禁止された小麦粉、お菓子のレイ…独特な沖縄の卒業式 時代とともに変わる風物詩について聞いてみた

太田 真弓 太田 真弓

3月に入り、SNS上には卒業式の様子や思い出のつぶやきなどが続々とアップされている中、独特すぎる沖縄の風物詩を発見。地元の経験者や、沖縄県高等学校PTA連合会会長にお話を伺いました。

「沖縄の卒業式の文化の一つにお菓子のレイ。年々凄いことになってます。私の時代は小麦粉と生卵だったんですけどねー」とみやさん(@chamajoong)。

「街に黄色いイペーが咲き始め、スーパーでお菓子のレイが販売され始め、学生さんへの小麦粉の販売が停止され始めると沖縄の春を感じます。」と投稿したのは、江本祐介/tinto*tintoさん(@yskemoto)。

小麦粉??お菓子のレイ???

気になってTwitterで「沖縄 卒業式 小麦粉」で検索をかけると、
「今日は、沖縄県立高校の卒業式、卒業式って聞くと、小麦粉思い出す」
「沖縄の卒業式とといえば昔はヤンチャな子達が卵投げたり小麦粉投げたりしてたのを思い出しました」
「今初めて知った、、卒業式のお菓子のレイとかバルーンって沖縄だけなの!?小麦粉は持ち込み禁止なのは知ってたけど、、」
「懐かしいなぁ。中学も高校も卒業式は、小麦粉で真っ白だったなぁ」
「沖縄独自の卒業式文化というと昔は小麦粉をかけるってのがあったけど、それに比べればお菓子レイは平和だなって思います」
などのツイートが続々。
どうやら沖縄には卒業式独特の文化があることが想像できました。
そこで、みやさんに当時の様子などを伺ってみました。

先述のツイート主の「みやさん」こと宮良さんは沖縄県出身。高校卒業後に一度県外へ、その後石垣島在住を経て、22年前に上京。お母さまが歌舞伎町で沖縄料理屋を経営していたこともあり、正統派の沖縄料理を伝えるべく、現在「沖縄料理ちゃぁ~まぁじゅん」(東京都葛飾区)を経営し、腕をふるっています。

「メリケン粉投げ」は当時の卒業式の恒例行事

――ツイートに「そんな文化が!?」とびっくりしました。

高校卒業の時の話です。約30年前で、小麦粉は「メリケン粉」と呼んでました。

――当時お住まいだった地域では毎年のように?

はい、卒業式の恒例行事でした。先輩たちがキョンシーのように顔が真っ白になって制服も真っ白になり爆笑してました。

――準備方法などご存知でしたか?

男子が相談しているのは知ってましたが、実際にどのようにして準備していたかは不明です。

――当日は、どのように「メリケン粉投げ」を?

体育館で式が終わり、花道を通りながら、後輩や先輩たちから花束をもらいます。目立っていた(当時のヤンキーとか面白い人が主に狙われていました)人たちは花束ではなく、生卵をぶつけられてメリケン粉をふっかけられてました。

ヒヤヒヤしながら花道を通っていましたが、両手に抱えきれないほどの花束をいただきメリケン粉の被害はなく、少し周りの人のが掛かってしまったり、かけられた友達がわざとくっついてこようとして逃げ回っていました。

数時間後に卒業パーティーの準備があったため、あまり余韻を楽しむことなく帰りは車で帰宅しました。男子は学ラン脱いでましたね。あと、女生徒にはあまりかけられることはなかった記憶があります。

――先生方や参列した親御さんたちの反応は?

当時は、先生たちも暗黙の了解だと受け止めていました。それは、親も一緒だと思います。昔からの行事だったのでそのハチャメチャ具合も楽しむ行事として(笑)。

卒業式を「青春の思い出の1ページ」に

――「お菓子のレイ」は、宮良さんが沖縄在住時からありましたか?

お菓子のレイは、社会人になり、数年間、親の故郷の石垣島に住んでいた時に、島の高校の卒業式に参加して知りました。それと、5年前に本島に住む姪っ子の中学式に参列したのですが「中学の卒業式にお菓子のレイもらった?」って聞いたら、「友達のお母さんから一つもらった気がする」と話していました。

卒業式のお菓子のレイを見たときに、よく沖縄の空港にあるキャンディのレイがよぎりました。同じ沖縄県でも、離島と本島は方言も文化も違うので卒業式のお菓子のレイは石垣島だけの文化だと最初は思っていました。

お菓子で作られたアイデア満載のランドセルや傘や帽子に「年々子どもたちも大変そうだねー」と感じました。と同時に「作ったり準備した後輩たちも思い出に残るのかな」とも。これも「青春の思い出の1ページ」として良いと思います。

学校からの通達などにより「メリケン粉投げ」は禁止

みなさんの思い出ツイートにもあった「卒業式でのメリケン粉投げ」。

沖縄県教育庁によると、昭和59年(1984年)と平成10年(1998年)には、沖縄県教育委員会教育長から市町村教育委員会教育長、各教育事務所長などに宛てた通知文の一部に「小麦粉等を投げる行為を注意する旨」の記載があったそうです。

学校からの通達をはじめ、食べ物を粗末にしていること、式前後の学校側の対処や地域への悪影響などから禁止の風潮となっていったのではないでしょうか。

現在の卒業式の様子は…? バルーンも登場

コロナ禍において「お菓子のレイ」はどうなっているのだろうと思い、現在の卒業式の様子について沖縄県高等学校PTA連合会会長の宮里 憲さんにお話を伺いました。

宮里さんご自身も約35年前は当事者ではなかったものの「メリケン粉投げ」がある中、お菓子のレイや花束をもらいながら高校をご卒業、現在は3人の娘さんを持つ保護者として中学校・高校の卒業式を見守ってきた経験をお持ちです。

――現在、卒業式やお菓子のレイイベントは?

