「ナゼ レンラクセヌカ」古本から出てきた電報 9文字のドラマに「続きが気になって仕方ない」「母から同じ内容の電話が来る」

塩屋 薫 塩屋 薫

「本の函の奥に挟まっていた電報 ドラマがある」と投稿し、1万以上の「いいね」がついたのは建築専門の古本屋「古書 山翡翠」(@kosho_yamasemi)さんです。投稿写真にはかつての「日本電信電話公社」の電報が写り、目を引くのは「ナゼ レンラクセヌカ」の文字。こちらをみつけた店主さんにお話を聞きました。

リプ欄には「この電報の続きが気になって仕方ない…」「怒られている電報ですね」「溢れ出る、チチ キトク スグカエレ感」と想像をふくらませたり、「懐かしいです。電電公社」「先日、auの通信障害のとき、そういえば昔は電話が通じないときどうやって連絡とっていたっけと思ってた。電信という手段があったな」「今でも実母から同じ内容の電話が来る 通信手段が代わっても伝えたいことってほぼ同じなのね…」と時代を感じる声が寄せられました。

実店舗を持たないオンライン古書店「古書 山翡翠」の店主・太田成棋さんによれば、電報が挟まっていたのは『もう一つの日本美』(広末保/著・美術出版社・1965年)という本。今年の4月に買い取ったが、だいぶ経年感があり、これまで手をつけずにいたそう。

――どのように発見されたのですか?

本のクリーニングをしておりまして、函から本体がちょっとだけはみ出した本があることに気づきました。直そうと思い手に取り、本を函へ押し込んだのですがおさまりません。「歪みでもあるのかな」と一旦諦めましたが、気になり覗いたところ、何か平たく巻いた紙が奥に挟まっていたので開いてみました。

――改めまして、どのような電報でしたか?

「44.11 1」との消印がありますので、おそらく昭和44年のものではないかと思われます。画像には写してませんが、差出し人の住所(岐阜県)、送り先(福島県郡山市)についても、本文同様、カタカナと数字でタイプされたものが貼ってあります。宛名には同じくカタカナで名前のほか、~サマカタ(様方)という表記もありましたので、受取人は福島で下宿していたのだろうと推測されます。一応、送り先住所をグーグルマップで調べてみましたが、現在は駐車場になっていました。

ちなみにこの本の売り主様とは、名前も住所も全く一致するところはなく、その本自体がそもそも古本であったような雰囲気もあり、電報を函に隠した方はきっとそれ以前の持ち主だったのではないかなぁと感じております。

――「ナゼ レンラクセヌカ」から、どのようなドラマを感じましたか?

「これまでにも再三連絡をして欲しい旨を伝えたはずだ」という送り主の心情が見えてきます。一方でそれを丸めて本の函に入れ、決して破り捨てることはしなかったところからも、受取人は本当は連絡をしたいが、それが出来ぬ何かしら歯がゆい理由がきっとあったのだろうなぁと勝手な想像をしながら切なくなりました。とにかく短いながらも「ドラマ」を感じさせるその言葉に魅了され、思わず投稿してしまいました。

――リプには「NTT」グループの前身である電電公社に反応し、昭和期を懐かしむ声もありましたね。

みなさんの反応を見ると、懐かしまれている感想が多いですね。また、私と同じような推測をされる方や、「既読スルー」といったいかにも現代的な指摘、はたまた「電報って?」という、そもそもその存在自体を知らない若い世代の方々の感想など、大変おもしろい反応が多く楽しく読ませていただいております。

――これまでも、古本から興味深いものが出てきた事は?

古本には様々なものが挟まれてることが多く、その深度も様々でキリがないのですが、例えば武満徹さんの渋谷西武劇場のチケット(1978年)、当時20円だった国立代々木競技場の一般見学券など、いずれも時代を感じさせつつも、美しいそのデザインに魅了され、過去に投稿したものがあります。

そんな中でも、ある意味今回の電報に似ていて、とても印象的だったのが『白鳥の話』(中勘助/著)という本の表紙を開いたところにしたためられた文章「あなたの うつくしい 人生の ために」でした。当店は建築専門の古本屋ですので、通常ですとこういった文学書は買い取らないのですが、大量に買い取った際に紛れていた1冊でした。

ここにも美しく、なんだか切ないドラマを感じると同時に、この本自体にも興味を持ちました。また、知人、友人、恋人へメッセージをしたためた本を送るというのは、きっと「モノ」だけでなく「時間」もプレゼントすることなのだなぁと改めて感じました。

――最後にこの電報を通じて、現代との違いなどを感じられましたか?

今はTwitterやYouTubeなどをはじめ「短い」表現が選ばれる、好まれる時代であるようです。逆に長い小説や映画などを読んだり、観ることに苦痛を感じるという意見が決して少なくないということもよく見聞きします。ただ、今好まれている「短い」は、どちらかというと短く要約するという意味が強いと感じます。

一方、ここ近年の俳句や短歌などの再人気というのは、短く要約するというのではなく、心情、情景などを、無駄を削ぎ落とした、研ぎ澄まされた言葉で表現することで生まれる豊かさ、深さ、ドラマ性に改めて魅力を感じる人々が増えているということなのだろうと思います。そういう意味で、今回の電報の9文字はおそらく後者として、みなさんの心に刺さるものがあったのかなと思いました。

◇ ◇

スマホなどで容易に連絡がしやすい現代だからこそ、この電報から姿の見えない当事者たちへ思いを巡らせた方も多いのでは!? そして、時代を超えて現われた9文字は、今でも同じように日々誰かとつながろうとする私たちへ、何かメッセージを伝えているのかもしれませんね。

【建築専門の古本屋 古書 山翡翠】
公式サイト https://www.yama-semi.com/
公式Twitter https://twitter.com/kosho_yamasemi

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