3期目が確実視される習近平国家主席は16日、5年に1度開かれる共産党大会で2時間あまりにわたって演説し、過去5年の共産党が成し遂げた成果を強調した。今回の演説で筆者は大きく2つのことを強く感じた。
1つ目は、米国に並ぶ、そしていつかは追い抜こうという習近平氏の想いだ。2時間あまりの演説を1つ1つ紹介はできないが、習近平氏は経済力で中国がここまで発展してきたことを強調し、それを武器に安全保障やサイバー、宇宙やテクノロジーなど様々なドメインで世界をリードする中国になる目標を掲げた。演説で米国を名指ししたわけではないが、習近平は明らかに米国を念頭に置いて発言していた。習近平氏は中華民族の偉大な復興を長年掲げているが、唯一の競争相手である米国との戦略的競争にいつの日か勝利し、おそらくは米国を追い越した時を偉大な復興と捉えているかもしれない。
今日の世界において、米国と競争できる国があるとすれば、それは間違いなく中国のみだろう。政治の腐敗・汚職、経済格差の拡大、少子高齢化、共産党政権への市民の不満など、習近平指導部が警戒する国内課題は多いが、その中でも中国が欧米諸国以上に今でも高い経済成長率を維持していることは確かだ。3期目の習近平氏は、自分が指導者であるうちに米国に接近し、そして追い抜くことを目指し、今後とも米国を強くけん制してくることだろう。今回の演説は我々にそれを確証づけた。
そして、もう1つのポイントは台湾だ。習近平氏は演説の中で、台湾の独立を巡る動きに対しては断固たる姿勢を貫き、台湾統一のためには武力行使も辞さない姿勢を改めて強調した。まずは平和的手段、それが駄目と分かったら軍事力―というスタンスはこれまで通りで、真新しいものはなかった。しかし、昔と今日では状況が異なり、習近平氏の“武力行使も辞さない”という言葉は以前よりもはるかにリアリティがある。
周知のように、中国の防衛費や軍事力は増強の一途を辿る一方、台湾の蔡英文総統は米国など欧米各国との結束をこれまで以上に強化している。米国だけでなく、フランスやオーストラリアなど各国の指導者層レベルが相次いで台湾を訪問しているが、中国はそれに対して政治的不満を積もらせている。そのような中、8月はじめに米国ナンバー3ともいわれるペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、中国はミサイルを発射するだけでなく、台湾周辺での軍事演習をエスカレートさせ、中国軍機の中台中間線越えや台湾離島へのドローン飛来が激増している。
こういった最近の全ての状況は、中台関係の緊張をこれまでになく高め、偶発的衝突によって一気に有事に発展する危険性を内在している。それを持ってしての習近平氏による“武力行使も辞さない”という言葉を、我々はもう現実問題として認識する必要があろう。後はもう習近平氏がいつどのようなタイミングで軍事行動に出るかどうかだ。刻々とその時間は近づいている。