探しやすいのは著者別、出版社別? 書店の投稿に賛否両論「作家で探したい、出版社を覚えてない」「宝探しの楽しみには向かない」

塩屋 薫 塩屋 薫

「当店の文庫本コーナー。出版社ごちゃまぜの、著者あいうえお順。あんまりやってる店舗がないみたいで、いがいに好評」と投稿し、3万以上の「いいね」がついたのは、大阪市鶴見区にある「正和堂書店」(@SeiwadoBooks)です。リプ欄には「あり派」「なし派」の声が多く寄せられた、この陳列について同書店で話を聞きました。

賛成派では「作家さんで探すことの方が多いので、この陳列は有りです。広告とかでパッとみて出版社まで覚えられません」「出版社別だと、それを探してから著者名探すって仕事しなくちゃならない」「文庫は『特定の作者の特定の本』もしくは『特定の作者のまだ読んでない本』を探しに行くことが多いから、作者別にしてもらったほうがありがたい」と効率性のよさを支持する声が。

一方、反対派では「配色のバラバラさに気持ち悪くなってしまいます」「私は本屋に伺う際に、目についた一期一会を楽しんでいます。著者ごとだとどうしても同じ苗字の方の欄しか見ることが出来ず、出会いが減ったように感じています」「作家で探すには便利でメリットがあるのでしょうけれど、宝探しの楽しみには向かない。また出版社ごとのブックデザインとその全体が醸し出す美しさも書店探索の楽しみなので」という本選び自体を楽しみたい声も寄せられました。

著者別、出版社別のメリットは?

1970年創業、家族経営の「正和堂書店」は街の本屋さんとして親しまれていますが、SNSの総フォロワーは10万人超え。オリジナルの個性的なブックカバーは海外や全国から問い合わせがくるほど人気で、本の魅力をさまざまな形で発信しています。

約8万冊を扱う同書店において、文庫本は約2万冊。現在の陳列について、書店2代目の小西典子さんと、平日は印刷会社で働きながらブックカバーなど‎の新企画やSNSを担当する息子の康裕さんに教えてもらいました。

――いつから文庫本を著者別に並べていますか?そのきっかけは?

典子さん:元々は出版社別でしたが、大型書店と違って、小さな書店ですと棚や本の数に限りがあります。棚ごとに特定の出版社にしようとすると、返って中途半端になり…見にくさが気になっていました。(書店と出版社をつなぐ)取り次ぎ業者さんから、著者別の陳列を提案され、2017年に2日ほどかけて並び変えましたね。

――文庫本は出版社別が多い印象ですが、そのメリットは?

典子さん:やはり売れた分の補充など全体的に管理がしやすいですし、大型店舗などは高い本棚にたくさんの本を並べるスタイルが多いので、サイズ・色が統一されて見やすいかと思います。

――逆に、図書館のような著者別は探しやすいという声も多いですね。

典子さん:うちの規模では、作品数が多い人気作家さんはどれを本棚に並べるか、出版社に関係なく新旧作品を見くらべて検討できるので、書店側からのメリットもあります。

――なるほど、著者別に変えてからのお客さんの反応は?

典子さん:現場では直接褒められることより、希望の本が見つからない時に声をかけていただく事の方が多いので…今回のSNS投稿でこんなに支持してくださる方が多いのかと励みになりました。

康裕さん:以前から「ここの著者別は探しやすい」というコメントがあったので投稿してみたのですが、賛成は約8割ほどで、色々な意見が寄せられるのだと驚きました。

――書店の規模やお客さんの目的により、賛否両論がありますよね。

康裕さん:うちも全てを混ぜているのではなく、国内の一般的な文庫のみ著者別で、新刊をはじめ時代文庫や海外ミステリー、学術系やライトノベルは出版社別に並べています。

典子さん:棚も昔ながらの店内が見渡せる高さのものが多いので、親子のお客さんたちが取りやすいと思ってくれていたら嬉しいですね。今後もみなさんの探しやすさを考えていきたいです。

海外からも注目のブックカバー企画が進化

康裕さんは2017年からSNSで毎日おすすめ本を紹介し、さらには来店客を増やそうと作ったオリジナルの文庫用ブックカバーが‎‎‎人気に。コロナ禍での遠方のお客さんやブックカバーのみを購入したい人向けに、昨年からはオンライン販売もはじめ、1日に1万枚以上の注文が入った日もあるそう。近年は他の書店やジャンルを超えたコラボなど、新たな動きも―。

――美大出身とのことですが、アイスキャンディやスイカなど、どのブックカバーもかわいいだけでなく、栞との組み合わせが絶妙なデザインですね。

康裕さん:ありがとうございます。万人に受け入れられるような柄を意識しています。母や妻にも女性目線での意見を聞き「〜〜には見えない!」と指摘されたりしますが(笑)。カバーと栞、単体でも成り立つように考えていますが、組み合わせて立体感が出ればいいなと。

――ソーダのカバーと、アイスクリーム型の栞で組み合わせるとクリームソーダになったり、ユニークですよね。お店では文庫本を購入すると、好みのカバーを?

康裕さん:はい。これまで20~30ぐらいの柄をデザインし、店頭では在庫状況によりますが10種以上からお選びいただけます。コロナ禍前は海外からのお客さまもいらっしゃり、Web販売でもコスタリカなどから問い合わせがあったのですが、送料や配送状況の点から現状は国内のみで対応しております。

――近年、ブックカバーを通してコラボ企画が広がっていますが、今後の展望は?

康裕さん:この秋には、他の書店や著者の方々と関西万博に関連した合同イベントを予定しています。今後は、書籍=物販としてだけでなく、コンテンツとしてどう扱っていくのか、次のステップにむけて新たなビジネスモデルを展開していければと思います。

◇ ◇

昨年のクラウドファンディング企画では、他の書店にもブックカバーを提供し「競争でなく協業を」と呼びかけた康裕さん。関西のコーヒーショップでの栞の配布をはじめ、新作ブックカバーは、京都の帽子メーカー「Ha10」の帽子を仕立てるデザインにするなど、ジャンルを超えたコラボ企画も実施。そして、その原点にある街の本屋さんとして、今後も老若男女に親しまれる空間作りに期待が高まります。

正和堂書店
■大阪市鶴見区鶴見3-6-12
■公式Twitter https://twitter.com/SeiwadoBooks
■公式Instagram https://www.instagram.com/seiwado.book.store/
■オンラインショップ https://seiwado.base.shop/

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