農学研究者で、『日本は何人養える』などの書籍も出版されている篠原信さん(@ShinShinohara)が、「震災」や「フードバンク」の観点から、支援や寄付に関する問題点を指摘した文章をTwitterやnoteで発信、話題となっています。
まいどなニュースでは、本ツイートについて、ツイ主である篠原さん本人にインタビューを行いつつ、2つの記事に分けて紹介しています。
第一弾では、篠原さんが阪神淡路大震災でのボランティア体験を通じて感じた、救援物資に関する問題点について紹介しました。
第二弾となる今回は「フードバンク」での食糧提供の課題、そして篠原さんが支援の現場で問題を起こしやすい「タチの悪い善意」について取り上げます。
そもそもフードバンクって?
食材や食品を余らせ、大量に廃棄してしまう。そんな「食品ロス」は大きな社会問題です。包装の破損や過剰在庫などの理由で、世に出されないまま廃棄されてしまうものもあります。農林水産省及び環境省によって発表された、令和2年度の食品ロス量の推計値は522万トンにも上り、一人あたりお茶碗1杯分の食糧が毎日捨てられているという計算になるそうです。
しかし、その一方では、生活困窮者や独り暮らしの高齢者、児童養護施設など、食糧を必要としているのに満足に行き届かない人や団体もあります。
フードバンクとは、そのような困っている方々のために、企業や個人から食品を寄贈・寄付してもらう活動のことです。また、フードバンクで集められた食品を、高齢者やひとり親世帯、子ども食堂などに無料提供する“フードパントリー”という活動もあります。
その他、レストランや業者側でこのままでは廃棄になってしまう商品を、生活者に安価で提供する、“フードシェアリング”というサービスも開始されるなど、さまざまな方面から食品ロスを減らすための活動が行われはじめています。
食品の寄付を募っても提供できるものはわずか
廃棄されてしまう食品を有志から集め、困っている人たちに無料で提供することで食品ロスを減らそうという、フードバンクやフードパントリーという活動。
とても良い試みだと思われますが、篠原さんはこのシステムにも大きな落とし穴があると指摘します。
前回の記事では、篠原さんが震災時に経験した「汚れて使えない毛布がたくさん送られてきて、仕分けや廃棄に多くの人手とスペースを要した」というエピソードを紹介しました。
フードバンク・フードパントリーの活動をしている知人から、支援に関する話を聞いた藤原さん。その現場でも「震災時の毛布」と同じことが起こっていると感じたといいます。
「(知人が)賞味期限が切れているものでも構わないと呼びかけたところ、集まった食品のほとんどが賞味期限切れだったのはもちろん、妙な調味料とか見たことのない奇抜なものばかりで、お腹の膨れるようなものはがほとんどなかったそうです」(篠原さん)
提供できる食品の選別にかなりの時間がとられたうえ、支援対象者に持っていけるものはごくわずか。
「それなら買ったほうが安いし、何より、ほとんどをゴミにするしかないものを支援対象者がもし受け取ったときの心理的衝撃の大きさを思うと、とても悲しい気持ちになった」と、篠原さんの知人は嘆きの気持ちを吐露していたそうです。
支援で陥りやすい「タチの悪い善意」の落とし穴
「震災」「フードバンク」に関する共通の問題点について指摘する篠原さんのツイート。
被災地に汚れた毛布が大量に送られてきたという経験。困っている人に食べ物を届けたい、という思いから始まったフードバンクにもかかわらず、蓋を開けてみればちゃんと食べられるような食品が集まらないという現実。
篠原さんは、それらの原因について、人のもつ「タチの悪い善意」という性質が根本にあるといいます。
フードバンクのシステムには、「食品ロスを減らす」という前提があります。しかし、それは考えようによっては「余りものを与える」という解釈もできてしまいます。その考えはとても危険であると、篠原さんは指摘します。
なぜなら、要らないものはフードバンクに送ればよいという風潮や、相手に対して「ありがたいと思え、感謝しろ」と見下すような気持ちにつながりかねないためです。人を見下す心、思い上がり――そのような善意の衣を被った心理は、悪意よりもタチが悪いと篠原さんはいいます。
「支援の基本は、自分も食べたくなるようなもの、使いたくなるようなものをお送りすること。ここを外しちゃいけない」(篠原さんのツイートより引用)
相手を見下すのではなく、“対等な人間”としてみて対応することが大切だと、篠原さんは考えます。篠原さんによるフードバンクの問題点、そこに潜む「タチの悪い善意」という鋭い指摘。リプ欄にも多くの共感の声がありました。
「寄付と思っててゴミ捨てになってしまってるというのは考えものですね。そこまで考えてなかった。自分のメリットばかり先行せず相手が喜ぶ事、基本ですね!」
「本質に向き合わないと、いらない善意で迷惑になるって話だね」
