「はぁーーー最悪」「ハズレだ」。ゼロ歳の長女を抱えて乗車した東京行の「のぞみ」。隣から聞こえたその言葉は小声でしたが、確実に小澤美佳さんの耳に残りました。つぶやいた後、若い女性はヘッドホンを付け、親子が品川で降車するまで言葉を交わすことはありませんでした。
「ショックだった話。」の書き出しで、株式会社ニット広報の小澤さんが、自身のアカウント(@mica823)でこの出来事をツイート。「気持ちは分からんでもないが、もう少し寛容な世界になってほしい」と思いをつづると、4万近いいいね!が付きました。
「そう思ったとしても、口に出すべきではない」「子連れ専用車両があれば」。子育て真っ最中の人、子育て経験がある人、子どもが苦手な人。さまざまなコメントが寄せられました。小澤さんに聞きました。
「最悪」「ハズレだ」A席の若い女性がつぶやいた
小澤さんによると、この出来事は10月2日の夕方、名古屋駅から乗ったのぞみの車内でした。実家のある愛知県内で8月に里帰り出産し、その日は生後1カ月半の娘と夫、義理の父・母も一緒でした。
ーどのような状況だったのしょうか
「のぞみの席は、BとCを前後で予約しており、その方は既にAに座っていました。Bが私、Cが夫で、義理の父母は全くこの件を知りません。私たちが座ろうとしたタイミングで、『最悪』と言ってヘッドフォンをしたので、少しでもその方から子どもを離そうと夫がずっと抱っこしていました」
ー東京までどのような1時間半だったのでしょうか
「子どもが『乗車中に寝ている』という状態にしようと、乗る前は子どもを起こしておき、乗車直前に授乳しました。乗っている間は比較的お利口さんにしていたのですが、数回ぐずりかけた瞬間がありました」
ーいつも以上に気を遣います……
「その都度、夫が立ち上がって、デッキへ出てあやし、落ち着いたら戻ってくる、を繰り返していました。A席の女性とは、ずっとピリピリした空気が流れていました。会話は一切なく、降りる時もこちらから声を掛けることはなかったです」
ー小澤さんの周囲には同様の経験がある人は
「友人には、『周りの目が気になるから新幹線に乗りたくない』と言っている人がいました。男の子2人いる別の友人は、『乗る直前にキッズスペース的なところで遊ばせてクタクタにしてから乗せて寝かせていた』と言っていました」
お子様連れ専用車両、JR東海に聞いた
東海道新幹線には、長期休暇に合わせて「お子様連れ専用車両」があります。ジェイアール東海ツアーズの旅行商品として期間限定で発売。直近では、2022年7月16日から2022年8月21日の夏休み期間に1日片道1~2本、計69本運行しました。
JR東海によると、サービスの前身は2010年夏に設定された「ファミリー車両」で、2021年10月から現在の名称に。サービス内容が異なりますが、「子連れ客にも気兼ねなく利用してもらいたい」というコンセプトは同じといいます。同社関西広報室によると、利用者アンケートでは「気兼ねなく利用できる」ことのほか、「泣いたらどうしようといった心配がない」「ドリンク引換券が魅力的」などの声が寄せられているといいます。
お子様連れ専用車両の拡充については「アンケートでは、長期休暇以外の日の設定や一日の設定本数の増加など設定本数を増やしてほしいというお声もいただいています。利用状況を見極めながら検討したいと思います」と話しています。
元パーサーからの温かい言葉
今回のツイートに対して、「口に出すのはよくないけど、子どもがうるさいなと思う気持ちはわかる」というコメントも多数寄せられました。小澤さん自身も「その気持ちはよく分かります。聴覚障害がある人には、子どもの甲高い声が耐えられない、ということもあると思います」と話します。
その上で「小さなお子さんを連れた親御さんは、新幹線をはじめ飛行機や在来線でも、長時間での公共交通機関での移動は、周囲へ迷惑をかけまいと『乗りたくない』と考えてしまう。ビクビクしながら『お願いだから、泣かないで。大きな声を出さないで!』と子どもに対して思ってしまいます」と胸中を推し量ります。
(新幹線の)パーサーだったというユーザーからは温かい言葉が寄せられました。「多目的室では安心して授乳をしていただけますし、もしお子さんの対応にお困りのことあれば、パーサーを呼んでください。何かしら、お力になれると思います」と。
小澤さんは、鉄道会社に対して「子どもが苦手な人がいらっしゃるのも事実です。子連れ家族が周囲に必要以上にビクビクしないためにも、子連れ専用車両を拡充し、認知を上げていってもらいたいです。そうすることで、子どもを連れて旅行を楽しんだり、少し遠出してみようという気持ちになれたりするのだと思います」と話します。そして社会全体に対しても「周囲への子どもの迷惑行為をほったらかしの親御さんはよろしくないと思います。ですが、もう少し、子育て家族への寛容さと温かさがあってほしいと願います」とツイートに込めた思いを語りました。
子連れ家族が気兼ねなくお出掛けするため、専用車両の充実は必要ですが、それは「選択肢」の一つです。すみ分けだけに解決の糸口を見出すのではなく、たまたま隣り合った、そしてこれから隣り合う私たちには寛大さ、優しさが求められています。