「外道犬殺し爆誕」って…どんな映画!? 新世界にあるバリバリ昭和な名画座で、毎週「クセスゴ惹句」が注目されるワケ

仲谷 暢之 仲谷 暢之

大阪ディープタウン、新世界にある映画館「新世界国際劇場」

3本立ての洋画を一般1000円という格安で見ることができる1950年に開館した老舗の名画座。たびたび手描き絵看板の味わい深さと、インパクトのある惹句がSNSで話題になっており、2020年、国がコロナ禍での緊急事態宣言を発出した時に休館することとなり、そのタイミングで架空の映画タイトルの絵看板を掲げ、映画館としての存在感を誇示。これまた注目された。

そんな新世界国際劇場で最近上映された3本立てのうち、映画「クルエラ」の看板に「外道犬殺し爆誕」というサブタイトルが付けられていた。

前を通りかかった筆者が思わず写真を撮って

「ディズニーの『クルエラ』ってこんなサブタイトルやったっけ? 」

とTwitterに投稿したところ、そのあまりの表現力に10万近くのいいねがつけられた。

SNSユーザーからは、
「犬を殺したらやつが許さんぞ。クルエラ対ジョンウィック 観てみたいぞ。」
「極道映画みたい…」
「なんでこんな絶妙に昭和邦画チックなサブタイをww」
「合ってます。 映画の内容が間違ってるんです。 サブタイトルに合わせて撮り直して欲しい。」
「間違ってはいない」

など数々のコメントが寄せられていた。

そこで新世界国際劇場支配人の冨岡和彦さんと、劇場の看板を手掛けていらっしゃる映画絵アーティストの八条祥治さんに絵看板、そしてそこに書かれたサブタイトルや惹句についてお話を聞いた。

――まず「クルエラ」のサブタイトル「外道犬殺し爆誕」、強烈な衝撃を受けました。

冨岡支配人(以下・冨岡):そもそもうちの劇場に来られるお客さんは、高齢な方が多いから、前もって下調べしたり、ましてやネットで検索してくる人なんていないですから、映画館にフラリと来ても「クルエラ」ってタイトルだけ書いててもどういう内容かわからない。だからどういう話か看板だけで察しがつくようにってことで、「101匹わんちゃん」の悪役がどうして誕生したかって話だからサブタイトルにしてみたんです。これまでにもお客さんに伝えるために説明惹句を書いたけど、やはり映画が「クルエラ」だったから注目されたんですかね。

――惹句を考え始めたのはいつからですか?

冨岡:ここ3年くらいですね。長らく番組(作品)を編成してくれる人がいるんですが、その組んだ3本立てから惹句を考えてくれた人がいたんですけど、辞めちゃったんですよ。だから仕方なく僕が考えるようになりました。

――絵看板を担当する八條さんはいつから新世界国際劇場の看板を描かれるようになったんですか?

八条祥治(以下・八条):11年前からですね。そやから惹句の担当が冨岡さんに変わられてから激変しましたね。そらもう以前のとは全然ちゃうから(笑)。映画は毎週水曜日から火曜日まで上映されるんですけど、火曜日の看板の架け替えの時に冨岡さんから翌週より上映される映画の原稿と作品のチラシなど資料をもらいますねん。タイトルは以前からわかってるけど、3本立てのうち、どの作品の絵を描くのか原稿をもらうまでわからへん。そやからもろたらすぐに惹句を見て構成を考えますね。縦が1mちょっと、横が2m40cmとサイズが決まっていて、基本、顔を一人だけ描くのでどの表情を切り取るかが毎回悩むところです。寂しいなと思ったら違う場面の景色や拳銃をもってきたりして構成してます。

冨岡:八条さんの手描きの惹句もいいんですよね。ちゃんと僕の考えた言葉の意を汲んでくださって、なおかつ遊び心もわかって描いてくれてますから。

これが印刷したフォントだったら訴求力が弱いと思うし、まずお客さんがスルーしてしまう。そこは阿吽(あうん)の呼吸で(笑)。でもね、近所にある「新世界東映」さんていう映画館で上映される昔の東映作品のポスターを見ると、惹句が絶品でね。講談調だったり、七五調だったりまだまだ自分は叶わねえなって思って眺めてます。

――ちなみに八条さんにお聞きしたいんですが、冨岡支配人からの惹句でよく出てくる言葉ってなんですか?

八条:“外道”かな(笑)。もう、なんべん描いてるか(笑)。

冨岡:(笑)そうだっけ!?正しいヒーローは当たり前なんだけど、悪役がうまいと映画って面白い。だからそういうやつをまとめて“外道”って(笑)。それにうちはアクション系が好きなお客さんが多いから“外道”がいちばん伝わりやすんですよ。ま、代わりになる言葉があればいいんだけど、今のところは“外道”で(笑)。

――これからも惹句にはこだわっていかれますか?

冨岡:いろんな意味で、劇場の中も外も昭和の文化を感じられるような映画館でいたいんですよね。惹句はそのひとつなんで。劇場に入りにくいって言われる方もいらっしゃるのはわかってますけど、それも含めて昭和の名残りとしてね、そのままにしておきたい部分でもあります。もちろん行きすぎた違法なことや迷惑行為は排除しますけど。うちは外出ができるので、常連さんなんかはつまらない作品だったら出て行くし、また気に入った映画で帰ってきたりしてます。見終わればロビーで感想を話し合ってたりして、目が肥えてる方が多い。ヘタにネットの批評よりも信頼できるはず。そんなお客さんに上映する作品の惹句を考えてもらうのもいいかもしれないですね(笑)。

   ◇   ◇

昭和の社交場だった映画館を今も“しっかり”体現する新世界国際劇場。毎週変わる映画絵と惹句を愛でながら、ちょっと勇気を出して3本立て洋画を楽しむこと、してみませんか?

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▽新世界国際劇場
〒556-0002
大阪府大阪市浪速区恵美須東2-1-32

▽八条祥治
公式サイト:http://www.hachijyo-kobo.com/

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