ジブリですらこんなに過酷なのか…1997年当時「新人2年目の給与明細」にネット騒然 公表した元演出助手の思い

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文筆家の石曽根正勝さんが5月28日、Twitterでスタジオジブリの給与明細を公開し、現在まで約5000件のリツイートを集めて話題を呼んでいる。本人に電話で直接話をきくことができた。

給与明細は1997(平成9)年6月分。当時、石曽根さんは入社2年目の新人演出助手だったという。その基本給は“16万円”――。

日本で知らぬものはないスタジオジブリの赤裸々な給与明細流出にネット上がざわついた。

「今やアニメは世界に愛される日本の文化なのに、これは酷い。これでは才能がある人達の夢がない」
「月収16万円の月あたり25日労働ということは…一日8時間労働とすると時給800円です。サービス残業が一日平均1時間26分以上ならば、1997年の東京都の最低賃金である679円を下回ります」
「97年当時の2年目社員としては一見妥当な額だが(中略)残業代が含まれていないとか、ベアはどうなのかとかいろいろ突っ込めそう」
「無償残業当たり前の時代かな?」
(給与明細の末尾の記載)「『ご苦労様でした明日からも頑張りましょう』が精神的にヤラれますね」

…やはり「あのジブリですらこんなに過酷なのか…」という反応が多い。

97年6月といえば、まさにジブリの名を不動のものとした超ヒット作『もののけ姫』が公開される1カ月前だ。同作は日本の歴代興行収入記録を更新。興行収入193億円!そのなか、演出助手さんの基本給は16万円!手取りが13万7932円!

衝撃の給与明細がバズって3日間。石曽根さんはこう語る。

「ジブリから連絡はありません」

――なぜいま給与明細を公開?

昨年からTwitterをはじめて、アニメの批評や感想などを投稿していました。そのなかでジブリ社員時代の思い出もツイートしていたんです。そのツイートのひとつがバズり、「給与明細を出すなら今しかない」と思いましたね。

――バズらせようという狙いがあったわけですか。

ええ。アニメ業界で珍しいジブリの「アニメーターを社員として雇用する制度」は美しき「神話」として語り継がれています。でもその給与の実態は明らかになっていなかった。そこで厳正な数字で提示しようと。

――基本給の低さより、残業代が出ていないことを問題視する声も多いですね。

残業問題・見なし残業問題などなどジブリの過酷な労働環境のこともツイートしています。そういうツイートがバズった勢いで埋もれてしまうので、すこし困りましたね。よかったら探してみてください。

   ◇   ◇

宮崎駿さんからスタッフへの注意メモも流出。この手書き文字に見覚えがある人も多いのでは。

――石曽根さんのツイートでは給与明細のほかにも宮崎監督直筆のメモなど、当時のジブリの記録がバンバン流出していますが、なぜ20年以上前のものをこんなに持っているんですか?

ジブリに勤めていた当時から、ジブリだけでなくアニメ業界全体の労働状況の過酷さは意識していました。

だから給与明細も、将来なにかのときに資料・証言として使うときがあると思って保存していたんですよ。問題提起するのに絶好のタイミングだと。

   ◇   ◇

たしかにアニメ業界の労働環境についてはたびたび問題視されるところだ。

2020年のアニメーションの市場規模は、2兆4261億円。対して、「アニメ制作」の市場規模は2510億8100万円だ。なかでも伸びているのは「元請け・グロス請け」と呼ばれる上流工程で、実際に絵を動かす制作専門スタジオに落ちるお金の総額は微減している状況だという。下の現場ほど苦しいのだ。※帝国データバンク「アニメ制作業界」動向調査(2021年8月)より

国内の制作会社に正社員は少なく、作品ごとに非正規雇用のスタッフが集まってプロジェクトが終了するまでチームとなる形態は建設業と似ている。見習いの数年間は仕事がきつく、安価であり、ある程度までスキルがつくと作画監督や演出を任されて収入が安定する点も職人に近い。

そのなかで、アニメーターを社員化することで評価が高かったのがジブリ。しかしそのリアルなお金の面が、石曽根さんの保存していた資料によって晒されたというわけだ。

絵コンテも流出している。「あまり需要がない」とか言ってしまう石曽根さんだが、ジブリファンにとって超貴重な品だ。

――バズったあと、ジブリから連絡はありましたか?

