紡績機械のボビン手がけた高度な木工技術、リコーダーに生かして半世紀 大阪の竹山木管楽器製作所を訪ねた

小嶋 あきら 小嶋 あきら

身近な楽器リコーダー、実は古楽器の一種

 リコーダーというと、とてもポピュラーな楽器です。いわゆる縦笛ですね。とりあえず「音を出す」ということが簡単で、小学校の授業でも使われるので、ほとんどの方が触れたことがあるんじやないでしょうか。

 このリコーダー、確かに音は出しやすいですが、音楽を奏でる楽器として実はとても奥が深いものなのです。

 フルートなどに比べるとどうしても音量が小さなリコーダーは、現代的なオーケストラなどではあまり使われません。もう少し古い時代のクラシック、例えばバロック音楽などでチェンバロなどと一緒に演奏される古楽器の一種、つまり歴史の古い楽器です。また海外では教会音楽、ゴスペルなどにも使われるのだそうです。

 子どもの手の大きさに合わせて、小学校では比較的小さなソプラノリコーダーが使われます。中学校になると少し大きなアルトリコーダーが使われますよね。そうなんです、実はリコーダーにはさまざまなサイズのものがあるのです。そしてそのサイズごとに、カバーする音域が違うんですね。

 ソプラノリコーダーよりも小さく、もっとも高い音が出るのがソプラニーノ。そこから馴染み深いソプラノ、アルト、そしてテナー、バス、グレートバス。大きくなるに従って低い音が出ます。

 また、それぞれに現代の音程に合わせたもののほか、古楽器の音程に合わせたバロックピッチなどのバリエーションもあります。

 学校で使われているものはプラスチック製ですが、本来は木材で作られる楽器です。

糸巻きの製造技術がリコーダーに

 このリコーダーという楽器を作っている会社が、大阪市住之江区の安立(あんりゅう)本通商店街にあります。竹山木管楽器製作所です。商店街にアンリュウリコーダーギャラリーという店舗を出されていて、その奥の工場で製造販売する、日本でほぼ唯一の会社です。ギャラリーにはさまざまなサイズの、多様な木材で作られたリコーダーが並びます。

 安立の街は、昔から針の製造で有名でした。一寸法師伝説のある住吉大社も近く、あの針の刀との関連もあるかもしれません。また、針に関連して刃物や、紡績用の糸巻きなどの製造をするところもあったようです。竹山木管楽器製作所も元々は糸巻き、ボビンを作る工場でした。木でできた円柱状の糸巻き、真ん中に穴が空いたあれですね。同社のその「木の棒の中心に正確に穴をあける技術」に着目した楽器の会社から、リコーダーの製造を依頼されたのが始まりでした。もう50年以上も前のことです。

 当初は用意された設計図通りに製造するだけでしたが、その後オリジナルでリコーダーを製作するようになりました。また、当初は尺八などの和楽器も手がけられてましたが、いまはリコーダー一筋。国内外の著名な演奏家からも支持されるようになりました。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、尺八は音を出すのが難しい楽器です。息の吹き入れ方、唇の形が重要なんですが、リコーダーの吹き口は言わばその唇の代用、人工の唇のようなものなんだそうです。その吹き口の加工は温度や湿度にも左右される微妙な工程。工場の温度計と湿度計を見ながら補正を入れて調整しながら仕上げます。

 木材の中心に素早く正確に穴をあけるときに大切なのは、切削工具の刃。糸巻きを作っていた頃には、その刃物は市販されていないものでしたから、ここで作っていたのだといいます。この刃物の出来で作業の効率がまったく違ってきますから、上手く作れる人は給料が良かったのだそうです。

 リコーダーに使われる木材は、響きの良い硬い木です。加工が難しいのはもちろん、素材の調達も大変です。密度の高い木は生長に時間がかかるので貴重なんですが、さらに国内でなかなか取れないので主に輸入に頼ることになり、ワシントン条約などでもう入ってこないものも多いのだといいます。

 そして、このような工程を経て製作された竹山リコーダー。その音色が世界中で愛されているのですね。

 私たちにとって馴染みのある楽器、リコーダー。ちょっと楽器を始めてみようかな、という大人も最近結構いらっしゃるそうです。人生長くなったと言われる今日この頃ですから、お気に入りの楽器を手に入れて練習してみるのもいいかもしれませんね。

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