46年ぶりの再会、約束のステージ 同級生からの電話で広島県私学研へ

沼田 伸彦 沼田 伸彦

 鉄人爺さん、略して鉄爺。43年の会社生活を卒業し、「暇を持て余さない老後」をコンセプトに第二の人生にチャレンジする。里山、自転車、マラソン、旅にグルメに…。

  その電話がかかってきたのは2020年10月23日のこと。登録されていない発信者からだった。「高校の同級生の森崎やけど。覚えとる?」。聞き覚えのある声だった。「もちろん」。そこから高校卒業以来の会話が始まった。

 森崎恒夫は広島県の大手学校法人、広島国際学院の理事長を務めていると自己紹介した。同窓会名簿から、私がメディアの仕事をしていることを知り、電話をかけたのだという。

 用件は21年8月に同校が幹事校となって開催される広島県私学研究大会で「メディアと教育」というテーマの講演をしてもらえないか、という内容だった。高校時代、同じクラスになったことはなく、卒業以来何の音信もない。唐突な話ではあったが、なぜか面白そうだと直感し、その場で快諾した。

 その後、打ち合わせも兼ねて何度か広島へ通い、その度に酒を飲んだ。旧交を温めるという表現に値するつきあいなどなかったのだが、不思議なほど打ち解けて時間を過ごした。

 ただコロナ禍のせいで21年の大会は中止に。1年経ったこの8月19日、ようやく約束を果たす機会が実現した。神戸の自宅を出る前、デイリースポーツに目を通していてビックリ。その日、大きく取り上げられていたのは、大阪桐蔭を破った下関国際の快挙、プロゴルファーの金谷拓実のホールインワン。下関国際の坂原監督と金谷選手はともに広島国際学院のOBである。

不思議な縁を感じながら演壇に立った。大会の参加者は広島県下の私学の教育関係者470人。会場を見渡すと、大半は若手の教員のようだった。

 求められたのは、真贋ないまぜになった情報が氾濫するネットの世界で生きていく子供たちに、本物を見極める力をどうやってつけさせるのか、というテーマに対する答えだった。

 その注文に応えられていないことを承知で、対処療法的にスキルとしてそういう知恵を教え込もうというのは間違っているのではないか、と話を締め括った。その方法論を論じる前に、教育の本来的な目的を意識してほしい、と注文も加えた。

 正しい言葉、知識、森羅万象への関心、豊かな感受性、人間らしい感性…そうした素養を培う中で、自らが溢れる情報の価値、真贋を判断していくしかないと思う。それは教育の現場というより、まずは家庭に課せられた課題ではないか。

 閉会後、森崎理事長とビールでノドを潤した。2軒目はスナックでマイクを握り、深夜の1時半まで、やはり同校OBの矢沢永吉の歌を歌った。2年越しの約束を果たせた解放感がなんとも心地よい。たった1本の電話が埋めた46年という時間の長さにも思いをはせた。

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