期待以上のネイルを完成させて、お客さんを笑顔にしたい――。そんな想いを胸に抱きながら、一風変わったネイルを生み出し続けているのは、ネイリストのMARINAさん。
MARINAさんは美容学校ではなく、MCの専門学校を卒業した異色のネイリストでもある。
副業のつもりで始めたネイルが本業に!
幼い頃から絵を描くことが好きだったMARINAさん。学生時代は、教室の隅で絵を描いているような大人しい子だったそう。美容にはあまり関心がなかったものの、マニキュアが綺麗に塗られている母の爪を見て、ネイルにだけは興味を持っていた。
司会業に憧れ、高校卒業後はMCの専門学校に入学。卒業後、新人としては仕事が多かったが、食べていくには足りず、副業でネイリストをすることに。
初めに勤務したネイルサロンは、どんなデザインのオーダーも請け負うお店。MARINAさんもシンプルなワンカラーネイルから派手系ネイルまで何でも施術した。その中で、作業的に施術をこなすより、お客さんとの信頼関係があるネイリストになり、指名を獲得したいと考えるように。
そこで、指名の獲得と自分の価値を高めるため、SNSでネイルを発信。SNSマーケティングという言葉も浸透していない時代に頭を悩ませ、もがいた。
そんなある日、友人とビアガーデンへ行ったMARINAさんはビールのポップを見て、「お酒のデザインを爪に描けないだろうか」と思ったそう。そこで、試しに自分の爪に施術。
ハイクオリティの金麦ネイルをインスタグラムに載せたところ、指名が増加。SNSも少しずつ注目されるようになっていった。
過去に生み出した「金麦ネイル」が大バズり!
しかし、その後、フォロワー数は伸び悩み、コロナ禍にも直面。新しいサロンは勤務して数日後に休業となってしまった。
だが、MARINAさんは悲観的にはならず、お店に来られないお客さんを思い、ジェルネイルのオフに必要な道具類のセットをプレゼント。また、「早く会いたい」とのメッセージも込め、オフの仕方を解説する動画も制作した。
それを機にYouTubeを学び、休業中にチャンネルを開設。動画でも自身のネイルを公開し始めた。
そして、休業明けのある日、MARINAさんの真面目さが報われる出来事が。なんと、金麦ネイルがXで大バズり!テレビの取材も受け、知名度は一気に高まった。
「バズったのは、金麦ネイルを生み出してから2年後のこと。なぜ今?と自分でもびっくりしました」
「セメダイン」や「カルピス」のパッケージもネイルに!
現在、MARINAさんは自身が立ち上げたネイルブランド「Mieure」にて、ジェルネイル用品の商品開発や販売を手掛けている。また、東京・渋谷区でネイルサロン「imparfait M」を経営。
ネイルサロンにあえて、「不完全」という意味を持つフランス語を盛り込んだのは、「人間は不完全であるからこそ、完全を目指して努力したい」というまっすぐな目標を持っているからだ。
MARINAさんにとってお客さんと話しながら作ったネイルは、どれも優劣などつけられない大切な宝物。「黄色が春っぽいから」というお客さんの声から生まれた「セメダインネイル」も、そのひとつだ。
カルピスを愛してやまないお客さんには、清涼感たっぷりな「カルピスネイル」を施術したこともある。
お客さんからお願いされるオーダーはスケジュール的に難しいなど、物理的な理由がない限り断らない。
「断るオーダーは、自分にとって苦手なものだと思う。それって断り続けていたら、一生できないまま。私は欲張りだから何でもできるようになりたいし、この人ならできるかもしれないというお客様の期待を裏切りたくないんです」
自身がかつて、人見知りでコミュニケーションが苦手だったことから、施術後にはお客さんの表情を注意深く観察。言葉にしにくい仕上がりへの本音を汲み取り、本当に満足できるネイルを提供しようと努力してもいる。
「『大丈夫』と言われても何か言いたいことがあると感じたら、突っ込みます(笑)話をし、手を加えることで解決できるなら、それが一番いいと思うから、『かわいい』や『綺麗』など、明らかにプラスな言葉が聞けるまで頑張りたいと、いつも思っています」
ネイルは、自分の機嫌を取る最強の武器。そう考えているからこそ、MARINAさんはお客さんが心から笑顔になれるネイルを追求し続ける。
「美容ってたくさんあるけれど、ネイルは唯一、自分から常に見える美容。他の美容よりもお客様自身の努力がそれほど必要なく、数時間で劇的な変化が得られて、自分の目の保養になると思うんです」
身だしなみとしてオシャレとしても役立ち、汎用性が高いのもネイルの魅力。そう語るMARINAさんの原動力は、自分を信頼してオーダーをしてくれるお客さんたちの笑顔だ。
「インフルエンサーとして仕事を任せてくれるメーカーさんを後悔させたくない気持ちやSNSで私を見つけてくれた人に忘れてほしくないという臆病な気持ち、承認欲求もあるけれど、やっぱり一番の原動力はお客様の笑顔。『こんな爪、ヤバい!』と笑ってもらえたら最高です」
自分と関わる人は、みんな笑っていてほしい。そんな優しさと真面目にコツコツ磨いた技術が伝わるからこそ、MARINAさんのネイルは見る人の心を魅了する。