高齢者夫妻が不適切飼育 山盛りの白ごはんに集まる野良猫たち 生まれる子猫を狙ってアライグマまで…

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

保護猫団体は行政からの依頼で、猫の捕獲や多頭飼育の飼い主の対応をすることがあります。しかし、その多くは行政から手当が出ることはありません。野良猫を地域猫にするための去勢・避妊手術の費用を一部負担してくれることもありますが、ほとんどは保護猫団体の善意に任せているのが現状です。

2022年6月に三重県名張市で、高齢者夫妻による猫の不適切飼育が発覚しました。世話ができないにも関わらず、野良猫に山盛りの白ご飯を与えているのです。これですから猫が繁殖し、生まれたての子猫を狙ってアライグマまでやってくる始末。この動物たちの糞尿被害が酷く、近隣住民は頭を悩ませていました。

夫妻の見守りを行っていた地域包括支援センターは何とかしたいと思っていても、猫捕獲のノウハウはありません。そんな時、目に入ったのが市役所の掲示板に貼ってあった猫の譲渡会のポスター。そこに記されてあった主催者、にゃにゃ俱楽部に連絡を取ることにしたのです。

連絡を受けたものの、にゃにゃ俱楽部は悩みます。猫を保護したくても、預かる場所が足りないのです。何よりメンバ―は全員、普段猫とは関係のない仕事をしています。地域包括支援センターと足並みを揃えるには、仕事を休まなくてはなりません。

それでも大変なことが起きてると知ってしまったからには、何とかしたいと思うのが人の常。にゃにゃ俱楽部は悩んだ結果、地域包括支援センターに捕獲器とタオル・シーツ類の確保をしてくれるならば引き受けると回答しました。

捕獲器等が届き、いよいよ猫の捕獲です。地域包括支援センターの職員は捕獲に加わらず、報告を待つのみになりました。捕獲当日はしとしとと雨が降り、雨合羽がジトッと肌に張り付きます。そんな中、にゃにゃ俱楽部のメンバ―は捕獲器を設置し、茂みで待機。何とか全員捕獲し、新しい家族につなげたい、その一心です。

順調に猫は捕獲されていくのですが、気になることがありました。それは子猫が少ないこと。これだけ成猫がいるなら、もっと子猫がいてもいいはず。チラリと見えたアライグマはとても毛艶が良く、とても太っていました。やはり…。無計画な餌やりは、外来種問題にも少なくない影響を与えているようです。

どんどんと捕獲されていく猫たちを目にした老夫妻は、何度も「かわいそう」と口にしました。それでも子猫を産む度にアライグマに捕食され、成猫になってもアライグマに追いかけまわされ尻尾や後ろ足を食いちぎられる環境は、猫にとって最適とはいえません。にゃにゃ俱楽部は根気強く老夫妻を説得しました。

説得が通じ、老夫妻は猫が捕獲器に入るよう手伝ってくれるように。猫全員が捕獲され、にゃにゃ俱楽部が現場を後にする時には、捕獲器の猫たちに向かって手を振りました。目じりを下げて、泣きそうな笑顔で言うんです。

「バイバイ」

大切にしたいのに、高齢者になるとその方法が分からなくなる。猫たちにできる最後のこと、それが猫たちとの別れ。老夫妻はにゃにゃ俱楽部に1万5000円を保護費用として託しました。にゃにゃ俱楽部は老夫妻の想いと共に、「お預かりします」と受け取りました。

捕獲された猫は、子猫をあわせて13匹。猫たちは寄生虫駆除が行われたのち、去勢・避妊手術を施されます。白ご飯でなく栄養バランスの取れたキャットフードを食べる習慣もでき、どんどん綺麗な猫に。一度、にゃにゃ俱楽部はこの猫たちの写真を老夫妻に見せに行ったんですよ。すると老夫妻は目をまん丸にして驚いたんですって。「これがうちの猫たちか?」って。

方法は間違っていたものの、愛されていた猫たち。愛され方を知っている猫は、譲渡会に参加するとすぐ新しい家族が見つかります。片足と尻尾がない成猫も、新しい家族が見つかりました。今は数匹、人慣れ訓練をしながら新しい家族を待つ状態。

猫たちに新しい家族が見つかる度、老夫妻は寂しいながらも喜んでいます。そんな老夫妻を地域包括支援センターのスタッフは定期的に訪問し、見守っています。これはにゃにゃ俱楽部からのお願いなんです。猫を増やさないだけでなく、猫を増やしたいと思うようにならないために。

民間のボランティア団体がここまで出来るなら、行政が携わればもっと幸せに生きられる人間も猫もいるでしょう。声を上げにくい弱者を切り捨てない社会、それが成熟した社会ではないでしょうか。どこまでが行政の仕事で、どこからが民間の善意が必要か。官民一体となり考えていきたいものです。

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