コロナ禍により昨年度(令和2年度)と今年度(令和3年度)の卒業式は殆どの高校が保護者の人数制限や、在校生不在など、規模を縮小して開催しています。

例年、恒例となっている花道も取りやめになった影響で、花束やお菓子のレイのイベントは行われていません。ただ、玄関をでた学校敷地外では、花束やお菓子のレイなどいつもの光景が散見されました。

お菓子のレイは大体部活が中心で、後輩と先輩とそれぞれ別に準備します。それに加えて保護者も準備します。コロナ禍以前は、後輩と保護者は学校で花道を通るときにかけて、先輩は学校敷地外でかけていました。

――SNS上ではバルーンのお写真なども見られました。

カラフルなキャラクターや形も様々のバルーンが卒業生たちへのアイテムとしてメジャーになっているようです。最近はエスカレートしている印象があります。

――参列される保護者の方々もお子様やお友達のために準備を?

はい、自分の子どもや、子どもと仲良しグループの友達の分も準備しています。学校によっては寂しい思いをさせる子を防ぐために、生徒会で準備する学校もあります。

また、購入費用に関してですがそれぞれの家庭でお金を出して集めているのが一般的です。保護者が出す、あるいは自分の小遣いから、の違いはあると思いますが。

――各高校側は概ねどういった対処を?

自粛願いの学校が多いと思いますが、中止とする学校もあるかと思います。

――主に高校卒業式でのイベントなのでしょうか?

はい。高校は制限が弱く、中学校は持込禁止等の制限が強い印象があります。小学校は部活が少ないためか、派手ではないですが、ある程度はあります。

――保護者さまとして、また、PTA連合会さまとして「お菓子のレイ」をどのように見守っておられますか?

新聞などに報道されるような顔が見えなくなるほどもらえる生徒は一部で、殆どの生徒はある程度のお菓子のレイとか花束が一般的だと思います。卒業式が盛り上がる、楽しい思い出になる、といった華やかな一面に肯定的な意見を否定できません。

しかし一方で、全くもらえない生徒も一定数はいて、寂しい思いをする生徒がいます。私も実際にその場面に遭遇したときに胸が痛くなりました。卒業という大事な節目に、苦い記憶を作ってしまうのでは…と。

そのような生徒への配慮が必要だと思います。消極的と思われるかもしれませんが、このようなイベントはない方が良いとも…。イベントがなければ、準備する保護者にとっても金銭的だけではなく精神的な負担軽減につながると思います。

卒業をお祝いしたい気持ちは、先輩や後輩、保護者のどなたもありますので、プレゼントしたい場合は、卒業式とは別に渡す場を設定しても良いかなと思います。

◇      ◇

また、「お菓子のレイ」自体について調べてみると、現在、「ちんすこうショコラ」「おもろ」などのお土産商品を手がけている株式会社ファッションキャンディ(沖縄県宜野湾市)が、1975年、「沖縄国際海洋博覧会」のアメリカ館でのブース依頼を受け、色鮮やかなセロファンでお菓子やおもちゃを包んだ「キャンディ・レイ」を製作。小さな子どもたちのプレゼントや沖縄のお土産として、製造が追いつかないほどの大ヒット商品となった…という歴史もあるといいます。

「現在、キャンディ・レイの製造販売は行っていないのですが、以前はイベント時、特に卒業シーズンになると販売もしておりました。もしかすると当社のキャンディ・レイに発想を得て現在のお菓子のレイが広がっていったかもしれませんね。」とファッションキャンディさん。

◇    ◇

この「キャンディ・レイ」に「お菓子のレイ」のルーツがあるのか、真相はわからぬままだったのですが、いずれにしても沖縄県以外の都道府県ではなかなか聞いたことのないこの卒業式の風物詩。

様々なお菓子のレイやバルーンなどが登場している様子に、「コロナ禍であっても、卒業する学生たちを精一杯盛り上げてお祝いしたい!」というムードが高まっているのかなと想像しました。反面、貰える量の差や学校側の悩み、保護者の方々の協力が必要な面もあり賛否両論あるのかもしれません。

それでも卒業をお祝いする気持ちと感謝する気持ちを互いに交換でき、10年後や20年後に、(「メリケン粉投げ」の例ではないですが)「こんなんだったね~」と思い出話を共有できたり、話題となる文化があることが面白いなと感じました。

ご卒業を迎えられたみなさま、本当におめでとうございます!
素晴らしい門出の春になりますように。

【記事関連情報】

■宮良さん ちゃぁ~まぁじゅんTwitter https://twitter.com/chamajoong
■宮良さん ちゃぁ~まぁじゅんInstagram  https://t.co/G99TJchex1
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■江本祐介/tinto*tintoさんTwitter https://twitter.com/yskemoto
■ファッションキャンディHP https://www.fashioncandy.co.jp/

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