「そもそもゴミを送り付けてるだけなんだよな。救済とは名ばかりのただのゴミ処分」
このような感想のほか、昨今の食品ロス問題について、自分なりの意見を言われる方も。
「(以前ピザ屋で働いていましたが)出来立ての、何ならお客様に届く時より美味しいピザがゴミ箱に直行する光景は今思い出しても疑問を感じます。フードロスを減らす努力は、そういった現場の消費でこそするべきと思います」
「作りすぎない、程よく在庫有りがロス削減の一歩かと…」
「フードロス問題等、『もったいない』の考え方に引っ張られすぎていて、出てしまった使わないものを再利用・再使用しようとする動きが大きいように感じます。1番良いのは『もったいないから…』と後から言わなくて良いように効率的な使用の仕方や、ものを長持ちさせる工夫だと思います」
そのような声があるなか、篠原さんは、貧しい人に食事を分け与えるという考えだけではなく、「雇用や給与の問題を解決する努力を社会全体ではじめていくこと」も大切だと語ります。
食品ロスと人々の経済的格差。それらの問題の解決のためには、まだまだ考えるべきことがありそうです。
「…してあげたのに」という傲慢さが根本にある
篠原さんにさらに詳しくお考えを聞きました。
――今回のテーマであるフードバンク・フードパントリーをはじめ、多方面で食品を通じた支援活動が注目されていますが。
篠原さん:食品ロスを支援と結びつける活動は何であれ、ゴミを相手に押し付けるものになりやすい、という問題が潜んでいることを、まず多くの方に知っていただきたいです。それは、苦しんでいる人たちを二重にも三重にも傷つけます。
――篠原さんが指摘する「タチの悪い善意」についてですが、さまざまな場面でそのような風潮はある気がします。
篠原さん:私たちは「やってあげたのに感謝がない、期待通りに動かない」と言って怒ることがあります。善意を向けて「あげた」のに、期待して「あげた」のに、それに報いようとしないと言って怒ることは、親でも指導者でも交友関係でも起こり得ます。善意や期待を相手に与えれば、相手は感謝なり期待通りの行動なりで返礼するのが当たり前、と考える傲慢さを持つことがあります。こうした、善意の皮を被って相手を操縦しようという企みは、「悪意よりタチの悪い善意」と言えるかもしれません。
――確かに、日常生活でもそのような場面にはよく出くわしますね。改めて支援に目を向けた場合、このような問題点の改善のためには、どのような指針を設けることが大切だと思われますか?
篠原さん:相手が思い通りになると「期待」することをやめ、代わりに相手が笑顔で生きていけますようにと、「祈る」ことに置き換えることかな、と思います。
――なるほど、「祈る」のですね。
篠原さん:例えばですが、赤ちゃんが言葉を話したり立ったりできるように、親は教えることもできません。しかしそうするとある日、赤ちゃんは立ち、言葉を話したりします。その時、親は驚きます。その「驚き」を子どもはどこかで覚えているから、「ねえ、見て見て」と言うのだと思います。子どもは驚かすのが大好きです。でも、それは大人になっても同じです。誰かの耳目を驚かせるのが大好き。
――確かに。大人になっても、子どもの頃の思いが残っているからかもしれませんね。
篠原さん:ならば、基本的に他人の幸せを「祈る」ようにして、もし願い通りに本人が努力したり行動したりすれば「驚く」とよいと思います。すると、人は驚かすことができたことが嬉しくて、さらなる工夫・発見・挑戦を重ねる意欲が湧きます。「工夫・発見・挑戦」する「意欲」が湧けば、大概の困難を乗り越えていく力になります。祈りや驚きによって相手の意欲を高める。「期待」をそれらに置き換えれば、「悪意よりタチの悪い善意」は影を潜めるのではないかと考えています。
◇ ◇
有志の方々に食品を寄贈してもらい、失業者やひとり親世帯、施設など食に困っている人たちに届けるというフードバンク・フードパントリーの取り組み。しかし、そのあり方によっては、かえって当事者を悲しませたり、新たな問題を引き起こしたりする危険性も潜んでいます。
人々に喜ばれる支援を行い、よりよい社会づくりを実現するために何が大切か。私たち一人一人がしっかり考える必要があるでしょう。
人としての大切な心構えについて教えてくれた篠原さん。書籍も多く執筆されています。
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■篠原信(shinshinohara)さんのTwitterはこちら
→https://twitter.com/ShinShinohara
■今回の文章をまとめた篠原さんのnoteはこちら
→https://note.com/shinshinohara/n/n6f32953e0773
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