数十万円→数千円…往年のスピーカーが“終活”で大放出!? あの頃の憧れが安く手に入る「中古オーディオ」の世界

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 アナログレコードにカセットテープ。昭和の時代に栄えていたオーディオがいま、にわかに注目されています。CDに始まったデジタルの音源がSACD、ハイレゾへと進化する中、アナログ時代のオーディオの魅力とはいったい何なんでしょうか。

日本のオーディオの黄金時代は1970年代から80年代だった

 一般的な趣味としての日本のオーディオの全盛期は、1970-80年代だといわれています。CDの登場が1982年ですから、アナログからデジタルに移行する前後、過渡期の頃ですね。ソニーやテクニクス(パナソニック)など、今も続いているブランド以外にも、東芝オーレックスや日立Lo-Dといったオーディオ部門の懐かしいブランド名、そしてナカミチやアカイといった、もう廃業してしまったメーカーの製品が市場を賑わしていました。

 筆者は1980年代半ばに社会人になったのですが、当時は大阪の日本橋に通っては試聴を重ねて、オーディオ機器を買い揃えていました。就職したての少ない給料の範囲で、できるだけいい音がする機種を選んで組み合わせるのがオーディオの楽しみだったのです。また、レコードプレーヤーに重しを載せて共振を抑えるとか、そんなことをオーディオ雑誌を読みながら試したりしていました。

 アナログの時代は、そういうわかりやすいアプローチで音が良くなったり、また良くなった気がしたりしていたのが、趣味としての楽しみの部分だったのだと思います。

金属の箱にスイッチやメーター、装置萌え?

 あと、世代的に「装置」というものへの憧れもあったかもしれません。ウルトラ警備隊とかの人達が操作している未来っぽい「装置」。タンスのようなコンピューターから穿孔された紙テープがカタカタと吐き出されてきて、それを見て「なに!東京湾にゴジラ!?」とか緊迫したりするやつですね。

 金属の箱にスイッチやレバー、メーターなんかが並んでいるアレに、やっぱり男の子だった皆さんもテンションが上がったのではないでしょうか。でも、実際の生活ではあんまり怪獣が現れたりはしないわけで、家庭にそんな「装置」が必要な場面ってそうそうないですよね。

 そんな憧れをまだ引きずっていた頃に出会った「オーディオ機器」は、まさにあの「装置」だったのです。金属の箱に、スイッチやメーターがピカピカと光っています。それはもうテンション上がりっぱなしで、一気にオーディオの趣味にはまり込んでいったのですね。同じ世代のひと、こういうパターンは結構多いんじゃないでしょうか。

 CDの普及で、誰もが手軽に「それなりにいい音」が楽しめるようになると、オーディオはカジュアルになっていったと感じます。カセットデッキの頃には周波数特性とかS/N比、ワウ・フラッタといったカタログのデータにわくわくしていたのが、CDになるとどれもほぼ同じ数値になってしまってなんとなく寂しくなった、というのがいちオーディオファンとしての当時の心境です。

 その後MDが現れると、音楽はよりお手軽になって、さらに音源がデータでやり取りできる環境になったタイミングで、iPodが一気に世界を変えてしまったのではないでしょうか。

 世の中の流れとして装置や技術への感心が薄れてきたことで、一般的なオーディオの趣味は廃れていったのかもしれません。そういう世の中に流されない一部の超高級マニアが暮らす世界を除いて。

いま、中古オーディオが面白い

 サンスイや、最近ではオンキヨーといったかつての名ブランドも、名前だけ残して実質上無くなってしまいました。全盛期を見てきた世代としては寂しいことです。

 しかし一方で、近頃では中古オーディオの市場が静かに盛り上がりを見せているようです。たとえばヤフオクには、整備済みで動作するカセットデッキなどが現在も比較的コンスタントに出品されていて、さらにここ数年は徐々に価格が上がってきています。

 また、オーディオ機器全般に買取リサイクル業者の出品も目立ちます。特にスピーカーなど大型の商品は発送が難しいこともあり、直接引き取り限定のものも少なくないのですが、実際に買って引き取りに行くと、壁に「遺品整理士」の認定書が掲示されていました。おそらくオーディオを趣味にしていた方が亡くなって、遺族が引き取りを依頼するのでしょう。

 メルカリやジモティーでも、往年の名スピーカーなどがたくさん出品されていますが、こちらも年配のオーディオマニアの方の「終活」が少なくないようです。そしてそれらを買うのは、主にその方達より少し若いオーディオ世代なのでしょう。

 共にオーディオの黄金時代を知る世代。70代80代のオーナーから、50代60代へと託される。そんな構図なのではないかと感じます。

 大阪在住の筆者の知り合いにも、仕事用の部屋を名古屋に借りた直後から、若い頃のオーディオの火種が再燃し、一年間で数十セットのスピーカーを買いあさったSさんという猛者がいます。曰く、「ジモティーなど売り手とコミュニケーションを取ることで、スピーカーと共に思いも一緒に譲り受ける。これが楽しい」のだそうです。

 オーディオ黄金時代に青春を過ごした世代にとって、いまはあの頃の憧れが比較的安くで手に入れられるタイミングです。この先しばらく、そういった思い出のオーディオを愛でる素敵な趣味人が多くなるのではないでしょうか。

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