も赤色になることが多いです。塗料は1年できれいに溶けてくれます」(笹木社長)

1隻にかかるペンキ代、年間いくら?

 同社の国内航路のタンカーは年に一度、メンテナンスを実施。船を修理をするための施設「ドック」に7〜9日ほど入り、4〜5日かけて船体の塗装を行います。塗装にかかるコストや海への影響についても教えてもらいました。

──船底が赤いのは万国共通ですか。

「亜酸化銅は船底塗料成分として最も一般的に使用されている塗料です。原材料が赤色の物が最も安価ですが、費用を追加すると他の色にすることもできます。例えば、漁船などでは魚に気付かれにくい青色にされるケースもあるようです」

──塗装作業の手順は。

「最初に船体の水洗いを行い、塗膜が傷んだ部分をグラインダーで削り、鉄が露出した部分にさび止めを塗装、その後に亜酸化銅を含んだ塗料を塗ります」

──塗り直しのタイミングは。

「当社の国内航路を航行するタンカー船は年に1回のメンテナンス期間があるため、都度1年で溶けるだけの船底塗料で塗装を行っています。主にフジツボの付着で船底が汚れると、途端に船の速度が落ちることになるので、なるべく短い期間でのメンテナンスが好ましいといえます。海外航路の船舶は、メンテナンスそのものが当社船を含め5年間に2回のケースが多いですので、3年間分の塗料を塗るケースもあります」

──塗料が溶けると海への影響はないのでしょうか。

「船底塗料の仕組みとしては、段階的に溶ける樹脂の中の亜酸化銅成分がほんのわずかずつ船底に溶け出し、フジツボの幼生が付着するのを妨げる程度の刺激を与えることです。1990年代まで使用されていた有機スズの塗料に比べて海洋生物への影響は小さいと言われています」

──御社タンカー「ひなた」(総トン数3796GT、船体長104.6m)の場合、1回の塗装のコストは。

「1隻あたり、年間のペンキ代だけで約220万円程度、これにメンテナンスの人件費などを加えると大体400〜500万円が毎年かかることになります。当社の船は5隻ですので、その約5倍の塗装コストが毎年かかっております。古い船ほど補修の面積が増えて高くなります」

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 同社のYouTubeチャンネル「東幸海運タンカーの日常」では、普段見ることのできない船の巨大なエンジンや「難易度マックス」と言われるドックでの船の出し入れの様子、船員たちの船内での食事事情などを公開中です。

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