奈良公園に「鹿せんべい」自販機、露店の販売員の思いは? 鹿への愛護は「自販機には負けない(笑)」

塩屋 薫 塩屋 薫

「奈良公園」(奈良市)周辺に暮らす鹿のエサとなる「鹿せんべい」が、10月24日から新たな形態の自動販売機に登場しています。この界隈で見られるおなじみの光景である対面販売をおこなう露店への影響は…!? 販売員へ率直な思いを聞きました。

現地を訪れてみると、自販機は「春日大社国宝殿」前と「鹿苑」の2ヵ所に設置されていて、「ダイドードリンコ」(本社:大阪市)の飲料とともに販売されるのは初とのこと。露店では10枚・200円の「鹿せんべい」ですが、24時間購入できる自販機では箱入りで10枚・500円、鹿角ストラップ(1000円)などお土産グッズも一緒に販売されています。

数々のニュースで紹介され、「販売、夕方早くに閉まるから自販機はいいね」「鹿が自販機周辺に群がるのでは」「夜中に観光客が他の食べ物を与えるのを防ぐという目的は素敵」といったコメントが。ただ、露店での価格は200円ですが、自販機ではパッケージが付き、保護活動費としての寄付も含まれ500円。そのため「高いのでは?」と値段への驚きや、「鹿せんべい売りの仕事がなくなるのでは?」と心配する声など、さまざまな意見がSNSであがりました。

販売員は鹿の愛護も担っている

「奈良公園行商組合」によれば対面販売をおこなう現在の登録者は80人ほどで、近年は減少傾向にあるそう。現地の販売員に話を聞いてみました。

――新たな自販機ができたことについて、いかがですか?

人にもよりますが露店だと夕方3~4時台には店じまいになることが多いので、夜も購入できるのはいいことだと思います。奈良公園に観光に来たお客さんから鹿へは「鹿せんべい」以外のものは与えてはいけないので。

――販売員の方は外国人観光客に道を教えたり、お客さんとの会話も楽しんでいるように見えますが、有人販売の良さとは?

簡単なやり取りができるよう、何ヵ国語か覚えましたね。鹿とはお互いに慣れているので、お客さんにも注意事項を伝える事があります。例えばお子さんには、鹿が急激に来ないようせんべいを束で持たないようにアドバイスしたり。そして、各販売所には鹿についての注意書き看板と糞を掃除するほうき・ちりとりがあるので、販売員は鹿の愛護も担っています。

――なるほど、鹿へのマナーを広げる拠点にもなっているのですね。

以前はこの近くで鹿と車の事故が多かったのですが、鹿が集団で走って来た時に、車に止まるよう合図をしてみたら事故が減りました。現場だからこそ気がつくこともあるかと。

――コロナ禍で観光客減少など、大変だったのでは?

最近はまたお客さんが戻りつつありますが、コロナ禍が始まった頃は商売にならず休業の日が多かったですね…。それでも、鹿好きのお客さんたちと連絡を取り合って、鹿の餌やりは続け、様子を見に行っていました。

――みなさんで連携して鹿を守っているのですね。

奈良の鹿は国の天然記念物で、大切な存在。お客さんからは見分けがつかないと思いますが、どの子か顔で分かるぐらい毎日見ていますので(笑)。昔は犬好きだったのに、今はすっかり鹿好きになりました(笑)。

――鹿への愛があふれていますね。最後に改めまして、このお仕事についてコメントをお願いします。

朝早くから日光のもとで過ごし、健康的な仕事だと思います。それに、機械は鹿を守れないでしょ?自販機には負けないです(笑)。

◇ ◇

ちなみに「鹿せんべい」を束ねている紙は、鹿が食べても害がない和紙、印刷されている文字のインクは大豆の成分でできているとのこと。会話の中でこのような豆知識を教えてもらえるのも、対面販売ならではですね。

観光客や地元の人々が、鹿に勝手にお菓子などの食べ物を与えてしまうことがきっかけの一つとなり誕生した自販機。喜ばせてあげたいと思うのであれば、健康を守るためにも鹿せんべい以外を与えてはいけないということを忘れてはいけません。いずれで購入するにせよ、鹿にエサを与える際は、長く触れ合おうとじらしたり、大声で騒がないよう、今一度「鹿からのおねがい」看板でマナーのご確認を!

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