何もないですよ、いまのところ。だって事実ですからね。もし何かあったら、こちらでも返答は用意していますけど。バスった初日が、一番怖かったかなー(笑)。

   ◇   ◇

ネット上での戦々恐々としたざわめきに比べて、石曽根さんはけっこう平然と答えてくれた。口調はおだやかだ。

実は石曽根さんは、ただの「昔ジブリではたらいていたおじさん」ではない。

ジブリのオフィシャル広報誌「熱風」に今年3月まで「連載」をしているのだ(「アニメてにをは事始め」)。なのにジブリに(もちろん無許可で)こんな爆弾を落とすとは…空気が読めないのか? 個人的に興味がわいてきた。

もうひとつの“大バズ”

話をきいていくと、石曽根さんは給与明細を超える”大バズ”を持っている。それが「研修時代のセル画」だ。またまたどんな爆弾かと思えばーー。

6400RT!『もののけ姫』制作がスタートした当時、新入社員が研修の一環として作った課題だという。

「給与明細」はこのセル画のバズに乗っかる形で投稿され、まんまとバズったわけだ。

「実に美味しそう。素朴な料理を描くと言うのは一番、難しいと思う」
「醤油の瓶に反射した卵がいいな」

…こちらには好意的なコメントが多く寄せられる。

また、さらに奇妙な現象が。

「良い絵なんだと思うけど…………そこに卵入れる人初めて見た。――え?どうなの?普通なの?」
「そこに玉子を入れたら、かき混ぜられないだろ……」
「マジすか…自分いつも納豆の方に卵入れてかき混ぜてました」

…「卵と納豆の位置正しいのか問題」が議論されはじめ、ほっこりしたやりとりがスレッドに並んでいる。給与明細と比べ、まさに「光と闇」だ。

バズで伝えたかった”あの頃のジブリ”

――バズった反響を見てどうですか?

ネットニュースでちょっととりあげられはじめているのは「給与明細」のほうですが、じつは「研修時代のセル画」のほうが反響が大きかった。「いいね」の数が5万も多いんですよ。

アニメ好き、ジブリ好きのひとの関心は、ジブリ批判よりも無名の新人の研修セル画に集まっていたんです。

私のアカウントはこの数日でフォロワーが5000人以上も増えましたが、よく言われる「炎上」ではないと思っています。悪意のあるリプがほとんどないからです。

――給与明細のほうも批判は少なかった?

はい。給与明細の件も、ジブリへの批判だけでなく、それぞれのひとが自分の給与の数字をあげてくれた。アニメ業界と関係なく、苦しい給与で働いている情報が今でも私のツイートのまわりで共有されて、問題提起としてまっとうな声がたくさん返ってきました。そういう意味では、私のバズは成功です。

ーーコメントを読んで、今も昔も日本の労働環境は厳しいと思いますか。

もちろんそう思いますよ。

でもひとつだけ言いたいのは、1997年当時、手取り13万ちょっとですが、東京でひとり暮らしをしていた私は、そんなに不自由はしていませんでした。

ジブリのスタジオはJR総武線の東小金井駅にありますが、当時は隣の駅の武蔵境から徒歩15分の、家賃4万5千円のアパートに住んでいました。

最初は電車通勤だったのですが、退勤時間がどんどん遅くなったので給与とボーナスを使ってスクーターを購入して通勤していました。

仕事が忙しくなると昼や夕食時にスタジオを離れるわけにもいかず、昼と夜、店屋物を注文してメインスタッフと一緒に食べていたことも思い出します。毎食700~800円くらいだったかな。その出費も給与の中でやりくりできていました。

あと、ジブリは学歴関係なく、高卒・専門卒・大卒も全員同じ給与からスタートしています。わたしは大卒でしたが、割を食ったとは思わなかったですね(笑)。むしろ「すごく民主的なはからい」だと思って、清々しい気持ちだったことを覚えています。

   ◇   ◇

いま、石曽根さんはジブリのアニメをはじめ、多くの作品を独自の視点で1カットずつ細かく解説する「アニメのてにをは」と名付けたツイートを投稿している。

正直、相当アニメ好きでないとついていけないほど、めっちゃ細かい解説だ。

特にテレビでジブリアニメが放映される時期は必見。1作品で数百というとんでもない数のツイートが投稿されるので、覗いてみてはいかがだろうか。

たまにジブリの裏情報もつぶやいているようだし...。給与明細...まだこんなにある…!

   ◇   ◇

【石曽根正勝さん・参考情報】
▽Twitter
https://twitter.com/animeteniwoha

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(まいどなニュース/BROCKメディア・祢津 悠紀) 

▽BROCK
https://www.b-rock.jp/

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