今こそ、森田芳光だ! 生誕70年の特集上映で三沢和子と宇多丸が語る 色褪せぬ魅力の真髄とは

黒川 裕生 黒川 裕生

2011年に61歳で亡くなった森田芳光監督が日本映画史に残した軌跡を辿る「森田芳光70祭2022 in 元町映画館」が5月28日、神戸の元町映画館で始まった。初日は劇場用長編映画デビュー作である「の・ようなもの」(1981年)を35mmフィルム上映。劇場には森田監督の妻でプロデューサーの三沢和子さん、書籍「森田芳光全映画」の編集・執筆に三沢さんと共に携わったラッパーの宇多丸さん(RHYMESTER)が駆けつけ、制作当時のエピソードや、見過ごされがちな森田監督の一貫した作風などについて怒涛のトークを繰り広げた。

森田監督の生誕70年を記念し、昨年から東京や大阪、名古屋、広島など各地で開催されている特集上映の一環。元町映画館では6月3日までの1週間限定で、初期の代表作や自主映画時代の貴重な作品を中心に選んだ8本を日替わり上映する。

「の・ようなもの」終了後、三沢さんと宇多丸さんは満員の客席から熱い拍手を浴びながら登壇。「『の・ようなもの』を今日初めて見た人もいるかもしれませんが、森田作品に慣れていない人がいきなりこれを見るとビックリしたんじゃないですか」と宇多丸さんが切り出すと、三沢さんもすかさず「公開当時も皆さん驚かれていましたから」と笑顔で応じた。

学生時代から実験映画を撮っていた森田監督。「の・ようなもの」の制作費を捻出するために、実家を抵当に入れたのは語り草になっている。「借金のことは誰にも言わなかったけど、自費だからこそこんなに自由な映画を作ることができた」と三沢さん。一方、宇多丸さんは「背水の陣で臨んでいるにしては悲壮感がなく、当時の日本映画としては画期的な青春エンタテインメントになっている。今見ても全く古びていないことには驚愕しますね」と話した。

「森田監督にしか撮れないふざけたオープニング」(by宇多丸さん)をはじめ、実験映画の手法がちりばめられた「の・ようなもの」だが、2人は「自分は将来どうなるんだろう、という何者にもなれない“モラトリアムの季節”が明快なテーマとしてある」と指摘。宇多丸さんは「森田監督はどの作品でも手法が一貫しているし、何かが足りない主人公を温かく描くところも一貫している。自分では決して声高にテーマを語らない人で、その作家性が十分に理解されているとは言い難いが、だからこそ、これからは僕らがちゃんと語っていく必要があると思う」と力を込めた。

もう誰も止められない…怒涛の1時間半

2人のトークは「の・ようなもの」の話から、森田監督が女性を描く際のフラットな視点、効果音や音楽、編集への尋常ではないこだわり、果ては海外セールスに対する日本の映画業界の構造的な問題や、ほぼ全作品を網羅したBlu-rayボックスを作ったときの苦労に至るまで、ノンストップかつ縦横無尽に展開。森田作品に精通している宇多丸さんが、1人で登場人物それぞれの口真似をして劇中のシーンを再現してみせたり、ヒートアップしすぎてマイクの音が割れたりする一幕もあり、終始、森田監督への尽きせぬ愛が渦巻く1時間半となった。

実は森田監督は亡くなった翌年、新作で神戸ロケを予定していたという。2人は「神戸の元町映画館にはずっと来たいと思っていたので今日は本当に嬉しい。またいつでも呼んでください」と口を揃え、イベント終了後のサイン会でもファンとの交流を楽しんでいた。

5月29日14時50分からの「家族ゲーム」(1983年)上映前にも、三沢さんの舞台挨拶がある。その他の上映作品やスケジュールは元町映画館のサイトで確認を。

https://www.motoei.com/post_event/morita70_2022_event/

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