歯科医芸人も困惑 ロシアのウクライナ侵攻でパラジウムが高騰、歯科業界の経営を圧迫へ

山本 智行 山本 智行

 ロシアのウクライナ侵攻という暴挙には世界中が怒り心頭です。1日でも早く平和的な解決を望みますが、その影響は様々なところで噴出しており、歯科金属の価格高騰もそのひとつです。歯とスポーツとお笑いにこだわる歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さんも、この問題には困惑気味。歯科業界の経営を圧迫しかねません。今回はパラジウムの話から北京五輪、マウスガードへと展開していきます。しばしお付き合いください。(聞き手・山本智行)

--ロシアのウクライナ侵攻、何とかなりませんか。歯科用の金属も高騰しているそうじゃないですか。

パンヂー陳(以下、陳):そうなんです。歯科金属の中でも特にパラジウムはロシアが世界一の産出国で全体の45%近くを産出していますので、今回の戦争の影響は絶大。戦争前グラム当たり8000円前後だったものが一時14000円近くにまで跳ね上がりました。パラジウム以外にも金や銀の価格も高騰しています。

--経営にも影響大ですね。

陳:パラジウム自体は戦争が始まる前からずっと上昇基調でしたので、所謂、逆ザヤで、パラジウムや金銀を含む金属を用いた治療をすればするほど損しちゃいます。歯科界全体の流れとしては脱金属化が進んできていましたが、コロナの影響もありますから経営はどこも楽ではないと思います。

--やはり。

陳:実際、2022年1月に発表された帝国データバンクの医療機関倒産動向調査によりますと、昨年の医院倒産件数は前年比1.8倍に急増しているとの事です。早く解決して平和になってほしいです。

--平和といえば平和の祭典、北京オリンピック・パラリンピックが閉幕しました。陳さん、東京大会ではボランティアで参加されてましたね。

陳:今回はもっぱらテレビ観戦でした。不可解な判定もありましたが、感動的な場面も多かったと思います。ただ、東京大会後、次のパリ五輪のボランティアを考えている日本人の方は結構いらっしゃったみたいですが、さすがに北京大会に参加していたという人は聞きませんね。

 ところで、オリンピック関連の話でしたら、アイスホッケーをはじめ、スキーやスノーボードの選手の多くがマウスガードを装着していたの、お気付きでしょうか?

--ええ。あのネズミ除けですよね?

陳:はい、アイスホッケーの試合中にネズミが出てきたら試合が混乱して大変なことになりますので、これがないと困りますからって、そんなわけないでしょ!

--いらん、ノリ突っ込みせんといて下さい!マウスガードくらい知ってます。よくボクサーなんかが試合の時、口に入れてる樹脂で出来た歯を守るヤツでしょ。

陳:競技によって形状や色は異なりますが、大体合ってます。日本アイスホッケー連盟では使用を勧めていて、適正に作られたマウスガードは試合中の口腔外傷や歯の傷害リスクを減らすだけでなく、脳しんとうまで予防する効果があるとも言われてます。

マウスガードを装着して悪い事はほとんどない

--脳しんとうまでですか。そら凄い。

陳:学会でも議論はありますが、上下顎歯列間に軟性物質を噛ませることで下顎に衝撃が加わった際のクッションの役目をしますので、下顎頭などによる脳への衝撃を和らげるためとも説明されています。これについては賛否両論ありますが、マウスガードを装着して悪い事はほとんどありません。

 期待できる効果は多々ありますので歯科医の立場で言えば、コンタクトスポーツ、転倒や頭頚部への衝撃が加わる可能性のあるスポーツをする場合には、マウスガードの装着を強く推奨します。

--なるほど、スポーツデンティストっぽくなってきましたね。で、色や形の決まりは?

陳:形はコンタクトスポーツでは辺縁を歯頚部より少し伸ばして大きめに作って歯茎の部分も含めて守る工夫等をしますが、色も競技によって色々です。色だけに。

--しょうもないダジャレ、はさまんでよろし。

陳:例えば、雪や氷上で行うスキーやスノーボードなどでは白、透明のマウスガードだと、落とした時に見つけにくいのでカラフルな色を用いる傾向があります。私が関わっている日本拳法は白か、透明のものしか試合では認められていません。全日本柔道連盟や日本テコンドー協会等も白か透明と決められており、これら武道系のスポーツでは華美なマウスガードは避けようという傾向があります。

 一方、同じ格闘技でもボクシングの場合、出血の有無が分かるように日本ボクシング連盟では、赤もしくは赤系統の入ったものは禁止としています。

--なるほど、形状だけでなく、競技によって色も色々あるんですね。でも、いい値段しますよね。

陳:スポーツマウスガードは健康保険が効かないので、他の治療に比べて高く感じるかもしれませんが、きっちり適合したものを作ろうとしたら、装着する顎だけでなく対合歯の型取りをして、かみ合わせを調べて咬合器にマウントして、かみしめた時、均一に当たるように咬合調整をしたり研磨をしたりと結構手間がかかるんですよ。

--なるほど。

陳:それにスポーツ歯科医学会に入って本格的なマウスガード作りを勉強している先生の多くは、何らかのスポーツに関わっている歯科医が多いので、マウスガードで儲けようとは思っていないと思います。

--注意する点はありますか?

陳:熱で軟化させて作りますので、お手入れの際に煮沸消毒は絶対にやめて下さい。夏の自動車内や熱くなる所への放置も避ける必要があります。あと、犬を室内で飼っている方も注意が必要ですね。飼い主のお口の臭いがするので、犬は好んで咥えます。だからマウスガードを犬にかみちぎられたという患者さんは少なくないです。

--それにしても陳さん、マウスガードに詳しいですね。きっかけは奥さんからのビンタ対策だったとか?

陳:そうそう、DVがひどくって、必要は発明の母って、なんでやねん!ちゃいます。変なこと言わんといて下さい!

 豊中市の日本拳法教室の指導員をやってる関係上、教室の生徒さんの口腔外傷の予防にマウスガードを作る必要があったので、公益財団法人日本スポーツ協会の公認スポーツ指導者資格の一つ、スポーツデンティスト資格を取るために勉強したからです。

--陳さん、意外と生徒さんには優しいんですね。プーチンさんも柔道愛好家なら暴力はいけません。プーチンさんも陳さんをみならってほしいです。

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