阪神淡路大震災の現場でボランティアが愕然となった、物資支援について…これからの支援のあり方を考える①

竹中  友一(RinToris) 竹中 友一(RinToris)

「阪神大震災は1月17日に起きた。真冬でともかく寒かった。このため、救援物資として毛布を送ってほしいという呼びかけがなされた…」

農学研究者であり、食糧不足問題に言及した『日本は何人養える』などの書籍も出版されている篠原信さん(@ShinShinohara)。「震災」や「フードバンク」といった支援にまつわる疑問や課題をTwitterやnoteで発信し、多くの反響を呼んでいます。

地震などで被災した方に食糧や毛布などの物資を寄付することは、とても大切です。また、近年では、高齢者や生活困窮者、子ども食堂などに食品を寄付・提供する「フードバンク」「フードパントリー」というシステムも注目を集めています。

このようなボランティア活動に従事したり、物や食糧を寄付したりといった行為は、とても尊いものに思えます。しかし、一つ間違えると、それは役立つどころか、かえって問題を生じさせてしまうと、篠原さんは指摘します。

篠原さんがそう考える理由。それは、被災地の現状をその目で見たことにありました。

今回、まいどなニュースでは、篠原さんのツイート内容について2記事にわたって紹介。第一弾となる本記事では、「震災」をテーマにお送りします。

震災の現場から感じた救援物資に関する問題

1995年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災。

当時、京都で大学生活を送っていたという篠原さん、弟さんが神戸の大学に通っていたこともあって、家族全員で支援活動を行うことになりました。

「私自身は週末の夜に神戸に向かい、物資を運ぶと同時に、徹夜で現場の話を聞き、翌日、必要な活動を行いつつ、常駐ボランティアと相談して一週間の方針を作る手助けをしていました。常駐ボランティアは毎日の支援活動で疲弊しており、頭の整理ができなくて困っていたので、私が徹夜で聞き取りして整理し、常駐ボランティアに一週間の方針を相談して決める、というスタイルに自然に落ち着きました」

当時の活動について、このように振り返る篠原さん。忙しい卒業研究の合間を縫って現地を訪れ、支援活動に励んでいたといいます。

しかし、そこで信じられない現実を目の当たりにすることにもなりました。

『全国から大量の毛布が送られてきた。この時困ったのが、汚れた中古のものが少なくなかったこと。というか、多かった。衛生面で不安があり、それらは廃棄した』(篠原さんのツイートより引用)

救援物資として送られてきた毛布の中には汚れているものも多く、大量の段ボールに入った物資を一つ一つ検品するのに多くの人手が必要になったといいます。さらに、使用できないものも大量にあり、それらをゴミとしてより分けておくスペースも、かなりとられたとのこと。

篠原さんによると、未使用品でもぺしゃんこだったりカビ臭かったりするものや、「こんなものでもありがたいだろう」と、送り手の被災者を見下げているような気持ちを感じさせる梱包のものも多かったといいます。

その一方で、中古品であっても人気の毛布もありました。それには、『使用済みのもので申し訳ないのですが、洗濯し、3日間日に干しました。こんなものでよろしければお使いください』という手紙が添えられ、箱詰めも毛布の柔らかさが損なわれないよう細心の注意が払われており、気持ちよく使って欲しいという心遣いが伝わってきたといいます。

せっかく物資を送ってもらっても、その状態によっては使えなかったり、いたずらに負担を増やしたりすることもある――衝撃的な被災地の実情について綴ったツイート。リプ欄にも多くの反応がありました。

「寄付だから何でもいいわけじゃないですよね」
「母が人に物を差し上げる時は『惜しい』と思う物をと言っていました。特に見ず知らずの方に送る場合は尚更と」
「東日本大震災のとき救援物資の受付をさせていただきましたが、本当にそんな感じでした。貰い物だけど未使用だからと、何十年前と思われる毛布などを持ってこられた年配の方、たくさんいらっしゃいました。受け取れないと断るとすごい剣幕で怒られたので、途中から受けとった上で捨ててました」
「こういう呼びかけをするときに、きちんと指針を設定した方が良い気がします。中古ならこういう条件のもの(1週間以内に洗濯した破損していないもの、など)と指定するだけで随分違うのではと。寒いだろうからすぐ捨てられても良いから1日も早く送ってあげようと考えた方も多かったのではないでしょうか?」
「(被災地に)ユニクロでパンツ、靴下をたくさん買って持参すると『新品!わざわざ買ってきたんですか?』と驚かれたのでこちらが驚きました」
「寄付の呼び掛けでお金をお願いされる理由が分かりました。ダウンコートや余ってる毛布類を送れたら良いのにと感じてましたが、受け入れる側の困惑があったのですね」

