戦闘機バトルのない『トップガン マーヴェリック』らしい。8月26日から東京で公開される映画『でくの空』は、笑点メンバーとしておなじみの落語家・林家たい平(57)が笑顔を封印して、不慮の事故で部下を亡くした男の再生を熱演する。
「トップガン」ではなく「よろず代行屋」
たい平曰く製作費は本家の1/1000だが、『でくの空 マーヴェリック』とサブタイトルを共有してもいいくらいにテーマは一致しているという。郷愁誘う秩父を舞台にしたヒューマンドラマが、興収100億円突破のハリウッド超大作を超えるかもしれない!?
従業員の事故死をきっかけに電気工事店を畳んだ周介(たい平)が向かった先は、ノースアイランド海軍航空基地にある「トップガン」…ではなく実の姉が営む「よろず代行屋」。亡くなった親友の息子ルースター…ならぬ亡くなった従業員の母との確執を抱えながらも、周介は様々な人々の支えによって前進していく。
中心となるストーリーは一致
本作完成後に『トップガン マーヴェリック』を観たというたい平は「仲間の死や残された者との確執。周囲の支えを経て諦めていたものを取り戻していく流れは『でくの空』とほぼ同じ。秩父の空を戦闘機が飛ばないだけで、中心となるストーリーは『トップガン マーヴェリック』と一致しています」と普遍的なストーリーに大ヒットを期待。
日本の原風景ともいえる秩父の景色も強みだ。「僕らは戦闘機に乗れないわけですから、その点では日本ならではの景色の中で紡がれる人々の感情の機微を描いた『でくの空』の方が共感性は高いかもしれない」と確信。主演のトム・クルーズにもライバル心を燃やす。「残念ながら僕がトムに勝てるものと言えば体重くらい。5年前の24時間マラソン当時から比べて10キロ増量。あの時のままの体型をキープしていたら現在のトムに近づけていたはずなのに…」と悔しそうに扇子をテーブルに打ち付ける。
振り切った反動で陰の世界に
それにしても『笑点』の明るいイメージを封印したたい平のシリアスな演技は一見の価値あり。「どんな人間にも陰と陽は必ずあって、今回は僕の中に存在する陰の部分を島春迦監督が引き出してくれました。陰はネガティブなだけではありません。晴天ばかりだと植物が育たないのと同じように、雨が降るからこそ太陽のありがたみを感じることができる。陰があるからこそ、普段の自分の陽気な部分が活かされている」と新たな引出しを見つけた感触。
撮影の合間は噺家らしく共演の林家ペーと小道具を使って即興ものボケに興じたというが、実はこれもシリアスな自分を引っ張り出すための方策だった。「振り子の原理と同じで、陽に思い切り振り切った反動で一気に陰の世界に入っていける。シリアスなシーンの前に共演者の皆さんをゲラゲラと笑わせるものだから監督からは何度も注意をされましたが、あれは僕なりの陰と陽のスイッチングだったんです」と明かす。
物語の舞台となった秩父市はたい平の地元。7月29日に29年ぶりに同市に開館した映画館「ユナイテッド・シネマ ウニクス秩父」では本作がオープニング上映作品に選ばれた。「記念すべき封切り作品の一作目に僕の主演映画が選ばれたことに無上の喜びを感じています。地元の友人たちからたくさんの連絡や感想をもらいました。みんなで同じ場所に集まり、大きなスクリーンで一つの作品を観るという楽しみが秩父に戻ってきたことが本当に嬉しい」と感激している。