2006年に公開されたスタジオジブリの映画『ゲド戦記』。アーシュラ・K.ル=グウィンによる同名小説を原作とした同作は、2025年3月7日に『金曜ロードショー』(日本テレビ)での放送が決定しています。この作品には、宮崎駿氏の息子である宮崎吾朗氏が初めて監督を担当したこと以外にも、知れば知るほど深く楽しめる制作秘話が存在します。
『ゲド戦記』の舞台は、「魔法」が日常的に存在する「アースシー」という世界です。「大賢人」と呼ばれる魔法使いのゲド(通称ハイタカ)が、父である国王を刺し国から逃げている王子、アレンと出会います。実はこの「父親を刺す」という衝撃的なストーリー展開は、原作にはないものでした。
『ジブリの教科書14 ゲド戦記』(文春ジブリ文庫)の巻末にある、吾朗氏へのインタビューでは、アレンが父を刺すことを提案したのは鈴木敏夫プロデューサーだったと語られています。最初は、アレンが逃げるだけの予定だったそうですが、鈴木プロデューサーは「それじゃ親父から逃げるみたいでよくないよ。ここは刺さなきゃ」と進言したようです。
このオリジナル設定について、吾朗氏は「自分で自分をコントロールできなくなる瞬間というのが、若いときにはあるじゃないですか。なぜそんなことをしてしまったのか、自分でもよく分からない……そういうところから主人公が出発する物語もおもしろいんじゃないかと思ったんです」と解説していました。
SNS上では「原作とは全く別物になってしまった」というファンもいれば「偉大な父を持つという点で、吾朗監督とアレンが重なって見えて、それはそれで悪くなかった」という声もあり、意見が大きく分かれています。ただ、このような議論が巻き起こるのも、作品が愛されていることの表れかもしれません。
同じく『ジブリの教科書14 ゲド戦記』に収録された鈴木プロデューサーへのロングインタビューでは、『ゲド戦記』の初号試写を観た宮崎駿氏の様子が回想されていました。同インタビューによれば、宮崎氏は上映の途中で席を立ってしまったそうです。
想像すると少し緊張するような場面ですが、インタビューでは「周囲は『映画の出来に怒っているんだろう』と思ったんですが、実はトイレに行っただけ」と明かされていました。試写が終わった後、宮崎氏は鈴木プロデューサーに「俺が作っても内容はこうなった」と言ったそうです。「その完成度には宮さん(宮崎氏)も驚いていました」と語られていました。
また、『ゲド戦記』のキャラクターの声を担当したキャスト陣には、他のスタジオジブリ作品に出演している人が多くいます。たとえばアレンを演じた岡田准一さんは、2011年に公開された『コクリコ坂から』で、ヒロイン・松本海と恋に落ちる風間俊の声を担当しました。
そして海の母親を演じた風吹ジュンさんは、ゲドの昔なじみの巫女・テナーを演じています。アレンと心を通わせていく少女・テルーの声を担当した手嶌葵さんも『コクリコ坂から』に参加しており、海の友人役として声優を務めていました。
さらにゲド役の菅原文太さんは、2001年公開の『千と千尋の神隠し』で釜爺の声を担当。1997年公開の『もののけ姫』でエボシ御前を演じた田中裕子さんが、ゲドを恨み続けている魔法使いのクモを、ジコ坊を演じた小林薫さんが、アレンの父・エンラッドの国王を演じました。それぞれの他の出演作を知ると、各配役の演技の違いを楽しめるかもしれません。
声優陣のキャスティングについて、SNS上では「エボシ御前も、クモのセリフも、一言一言に聞き入っちゃうな」「アレンは闇の岡田准一、風間俊は光の岡田准一ですね」と、それぞれの役柄の違いや、演技の深みに好感を持つファンの声が投稿されていました。
このような制作秘話を知ることで、『ゲド戦記』の世界観をより楽しめるのではないでしょうか。
※宮崎吾朗、宮崎駿の「崎」は「﨑」が正しい表記です。