実際に被災された経験のある方や、被災地でボランティアを行った方、寄付を行った方の体験談も含め、たくさんのコメントが寄せられています。

困っている人に何かを届ける際は、「この程度でいいだろう」という安易な考えではなく、相手の助けになると本当に思えるものを考えて送ることが大切ですね。

再び起こる災害に向け、支援のあり方を見直すべき

一部紹介した通り、コメントの中には阪神淡路大震災だけでなく、2011年に起こった東日本大震災など、他の災害時のエピソードについて紹介しているものもありました。

地震や台風などによる、自然災害はいつ起こるか分からないもの。私たち一人一人が、そのことを自覚し、過去の災害時の出来事について学ぶなどしながら、来るべき時に備えておく必要があります。

今回の取材で、篠原さんはツイートの内容とはまた違った、当時の体験についてもお話しくださいました。

◇ ◇

救援活動を行っていた篠原さん。ある日、神戸市東灘区の物資集積所を訪れたところ、あったのはペットボトル数本分の水、数枚の使い捨てカイロのみで、物資が極端に少なくなっていました。

当時、東灘区には170もの避難所がありました。それだけ多くの避難民がいるにもかかわらず、なぜこれほどまでに物資が不足していたのでしょうか。実は、この少し前に、神戸市が「物資で溢れかえっているのでこれ以上送らないでほしい」と呼びかけをしていたそうです。それで、送られてくる物資が急に途切れてしまったのだ、と篠原さんたちは考えました。

調査したところ、神戸市内の各地で物資が不足していることが分かりました。

また当時、被災者への食糧について、「700円以上の弁当が支給されている」という報道もありました。しかし、実際に避難所に配られる一日の配給は、一人当たりおにぎり2個、ソーセージ1本とスパゲッティ数本、菓子パン1つ、牛乳パック1個――その程度のものだったといいます。このままでは食物も飲み物も大幅に不足することが予想されました。

このままではとても支えきれない――と、ボランティアチームは手分けして、各方面に被災地の実態と物資の支援について訴えました。

「意外なことに、マスコミはテレビも新聞も、被災者が何を食べているのか把握していませんでした。ごく一部の避難所でたまにステーキや焼きそばが振る舞われたりする映像に、マスコミ関係者自身が惑わされていたようです。毎日支給されている弁当の実態を伝えると絶句。すぐ報道することを約束してくれました」(篠原さん)

それから、“一日の配給がお粗末なものであったこと”、“食料と飲料が枯渇しかけていること”、“毛布や衣服などの支援物資が余っているのは神戸市の発表通りだが、不足する物資は刻々と変わっていくこと”について、各報道機関が伝え始めました。

その結果、次の週末は大勢のボランティアが訪れ、足りないと言われていた物資を大量に持参してくれたといいます。

◇ ◇

篠原さんのお話は、現地の実際の状況を知ることがいかに大切かを教えてくれます。また、各メディアの報道や自治体の発表などのされ方によっては世間に間違った情報が伝わってしまう、という恐ろしさも感じさせられました。

正しく情報を発信すること。それを正しく知り、必要な対応について考え行動すること。

起こり得る災害。適切な支援や、いち早い復興のために何が必要なのか。過去の実例からも多くのことを学ぶことができます。

◇ ◇

阪神・淡路大震災から、28年が経とうとしています。当時の体験や思いを風化させないためにも、私たちはあの出来事から学び、未来に活かしていくことが大切でしょう。

さらに、今回の篠原さんのツイートには、自身の「震災」の体験談を踏まえ、昨今の「フードバンク」に関する課題や問題点、さらにその裏に潜む人々の「タチの悪い善意」という心理についても書かれています。

それらは、次回の記事で詳しく紹介します。

■篠原信(shinshinohara)さんのTwitterはこちら
 →https://twitter.com/ShinShinohara

■今回の文章をまとめた篠原さんのnoteはこちら
 →https://note.com/shinshinohara/n/n6f32953e0773

■篠原信さんの書籍『そのとき、日本は何人養える?』はこちら
 →https://www.amazon.co.jp/dp/4259547763/

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