「漢方薬は心に効く」 東洋医学の教授が好んだ言葉 三つに分類される精神状態の不調

ドクター備忘録

川口 惠子 川口 惠子

漢方薬は心に効く。

これは私に漢方を教えて下さった東洋医学の教授が好まれた言葉です。漢方薬を処方すると、患者さんが抱えている心の悩みにじんわりと効いていることを実感します。更年期の女性は様々な悩みを抱える人がいて、漢方薬の出番が多くなります。東洋医学では人間の精神状態の不調を大きく次の三つに分類します。気虚(気力がなくなりエネルギーの乏しい状態)▽気鬱(ストレスが溜まって鬱っぽくなった状態)▽気逆(下から上にのぼせ上り逆上し、ヒステリーのような状態)。

 それぞれの例を紹介しましょう。

【気虚の例】Rさんは47歳の会社員です。最近疲労感が強くなり、仕事をする意欲がなくなってきました。仕事から帰ると仕方なく夕食を作り、あとはテレビを見ながらぐったりとして知らない間に眠りこんでいます。休日は人に会うと疲れるので家で何もしないでゴロゴロしています。体がだるくて熱を測ると37.3~37.5℃の微熱があり、それが1カ月くらい続いています。心配して内科にいきましたがどこも悪くないと言われました。彼女には体力、気力の衰えに効く補中益気湯を飲んでもらいました。2週間くらいで疲労感がなくなり、微熱はありますが気にならなくなりました。原因不明の発熱は気虚の方に時々見られます。

【気鬱の例】56歳のSさんは仕事をしながら鬱病の息子さんをサポートしてきました。息子さんの鬱病が改善してほっとしたところ今度は自分が情緒不安定になりとてもイライラするようになりました。仕事中はさすがに我慢していますが、一人になると怒りの叫び声をあげたり物を投げつけたりします。心療内科で精神安定剤を処方してもらいましたがすっきりしません。彼女の場合は長期間にわたる息子さんの病気のためにストレスが溜まって気鬱になりイライラして怒りがこみ上げているのだと思います。こんな方によく使用されるのが抑肝散という薬です。効果はすぐに現れて彼女は1日で気持ちが楽になったと感じたそうです。彼女は抑肝散を続け気分が穏やかになり、肩こり、頭痛、のぼせなど他の身体症状も改善しました。

【気逆の例】57歳のGさんは主婦です。交通事故で右腕を骨折し手術をしました。1カ月以上腕を動かせない状態が続き、今まで大病をしたことのないGさんにとって大変なストレスでした。やっと右腕が自由に動かせるようになってからGさんは強い不安感に悩まされるようになりました。そして不安を感じるとじっとしていられないのです。1日中部屋の中をウロウロ歩き回っています。心療内科で薬をもらいましたが落ち着きませんでした。この方には心を落ち着かせる苓桂甘棗湯を服用して頂きました。2週間後の再診で「やっとじっとしていられるようになりました」と明るい顔で話されました。

人は誰でもストレスを抱えており、鬱っぽくなったり、イライラしたり、不安感に襲われたりします。そんな時漢方薬が役立ちます。多くの患者さんに処方して感じるのは「やっぱり漢方薬は心に効く」ということ。すでに心療内科などで抗鬱剤や抗不安薬を服用しておられる方も、漢方薬はそれらの薬と併用して全く問題ないので試みられてはいかがでしょうか。

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