中国の脅威に備え…今求められている「アジア版NATO」 日米同盟を超えた安全保障の枠組みの必要性

治安 太郎 治安 太郎

ロシアによるウクライナ侵攻から3カ月となる中、欧州の安全保障環境は大きく変化している。ロシアと1300キロに渡って国境を接するフィンランドは、NATOの東方拡大を強く警戒するロシアの思惑を考慮し、これまでNATOには加盟せず軍事的中立の立場を取ってきた。しかし、ロシアの脅威を現実のものと直視し、ついにNATO加盟に向け正式に申請を行った。スウェーデンも同様にロシアの脅威を直視し、NATOへの加盟申請を行った。

また、1815年以降永世中立を堅持してきたスイスも最近になってNATOへ接近する動きを見せている。スイス国防省によると、スイスがNATOに加盟する可能性は低いものの、今後スイスとNATOが合同で軍事演習を実施する可能性があるという。こういった中立的な立場を維持してきた欧州3カ国が軍事、安全保障面で大きく舵を切っていることは、欧州全体の安全保障にとって大きなターニングポイントと言えるだろう。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が与える影響は欧州に留まらない。最近、バイデン大統領の日韓歴訪に合わせる形で日米豪印によるクアッド首脳会合が開催されたが、同会合ではロシアによるウクライナ侵攻だけでなく、中国のインド太平洋地域での影響力拡大などを含む安全保障や経済上の懸念が話し合われた。

クアッドの枠組みを米国主導の対中けん制網の1つと捉えている中国はそれに対して強い不満を示すだけでなく、クアッド会合に合わせる形で中国とロシアの爆撃機が合同で南西諸島や西太平洋上空を飛行し、北朝鮮は3回も日本海に向けてミサイルを発射した。合同飛行は中露の結束で、それと北朝鮮のミサイル発射は別物であるが、3カ国とも日米などをけん制する政治的意図があったことは間違いない。中露北それぞれの関係も一筋縄ではないが、日本周辺の安全保障環境は「日米豪VS中露北」のような形で一種の陣営同士の主戦場になりつつある。

このような陣営同士の対立が激しくなるのであれば、日本には日米同盟を超えた安全保障枠組みが必要である。クアッドにはインドも参加しているが、同国はロシアと伝統的友好関係もあり、インドがインド太平洋地域の安全保障に積極的に関与することは期待できない。よって、日本としては米国だけでなく、オーストラリアやニュージーランド、インド太平洋に海外領土を持つ英国やフランスなどとこれまで以上に安全保障上の協力を深化させ、安全保障上の多国間枠組みを構築するべきだろう。クアッドは安全保障に特化した枠組みではないので、昨年創設された米英豪によるオーカス(AUKUS)を拡大するなどして集団安全保障的な枠組み、正にアジア版NATOの創設が重要となる。

6月下旬にスペイン・マドリードでNATO首脳会合が開催される予定だが、岸田首相はドイツで開催されるG7サミットに合わせる形でNATO首脳会合に参加する予定だという。日本がNATOに加わることはないが、アジア版NATOの構築に向け、本場NATOとの結束を強化することは中国の海洋覇権を抑止する意味でも重要となろう。

中国の王毅国務委員兼外相は26日から来月4日までの日程で南太平洋8カ国を歴訪しているが、これは西太平洋で軍事的影響力を高めるだけでなく、対中で結束する国々をけん制する狙いがあることは間違いない。そして、究極的にはアジア版NATOの構築に向けてのプロセスを抑止、停滞させる思惑もあることだろう。

NATO条約第5条には、加盟国1国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなすと集団防衛義務が明記されているが、憲法9条とのバランスもあり、アジア版NATOの中身はこれからの議論だ。しかし、本場NATOのようにいかなくても、インド太平洋には中国の海洋覇権を抑止できる多国間安全保障枠組みが必要だろう。

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