中国にとって、台湾とウクライナは別問題 プーチン劣勢は習近平に影響なし

治安 太郎 治安 太郎

ウクライナ情勢を巡っては、今日状況が一段と悪化している。侵攻当初、首都キーウの陥落、ゼレンスキー政権の崩壊、そして親ロの傀儡政権を狙っていたプーチン大統領の計画は見事に打ち砕かれ、プーチン大統領は劣勢を何とか食い止めるべく、部分的動員と東部4州(ドネツクやルハンシクなど)の併合という手段に打って出た。

しかし、部分的動員を巡っては多くのロシア人が隣国へ脱出を図るだけでなく、東部4州の併合においてもウクライナ軍が進軍を続けており、これら2つの策も有効打になっていないのが現状である。今後、プーチン大統領を取り巻く状況がいっそう厳しくなれば、限定的でも小型戦術核を使用する可能性も示唆されている。

一方、今年に入ってのウクライナ情勢を巡っては、ロシアの劣勢が顕著になるにつれ、中国にとっての台湾侵攻のハードルは上がっているとの見解が内外で聞かれる。確かに、ウクライナ侵攻によって生ずる軍事的リスクやコスト、また、欧米諸国が実施する武器支援などというものは、中国が台湾へ侵攻する際に重要なバロメーターになるはずだ。台湾統一を掲げる中国としても、それに掛かるリスクやコストをウクライナ情勢を1つの参考、教訓にしていることだろう。

しかし、ウクライナでロシアが劣勢になることによって、中国の台湾侵攻のハードルが上がるとは言い切れない。むしろ、それは全くの別問題だと言える。ウクライナと台湾は比較されることがあるが、侵攻者の考えが全く異なる。

ロシアがウクライナに侵攻したことは侵略であり、明確な国際法違反で、戦争犯罪を含めプーチン大統領とその関係者の罪は極めて重い。しかし、侵攻を決断したプーチン大統領でさえも、ロシアとウクライナは違う“国家”だが同じ民族であり、また、ウクライナで抑圧されるロシア系住民を救うため“侵攻”したと発言している。この国家と侵攻という言葉からは、プーチン大統領が侵攻対象を“外国”と認識していることがうかがえる。

一方、侵攻対象となる恐れがある台湾は、侵攻者の考えがまるで異なる。中国はそもそも台湾を外国と認識しておらず、北京の不可分の領土、諸外国に絶対に譲ることのできない核心的利益に位置づけている。要は、中国にとって台湾は国内であり、そもそも侵略という概念が存在せず、国際法で是非が問われる議論でもないのである。

中国が台湾へ侵攻するかどうかを見極める際、もっとも重視しているが米国が軍事的に関与するかどうかである。プーチン大統領がウクライナへ侵攻する判断において、事前にバイデン大統領が米軍のウクライナ派遣を明確に否定したことがあると言われるが、米軍が関与しない、もしくは米軍が関与しても中国軍の侵攻は食い止められないと中国が判断した瞬間が極めて危険になる。

ロシアも中国も、軍事侵攻に掛かるリスクやコストが侵攻の決断を左右する重要なバロメーターになることは間違いない。しかし、それ以上に重要なのは侵攻対象への理念だろう。上述のように、プーチン大統領にとってウクライナは国際問題、習国家主席にとって台湾は国内問題であり、特に共産党は長年台湾統一を国是にしており、想いの強さというものはウクライナと台湾はまるで異なる。

習国家主席は3期目に入れば、ますますこの問題に対して強気の姿勢で望んでくることだろう。日本でも台湾有事に関する議論が今になって活発になってきたが、企業間では撤退や規模縮小といった議論は未だに皆無に近い。我々はウクライナと台湾が全く違い問題であることを深く認識する必要がある。

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