「過剰品定めはやめてください」「生ものは押された所から傷みます」。フルーツトマトなどを生産する「曽我農園」(新潟市)のツイッターアカウント(@pasmal0220)が訴えた異例のお願いが注目を集めています。投稿されたのは、トマトに添えられた貼り紙。同農園の代表・曽我さんによると、これまで客の行き過ぎた品定め行動に悩まされていたといい、商品が傷んでダメになることもしばしばだったそう。貼り紙を作るに至った経緯、その後の効果について、曽我さんにお話を伺いました。
選別しているのに…「傷んでいた」とクレーム
曽我農園が商品を卸しているのは、主に生協・JA・自社直売所の3つ。貼り紙は昨年から自社直売所のみで掲出しています。
なぜ、このような貼り紙が必要な事態になったのでしょうか。そこには農園が抱える、「買い物客の過剰な品定め」への苦悩があったといいます。
「わたし自身が生産し、直売所で販売もしています。直売所を始めてから15年以上になりますが、お客さんから『(トマトが)柔らかくなり、傷んでいた』というクレームを幾つかもらうことがありました。当農園ではしっかり選別をしてから出すので、最初から傷んでいることはなく、おかしいと思っていました」(曽我さん)
それから曽我さんは、買い物客の購買行動を観察。すると、野菜を過剰に品定めしている人がいることに気が付いたといいます。「結果、閉店直後に余った品物を調べてみると、柔らかくなり汁が出ていたりするものがやはりありました」と曽我さん。
では「過剰な品定め」とは、一体どのようなことを指すのでしょうか。「数年観察していましたが、片っ端から手に取って揉んだあげく全く買わないという人や、乱暴に放り投げる人、固さを調べるためか指で押す人、とりあえず全部ひっくり返してみないと気がすまない人など一定数います。それも1人ではなく、何人もの人が触ったり押したりしていて。
スーパーさんの地元農産物売り場へ直接卸しているときに観察していると、想像より多くの方が生鮮野菜をベタベタ触っているのに驚きます…。そのようなことが複数人で繰り返されると農産物はすぐに傷んでしまい、後に買ったお客さんからわたし自身のところにクレームが来ます。スーパーの場合、私が直接管理できないので泣き寝入りするしかないのが現状で。『傷んでいた』というクレームが生産者のわたし自身にくることに強いストレスを感じていました」
手塩にかけて育て、選別を経てせっかく売り場に出たトマトが思わぬところでダメになってしまっていることに、曽我さんは心を痛めていました。
貼り紙後は「明らかに減少しました」
そして意を決し、「過剰な品定めはやめてください」という貼り紙を出すことに。悪意なくやっていた人たちが気づくきっかけとなったのか、効果てきめんだったといいます。
「貼り紙は自社直売所だけですが、明らかに過剰品定めは減少しました。ポップを見ていない方や見ていても習慣でベタベタ触ってしまう方には勇気を出して口頭で注意をするようにしました。今年は1人逆ギレしてくる人はいましたが、もう来なくなったのでクレーマーがいなくなり、気持ちが楽になりました」。
貼り紙のおかげで直売所の野菜がダメになってしまうような行動は減りました。しかし、この「過剰な品定め」は曽我さんの直売所に限った話ではありません。生鮮野菜を作る農園として消費者に伝えたいことを尋ねると、曽我さんは以下のようにコメントしました。
「トマトに限らず、生鮮野菜はすぐに傷むので最低限の品定めにしてほしいと思います。ベタベタ触っても品質の善し悪しは理解できません。また当農園では栽培していませんが、特に桃はデリケートなので触らず見るだけで購入してください。反対に、生鮮品以外の、例えば加工品などはアレルギー表示などのこともあるのでその限りではありません。ただ、『後にも買うお客さんがいる』ということを考えて欲しいと思います」